枝野幸男代表は27日夕、連合(日本労働組合総連合会)の神津里季生会長と都内にある連合会館で会談。神津会長からは、連合として合流新党を支援する方針を決定したとの報告とともに新党結党への懸念や留意点などが伝えられました。
会談後、記者団の取材に応じた枝野代表は冒頭、国民民主党との合流に向けて、連合の相原事務局長と福山、平野両幹事長が断続的にさまざま協議、相談してきたなか、神津会長と自身それぞれがお互いに意思疎通をしておいた方がいいのではないかとの思いから、同日会談の機会を得ることになったと趣旨を説明。その上で、神津会長からは、「26日の三役意見交換での申し合わせ事項として、連合総体として合流する新党を支援し、理念に基づき新党とともに政策実現を推進する。ただし構成組織は今、合意形成に向けた途上である」「27日午前に発表した、連合と立憲民主党と国民民主党の3者で新型コロナウイルスの感染症の収束後の社会像を描く共通理念について、新党結党後に正式に締結したい」との話と合わせて、新党の綱領を含め一定の懸念事項について、率直に意見交換をしたいとの発言があったと報告しました。
自身からは、「6月18日の連合中央執行委員会で『連合が一体となって戦っていただける構造を作っていくための努力をしたい』と話し、完全な形ではないかもしれないがここまで到達することができた。それに対して申し合わせいただいたことはありがたく、そのご期待にしっかりと応えたい。そして、一人でも多くの議員に参加いただけるように、最後まで努力をしたい」と伝えたと述べました。
その上で、神津会長からは懸念・留意事項として以下5点、話があったと報告。
(1)新型コロナウイルス感染症の不安が広がる中での景気・雇用・生活などの不安に対して、命と暮らしを守るために新党結党後も格段の努力をしてほしい。
(2)誰もが希望に基づく働き方・暮らし方を柔軟に選択できる社会変革に向け、新党としても頑張ってほしい。特にコロナに関連した差別事件、SNS上での誹謗中傷なども横行している中であらゆる差別をなくし、多様性を認め合う、公平公正なワークルールを作っていくために努力してほしい。
(3)綱領に「原発ゼロ」という表現があることについて強く懸念をしている。「将来、原子力エネルギーに依存しない社会」というのは連合の考え方でもあるが、今そこに働く人々がいることを忘れてもらっては困る。地域経済や電力の安定供給、将来にわたっての技術者の養成などスローガン的な言葉で扇動するような政治ではなく、現実的なエネルギー政策を強く求めたい。「原発ゼロ」という表現などについて、一人歩きさせないように十分な配慮を求めたい。
(4)地方連合会との関係をしっかりと新党結党に当たってコミュニケーションを取ってほしい。
(5)今回の新党の立ち上げを飛躍のチャンスとすべきであり、幅広い国民の要請を受け止める政党、左右の全体主義を排して、多様な価値観を否定せず熟議を尽くす中道の精神を重んじて、建設的な議論と民意が反映される政治を進めてほしい。
これら5項目に対し枝野代表は「認識、思いを共有し、最大限努力したい」と表明。特に関心が高いとされる原子力エネルギーに関しては、次のように強調しました。
「原子力エネルギーに依存しない社会を目指す」というのは、立憲民主党にとって大変重要な、一丁目一番地と言っていいような部分だが、国民民主党さんも、そして連合さんの立場からも、大きな目指していく方向性にはずれはないと思っている。私自身、東京電力福島第1原発事故のときの官房長官として、その初期対応に当たり、その後は経済産業大臣として原子力行政、エネルギー行政の責任者を1年半近くやらせていただいた。原子力エネルギーに依存しない社会を一日も早く実現するためにも、今現場で働いてらっしゃる皆さん、それから、原発立地地域の経済、そして廃炉を進めていくにしても、あるいは使用済み核燃料を安全に処理し、保管をしていくことについても、非常に長期の、10年単位、100年単位の仕事である。それに当たっては、意欲を持った、能力の高い技術者の皆さんが今頑張っていただくとともに、今後もしっかりと参入してきていただかなければいけないということは誰よりも分かっている1人であると認識をしている。
