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2020年8月25日

お茶の水女子大 申キヨン先生に聞く、ジェンダー平等のためのパブコメの可能性 #男女共同参画ってなんですか

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今後5年間、ジェンダー平等を進めるための国の方針「第5次男女共同参画基本計画」(以下、第5次計画)が今、決まりつつある。「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」政府目標、通称「202030(にいまるにいまるさんまる)」が、第5次計画の素案(※1)によって「2020年代の可能な限り早期」へと「先送り」されたニュースが話題になったのは、記憶に新しい。この第5次計画の素案は今後、パブリックコメント(以下、パブコメ)を受け付けた後、2020年度内にも完成する予定だ。

「基本計画へのパブコメは、制度化された手段としては唯一、ジェンダー平等の政策について直接行政に意見を届けられる貴重なツール」──こう強調するのは、東アジアの女性の政治参画やジェンダー平等政策を研究する、お茶の水女子大学の申キヨン教授。ただ、行政の文書である第5次計画の素案は「ジェンダー主流化」「ジェンダー予算」「ジェンダー統計」などの専門用語が出てきて、読み進めるのはなかなか大変だ。そもそも男女共同参画基本計画って何?パブコメはなぜ大事で、どう書いたらいい?──申さんに疑問をぶつけてみた。

※このインタビューは、2020年3月に収録後、電話での追加取材を行った。
※1)正式名称は「第5次男⼥共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え⽅(素案)」

「女性のための政策」「ポジティブ・アクション」だけでは足りない。見えにくい格差を掘り起こす「ジェンダー主流化」の視点を

──第5次計画の素案はパブリックコメントを受け付けるとのことですが、そもそもパブリックコメントとは何ですか?

国の行政機関が何かの方針などを決めるとき、行政手続きを公正なものにするために、事前に一般の国民から意見を集めるのがパブリックコメント制度です。第5次計画の素案へのパブコメは、9月7日まで募集しています。

基本計画は、202030のように数値目標を立てるだけのものではありません。わたしたちの働き方や教育、政治、性暴力の問題といった幅広い分野を網羅していて、日々の暮らしに直結する大事な方針です。若い世代の意見を政府に届けようと、第5次計画の素案にパブコメを送る「#男女共同参画ってなんですか」というプロジェクトも始まっています。

若い世代から第5次計画にパブコメを送る運動「#男女共同参画ってなんですか」

▼第5次男女共同参画社会基本計画素案ダウンロードと、パブコメ提出はこちらから
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/5th/masterplan.html

──基本計画がそもそもどんなものなのか、教えてください。

基本計画の位置づけを知るためには、「ジェンダー主流化」という考え方が大事なので、その話から入りましょう。第5次計画の素案の中にも、この言葉が出てきます。

ジェンダー平等を実現するための政策としては、一つ目に「女性向け」「父親向け」など特定の属性の人たちに向けたものがありますよね。例えばシングルマザーの貧困問題解決とか、父親の育児休業取得をもっと進めましょう、とか。

もう一つが、いわゆる「ポジティブ・アクション」。構成人数に大きなジェンダー差がある分野で、一定期間に限って特別措置をします。例えば女性比がとても低い国会議員の場合、少なくとも候補者の30%は女性を割り当てるなどの「クオータ制」はその一つです。

この2つでジェンダー平等の政策は十分と思われるかもしれませんが、そうではないんです。防災や防疫、交通など一見ジェンダーには関係ないように見える政策でも、たとえばその産業に従事、関係している人のジェンダー割合や、政策が及ぼす影響などを考慮すると、男女どちらかに利益や負担が偏ることがあります。

それを防ぎ、見えにくいジェンダー間の格差を洗い出して是正するため、すべての政策にジェンダーの視点を入れよう、という考え方が「ジェンダー主流化」です。ジェンダー主流化はすべての人に関係しますし、行政的にはすべての省庁が関わらないと実現できないことなんです。

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──具体的な例を教えてください。

今回のコロナ禍で出された対策は、ジェンダー主流化の視点が欠けたものが多かったですね。たとえば一人10万円の特別定額給付金が、世帯主に振り込まれた。世帯主が使い込んでしまうとか、世帯メンバーに渡さないといったことが起きましたが、主に不利益をこうむったのは女性です。夫婦のみ、もしくは夫婦と子ども世帯では、世帯主の98%は男性ですから。ジェンダー主流化の視点があれば、こういった事態は防げたかもしれません。

医療や介護の現場で働く看護師、介護士には女性が多いですよね。給与も低く、人手不足の中で通常時からギリギリの状態で働いてきた彼女たちに、十分な防護具が行き渡らず感染リスクが高まったり、慰労金の支払いが遅かったりして、過重な負担や危険がかかりました。

これから、コロナ禍からの経済再生に向けた政策がますます出てくるでしょうが、今いちばん必要なのはジェンダー主流化の視点。これがないと、今ある格差をさらに広げてしまいます。

ジェンダー主流化を進めるために、「男女共同参画基本計画」はある。必要な3つのツールとは

──ジェンダー主流化の考え方と基本計画は、どう関係するのですか?

