立憲民主党は4月3日の政調審議会で「DV防止法改正に向けて(中間報告)」を了承、今後各党に協議を呼びかけていくことを確認しました。
児童虐待防止防止法は2019年6月、児童虐待防止対策の強化を図るため改正され、子どもが虐待されている家庭では、DVが起きている事例が少なくないことなどを踏まえ、DV対応と子どもの虐待対応との連携強化が図られてました。今回の中間報告は、改正児童虐待防止法附則が、政府は改正法公布後3年を目途にDV防止法改正を要することについて検討を加え、必要な措置を講ずる旨規定されていることから、ジェンダー平等推進本部のもとに置かれたDV防止法改正に向けて検討するワーキングチーム(WT)で有識者や被害者支援団体等からヒアリングを重ね、取りまとめたものです。
中間報告のポイント、現状の法制度に足りない点等についてWT事務局長で、弁護士としてDV被害者救済にあたってきた、打越さく良参院議員に話を聞きました。
現行制度は被害者のニーズに合っていない
いまのDV防止法は、運用上あるいは法制度的な問題があって使い勝手が悪い。使い勝手が悪いのであまり使われず、使われないとニーズがないとみなさる。その結果、法改正、見直しへの機運がなかなか起こらないという悪循環になっていると感じています。
実務をやっているときは一つひとつの事件に一生懸命で法改正の提言まではできずにいましたので、実務を離れてあらためて検討できる機会があり、よかったと思っています。
現行制度の問題として象徴的なのは「緊急保護命令」(※1)がないことです。怖くて逃げてきたのにすぐに発令されず、申し立ててから平均して10日間もかかるとなると、シェルターに避難しただけでわざわざ申し立てなくてもいいと思いがちです。申し立てをすることで相手を刺激し、怒らせ、かえってリスクにさらすのではないかというイメージになっているので、何とか本来の、被害者救済に資するものにできないかという気持ちはありました。
裁判所としては、原則として適正手続(※2)の観点から相手方の言い分を聞く必要がありますが、どうしてもという場合には相手方の審尋を待たずに保護命令(無審尋の保護命令)を発することもできます(14条1項ただし書き)。しかしながら、要件があいまいなせいかそれも使われていないのが現状です。そうすると制度があるのに使われない。となると、ニーズがないのだろう、特に改正を要する立法事実がないと受け止められかねない。使い勝手が悪いという現場の実感が、なかなか共有されていません。相談件数は増えているのに申立件数は減っているという現状からしても、ニーズがないと解釈され、制度の改正につながりにくい。この悪循環を突破し、使い勝手の悪い制度を見直し、危険が切迫している被害者の救済に資するようなものにすべきだと思います。
※1 諸外国では、簡単な手続で、一時的に被害者を危険から 守るためのいわゆる「緊急保護命令」の制度を導入しているところもある。
※2 憲法31条は、「何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない」と、適正手続の保障を定めている。
目に見えない暴力も救済される対象になる
今回の中間報告のポイントとしてはまず、「目に見えない暴力への対応」として、現行のDV防止法で受け止められていない、精神的なDVを制度的にも救済されるよう、DV防止法第1条のDVの範囲(身体的・精神的・性的DV)と保護命令の対象となるDVの範囲(身体的DV・生命等への脅迫)を一致させました。
東京都・目黒区と千葉県・野田市で続けて起きた児童虐待死事件では、DVと虐待が密接に関連していたことも明らかになりましたが、精神的なDVは、被害者自身が自覚なく支配されるという巧妙なものです。警察に相談できるのは身体的なDVだけとすると、精神的なDVを重大だと被害者自身が思えなくなり、警察官や弁護士、相談員に尋ねられても、「DVを受けていません。大したことはされていません」と答えてしまう。DV被害者の多くは、夫よりも収入が低いなどして夫の稼ぎに依存せざるを得ないいこともあり、子どものために共同生活を続けようとします。そうしたなかでは、自分自身「大したことない」「つらくない」と思うことがサバイバルのコツになる。虐待死事件でも、「なんでお母さんは止められなかったのか」と不思議に思う人が多いでしょうが、それは巧妙な支配があったからです。DV被害者が事実を認識できないと、子どもの救済にもつながりません。
DVの特徴として、相手にまったく愛情がないというわけではない。赤の他人、通行人がいきなりバサっと殴ってきたらいったい何が起こったのかと驚くでしょう。しかし、夫婦のような濃密な関係ではそうならず、「私も少し言い過ぎたのかな」などとなるわけです。それでも、被害者本人が実家や友人など周りに相談をしたとき、「それはひどい」「ありえないよ」と言ってもらえば、ふと考えるきっかけになります。他方、「私だって暴力を振るわれたけれど我慢していた」「うちもそう」などと言われると、そのままになってしまいます。目に見えない暴力も救済される対象になることをしっかり打ち出し、多くの人が認識を共有する、社会全体で支援していくことが重要です。
子どもの保護を確かなものへ。加害者更生プログラムを受ける仕組みを
子どもへの支援を前文に明記することを提言しました。