そうした観点からも、しっかりとした原子力エネルギーを現実的に一日も早くなくしていくためにやっていかなければならないことは、私自身が、あえて申し上げれば2011年以降一貫して考えている、申し上げてきていることと変わりない。そうしたことについて、特にそうした現場で働いていらっしゃる皆さんを代表する連合という立場からご指摘あったことはしっかりと受け止めながら、そうした皆さんも誇りと自信、安心感を持ちながらともに歩んでいける、そうしたことの中でわれわれが目指している社会を実現していけると思っている。
記者との質疑応答での主なやり取りは以下の通りです。
記者)新党の綱領にある「原発ゼロ」について、今日配られた共有理念にはこれが入っていない。立憲民主党のもともとの原発政策が後退したのではないかという印象を受けたが、基本政策に掲げている「国の責任ある避難計画なき原発再稼働は認めない」と、実効的な避難計画のない現状では「原発稼働は認めない」というのが基本的なスタンスだと思うが、ここは変わらないと理解していいのか。
代表)綱領は、政党という、あえて申し上げれば全ての国民の皆さんに向けての発信である。今日の午前中、幹事長と事務局長で確認をしていただいた理念は、働く皆さんの代表である連合の皆さんと政党、政治との間での共通のもので、当然意味づけ、役割が違う。向かっている方向は全くずれはないと思っているが、それぞれの表現が違っているのは、ある意味で文書の成立から当然のことだと思っている。
記者)今日午前中に発表された理念の中に「中道の精神を重んじる」という言葉が入り、連合としては共産党との距離感を意識しての言葉だと解釈できるが、「中道の精神を重んじる」ということについての受け止め、今後新党としてはどのように共産党との関係を図っていかれるのか。
代表)この言葉についての連合さんのお持ちの意味は、私がお答えする立場ではない。今回の「中道」、この中道という言葉は人によって使い方が違うので、もし使うのであれば、ちゃんと定義をしないといけないと、一般論として従来から思っている。そうしたことの中で、今回の連合の皆さんと今回共有させていただいた理念では、「多様な価値観を否定せず熟議を尽くすこと」を「中道」とおっしゃっているので、まさにそれはその通りで、私がずっとこの3年間言ってきたとおりだ。
記者)「原発ゼロ」の関連で、神津会長からお話があったのは「綱領を変えてほしい」といった意味ではなく、言葉が盛り込まれているけれども、「配慮してほしい」ということで、特に綱領を変えるという話ではなかった。「配慮」ということに対しては、代表は「了」とされたという認識でよいのか。
代表)はい。綱領を変えるとか変えないとかという議論は一切今日はない。綱領などについての懸念や不安についてお話をいただいた。その上で、会長からご指摘のあったのは、地域経済や電力の安定供給、将来にわたっての技術者の養成などをしっかりと配慮していく。それからスローガン的な言葉で扇動するようなことではなく、現実的に進めていかなければならない(ということ)。これはこの10年近くずっと私もそう思ってやってきている。ただ十分に伝わってない部分があるかもしれないので、そういったことはさらに配慮しなければと思う。
記者)神津会長から「原発ゼロ」という言葉に対して懸念が示されたということだが、それでも今後枝野代表として「原発ゼロ」という言葉を使われ続けるのか。また、2年前に共産党などと一緒に「原発ゼロ基本法案」を出されたかと思うが、この法案については新党結成後も引き続き維持されるべきと考えるのか。
代表)後者については、例えば「国民投票法」については、共同会派設立前の国民民主党さんが単独でお出しになっている。1つの党になる以上は、こうした今継続審議になっている法案を1度きちっと全体を精査しなければいけないと思っている。その精査の上での判断になると思っている。前者については「原発ゼロ」という言葉が与える印象が、プラスの方もいらっしゃるけれど非常に誤解を拡大させる方がいらっしゃるというご指摘については、真摯(しんし)に受け止めたいと思っている。政治家が言葉を使うか使わないとかというような話ではなく、誤解を拡大させていくというようなご懸念についてはしっかりと受け止めたい。