1995年に開かれた第4回国連世界女性会議、通称「北京会議」は、ジェンダー主流化の考え方を取り入れるよう各国政府に呼びかけました。これを受けて1999年に成立したのが、男女共同参画社会基本法(以下、基本法)です。そして基本法の理念を具体化するために、5年に一度つくられるのが基本計画です。ジェンダー平等な社会を目標に、その方法としてジェンダー主流化を進めるために、日本では基本計画があるということです。

内閣府男女共同参画局の策定専門委員会が素案をつくり、閣議決定で正式なものとなった後は、それに沿って各自治体がそれぞれの計画を策定します。その後5年間の国や自治体の政策を左右しますから、基本計画はとても重いものなんです。

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──すべての政策にジェンダー主流化の視点を入れる、となるとかなり大がかりな体制整備が必要そうです。日本では、ジェンダー主流化を進める体制がどのくらい整っているのですか?

ジェンダー主流化を進めるために、必要なツールは3つあります。まず、各種統計を男性、女性、その他のジェンダー別に収集する「ジェンダー統計」。予算の立案時にジェンダーの視点を入れる「ジェンダー予算」。実施した政策の影響を調べる「ジェンダー影響分析」。こういった取り組みを監視する責任ある機関も必要で、ナショナル・マシーナリー(National Machinery)と言います。日本では、内閣府に設置されている男女共同参画局が、ナショナル・マシーナリーに当たります。

ジェンダー主流化の考え方は国際的な潮流ですが、取り組みには国によって温度差があります。日本ではジェンダー統計、ジェンダー予算を行う法的根拠や仕組みはないし、ジェンダー影響分析は徐々に縮小されてきました。内閣府男女共同参画局には、各省庁をモニタリングして勧告までする権限はありません。

──申さんは、今回の第5次計画の素案をどのように見ていますか?

ジェンダー統計や予算、影響分析といった用語が出てきますが、現実的な体制づくりはまだ不足しています。ジェンダー政策の専門家と官僚でチームをつくって、そこに大きな権限を与えるのが一手じゃないでしょうか。そして各省庁の取り組みをモニタリングして、勧告できるようにする。海外では、各省庁に専門的な知見をもつ政策監督官のようなポジションの人を置いている国もあります。

またジェンダーが女性であるのに加えて、性的指向/性自認や国籍、外国にルーツがあること、年齢、障がいなどが交差した複合的な格差、差別は深刻です。もっと踏み込んだ対策を盛り込んだ計画が必要だと思います。

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「基本計画へのパブコメは唯一、ジェンダー平等の政策について直接行政に意見を届けられる貴重なツール」

──わたしたち一般の人が素案にパブコメを送って、インパクトがあるのでしょうか?

もちろんあります。基本計画へのパブコメは、制度化された手段としては唯一、ジェンダー平等の政策について直接行政に意見を届けられる貴重なツールです。経済成長のために女性が活躍できるようにする「女性活躍加速のための重点方針」もありますが、パブコメの機会はありません。これまでも女性運動や研究者は議員や官僚への働きかけをしてきましたが、これにプラスして外部から意見をどんどん言っていくことが、行政へのプレッシャーになるんです。

緊急避妊薬をもっと手軽に手に入れられるようにするとか、女性たちがSNS上で声を上げたけれどなかなか実現しないテーマは、たくさんありますよね。今後5年間を左右する計画ですから、いま皆さんが関心を持っている事柄が、一行でも書かれることが大事です。

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──どんな書き方をしたら良いですか?

特に指定された書き方はないですから、自由に書いて大丈夫です。素案に足りないと思うことについて、具体的な要望をデータに基づいて書いても良いし、すでに書かれている内容に対して「こんな書きぶりでは弱い」とか「以前の計画より後退している」といった指摘でも良いんです。

たとえば政党へのクオータ制導入は、国会議員の間にも根強い反発があり、行政が進めにくい。第5次計画の素案でも、政党などに取り組みを「要請する」といった表現で、初めて書かれた第3次計画のときから踏み込み具合に進展がありません。こういったポイントに、「もっと進めるべきだ」といった声がたくさん集まれば、行政も前進しやすくなります。

ちょっと大変ですが、以前の基本計画と読み比べてみるのも良いかもしれません。というのも、日本の男女共同参画行政は、政治の積極的な意志があれば、かなり進めやすいようにつくられています。裏を返せば、政権の意志に進み具合が大きく左右されてしまう。「男女共同参画会議」の座長は官房長官で、出席者は各省庁のトップである大臣ですから、省庁を連携させて政策を進めやすいのですが。202030が代表的ですが、以前の計画に書かれていたことがなかなか実現しない、後退していることは結構あります。

──最後に、メッセージをお願いします。

1995年の北京会議後、諸外国では活発な市民運動がジェンダーの視点を持った官僚を増やしたり、女性議員を増やしてジェンダー主流化のための機関を設置するよう働きかけたりしてきました。パブコメとは違って直接的な意見表明ではないですが、ジェンダー平等を進めるためには中長期的に必要なことです。政党にはもう一歩踏み込んで女性を擁立してほしいですし、一般の皆さんはジェンダーの視点を持った議員を応援してあげてほしいです。

▼第5次男女共同参画社会基本計画素案ダウンロードと、パブコメ提出はこちらから
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/5th/masterplan.html

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申キヨン SHIN Ki-young

1969年、韓国釜山生まれ。お茶の水女子大学教授、女性の政治リーダーを養成する一般社団法人パリテ・アカデミー共同代表。米国ワシントン大学で政治学博士号取得。専門はジェンダーと政治、比較政治学、フェミニズム理論、ジェンダー主流化政策など。共著に「ジェンダー・クオータ:世界の女性議員はなぜ増えたのか」(2014年、明石書店)、「女性の参画が政治を変える―候補者均等法の活かし方」(2020年、信山社)など。

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