悩ましかったのは、子どもを保護する観点から、保護命令の手続きの過程で子どもに意見を聞くべきかどうかということです。DVが子どもに与える深刻な影響からしても、子どもを独立の主体として認めるべきということはもっともです。一方で、実務をやってきた立場としては、家庭裁判所調査官のいない地方裁判所で実務的にどのように子どもの意見をきちんと聴きだし、その意思を反映させることができるか、組み立てが難しい。子どもの意見を聴くには、聴く方の専門性、技量も必要ですから、調査官による調査は不可欠となるでしょう。そして、保護命令の性質上、迅速さを要することから、時間もかけられません。今まで専ら家庭裁判所の実務では、子どもを両親の葛藤のただ中に放り込み、葛藤を生じさせるのは、できるだけ避けるべきという傾向にありました。実際、私も事件で何人もの子どもに会ってきて、子どももいろいろ悩んだりしていて、気持ちをくみ取るのは簡単ではないという実感があります。しかし、弁護士である私に話をするだけで、両親の紛争の蚊帳の外に置かれていて言えなかった気持ちを言えて、ほっとできたという子どもたちもいました。だから蚊帳の外に置いていていいとも思いません。そもそも子どもはDVに巻き込まれているわけですから。保護命令の場面で、母親が判断しきれないときに、子どもが「お母さん、これじゃやばいよ」と、子どもが見てきた状況を反映できることも大切だとも思います。裁判所の人員を拡充し、子どもの気持ちに耳を傾ける力のある人材を養成し配置することができれば、子どもの意向を聴く態勢が整えられるでしょう。
今回、加害者更生プログラム(※3)を基本方針や基本計画の記載事項として明記することも求めました。家庭に権力が入っていくことには謙抑的であるべきですが、DV加害者は自覚のない人が多いので、いつまでも調査研究事項のままでは前に進みません(DV防止法25条参照)。少しでも効果的なものにするために制度に組み込んでいく必要があります。各地で民間団体による加害者更生プログラムは実施されていますが、本人がやる気がなければ受けさせることはできない。受けさせる仕組みを創設する必要があります。
国及び地方公共団体から民間の団体に対する援助に「財政援助」が含まれることを明記することも必要です。民間団体は志のある人が属人的に頑張っていることが多いので、高齢化したりすると終わってしまう。これまで、やる気のある人が自力で専門性を高めて頑張ってきましたが、経験を継承していかなければならない。そのためには民間団体に対する支援を強化し、専門性をもった人材を育成していくことも必要です。
※3 裁判所命令による加害者プログラム実施は先進国の多くで行われているが、日本では行われていない。DV加害者をDV被害者から引き離してもDV加害者の行動様式が変わらなければ新たなDV被害者を生むことになり、現在いくつかの民間団体が実施している。
DV被害者が逃げなくていい制度が必要
今後、DV被害者は支援される「対象」というだけでなく、救済を求める「主体」であることを明確に打ち出すべきだと思っています。
被害者が働きながら、あるいは子どもを通わせながら、いきなり生活を変えることは、いくらひどい暴力を受けていたとしても本当に大変です。ある日出ていこうと荷物を少しずつ運び出すとか、とても怖いことだし、生活を激変させることは大変なので、では諦め、このままの生活に耐えるしかないとなりかねない。そんな被害者の相談も受けてきました。日本ではDV被害者は「逃げる自由」しか与えられていないといわれていますが、私の実感でもあります。
フランス等には明け渡し命令というかたちで、離婚が確定するなど一定期間、子どもたちと一緒に被害者がもともと居たところに住み続けられる制度があります。そうすると、生活を劇的に変えずに済むので、暴力に耐え続けなくていいのではないか、申し立てを考えてみようかという気持ちになるでしょう。所有権、占有権の関係など法制度的に検討すべきことはありますが、「被害者の居住の保護」を考えるべきです。
私のところに法律相談に来た方でも、子どもに相談したら、「(DVのある)この家庭も、ここに住み続けるのも嫌だけど、部活で今度の大会に選ばれそうなんだよ」「友だちだけが救いだから、この友だちと一緒に卒業したい」などと言われたと。そう言われると親として、子どもを無理矢理いまある環境から連れていくという決断をできなくなる人も当然出てきます。それなら緊張感はあるけれど、何とか相手の機嫌をうかがいながらやり過ごそう、我慢しようとなってしまいます。被害者が逃げなくていい、住み続けられる制度がないといけない。せめて離婚までの間暫定的にでも住み続けられる方法は検討できるのではないかと思います。
中間報告については今後、各政党に協議を呼びかけていきます。
コロナ感染拡大で増えるDV等被害者への対応を政府に求める
今、新型コロナウイルス対策で外出自粛が続くなか、世界中でDVや虐待が増えていると報道されています。先行きの見えない不安やストレスがより弱い人に向かっていく。その状況は、残念ながら日本でもあらわれています。
内閣府男女共同参画局と厚生労働省は、4月3日、感染症対策をしながらも相談や保護をするよう通知を出しています。電話相談(0120-27-9889)やメール、SNS相談も行われます。DV被害者の住民票の交付制限等の支援措置期間の延長ついては、郵送も可能となりました。しかし、立憲民主党ジェンダー平等推進本部が4月21日に要望した通り、収束するまでの間、特段の届け出がなくても無条件に延長する等すべきです。
一人あたり10万円の特別定額給付金の受給権者が世帯主ということで、DV被害者などに渡らないのではないかと懸念されました。立憲民主党は、上記4月21日の要望の中で、被害者自身が受け取れるようにすべきことを提言しました。4月22日、総務省は、4月27日以前に発生したDVでの避難事例で住民票を動かせない理由がある場合、被害者が世帯主でなくても避難先で特別定額給付金を受給する手続ができることとしました。しかし、申出期間が30日までとは、あまりに短いです。さらに、民間シェルターの証明書でも手続を可能にしたことは評価できますが、平成31年4月以降に避難した被害者に限ることはあまりに限定しすぎです。
立憲民主党として、いま必要な緊急的な要望(※4)とあわせて、そもそも足りない民間支援団体の財政的・人的基盤のための経済的支援を強化すべく働きかけていきます。
※4 党ジェンダー平等推進本部は4月21日、DV被害者たちが安全に確実に給付が受けられるよう求める緊急要望を政府に提出した。