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2020年6月22日

【前編】 #KuToo 石川優実が語る。日常生活と政治の関係、そしてSNS社会運動の「負の側面」を乗り越えるには

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ハッシュタグ「#検察庁法改正法案に抗議します」をつけた多くのツイートが国会を動かした一方で、賛同した若い女性芸能人がSNS上で誹謗中傷を受ける──この一連の動きは、「#KuToo」を展開した石川優実さんが、たどっている道と同じだ。

#KuTooは、職場でヒールのあるパンプスの着用強制をやめるよう訴える運動。「靴」と「苦痛」、「#MeToo」(※)をかけ合わせた造語だ。2019年6月、石川さんがオンライン署名サイトで集めた約1万9,000筆を厚生労働省に提出してから1年が経ち、社会も政治も確実に変わってきた。

大手通信会社や航空会社が、ヒールなしの靴も選べるよう服装規定を変更。国会で複数の議員が取り上げ、安倍総理も前向きに答弁。「靴」という身近なものを出発点に、女性たちが選ぶ自由を手に入れられるようにしたい──そんな石川さんの思いは多くの賛同を得て、今も広がっている。一方、石川さんのように「もの言う女性」に対して誹謗中傷が多く向けられることは、SNSでの社会運動の「負の側面」とも言える。

#KuTooを始めるまでは政治と関わることはなかった、という石川さん。この1年で実感した「日常生活と政治のつながり」とは?SNSでの社会運動の「負の側面」に対して、政治ができることは?運動を始めて1年の節目に、話を聞いた。

※セクシュアル・ハラスメントや性暴力などの被害を告発したり、その動きに共感を示したりするときに、SNS上で使われるハッシュタグ。2017年、米国ハリウッドの映画プロデューサーによる女優やモデルなどへのセクシュアル・ハラスメント疑惑が報じられた。これを受けて女優のアリッサ・ミラノが同様の被害を受けたことのある女性たちに「Me Too(私も)」と声を上げるよう、Twitterで呼びかけた。多くの著名人や一般ユーザーがこれに応じ、世界的な運動として広がりを見せた。

「法律は変えていくものだなんて、思ってもみなかった」──#KuTooを一緒に育ててくれた、オンライン社会運動のフロントランナーたち

──#MeTooの運動が盛り上がった2017年末、石川さんは過去の性暴力についての文章を発表してから、ジェンダー平等を目指す活動を続けてこられました。そして#KuTooの運動は、2019年1月の石川さんのツイートを発端に、職場でヒールのあるパンプス着用強制をやめるよう求めるオンライン署名から始まりました。オンライン署名という方法をとったのは、なぜですか?

女性にだけヒールのあるパンプス着用を指示するのは、わたしが働いていた会社だけではありません。だから、社会通念が「パンプスでなくても失礼ではない」と変わらないとだめだ、ということは分かっていました。ただ実際にTwitterでつぶやいてみたら、すごい反響で驚きましたね。「やっぱりわたし一人の問題じゃないんだ」と改めて気づいたんです。

ツイートはあっという間に拡散され、2020年6月11時点では約3万リツイート、約6.3万の「いいね」がついている

ちょうどそのころ、週刊誌『SPA!』の記事「ヤレる女子大生RANKING」への抗議のために、大学生のグループVoice Up Japanがオンライン署名を集めていたので、わたしもこれがいいかな、と。正直、声を上げる方法はそれしか思いつきませんでした。労働組合という存在も、その時は知りませんでした。それで、Twitterで「わたしもオンライン署名しようかな」とつぶやいたら、LGBT活動家でChange.org Japanスタッフの遠藤まめたさんが声をかけてくれて、今の活動につながっていきました。

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──2019年6月に厚労省に提出した要望書は、女性にのみパンプス着用を指示することは、男女雇用機会均等法のセクシュアル・ハラスメントにあたる、労働施策総合推進法のパワーハラスメントにあたる、労働契約法および労働安全衛生法にもとづき違法、と様々な側面から具体的に訴えています。オンライン署名活動が、どのように政治への具体的なアプローチにつながっていったのですか?

Change.org Japanをはじめ、いろいろな方がサポートしてくれました。労働研究の先生たちと話をするうちに、女性だけにパンプス着用を義務付ける事業所があるのは、男女雇用機会均等法(※)に足りない部分があるからだ、だったら厚労省に要望しよう、という流れでした。

それまで法律ってほぼ完璧なもので、変えるなんて思ってもみなかったんです。わたしがおかしいなと思っていることに、まさか国が気づいてないわけがないだろう、と。法律を変えてほしいと訴える選択肢を知って、正直びっくりしました。でも一方で、自分たちの手で変えていける可能性があるなら、もっと暮らしやすい社会にできるかもしれない、と希望も感じました。

※男女雇用機会均等法:「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の通称。1986年施行。企業に対して採用や昇進、職種の変更などの場面で、女性への差別を禁止している。

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アルバイト先の同僚が突然解雇?!「法律を正しく使う」という意識の原点

──政治の分野にアプローチすることに、ためらいはなかったですか?

もちろん最初はとても緊張しました。でも、そんなに抵抗はなかったですね。思い返してみれば20代半ばのころ、法律を正しく使えば自分たちの権利は守れるんだ、と気づいたのが、#KuToo運動につながっているのかもしれません。

アルバイトとしてパチンコ店で働いていたとき、同僚が急に解雇されそうになったんです。大きな落ち度はなかったから解雇はできないはずだったのですが、それが違法だと本人も同僚アルバイトたちも、誰も知らなくて。わたしが「ちゃんと抗議しよう」と言ったら、「なんか面倒くさいやつ」みたいな目で見られてしまった。

「なんでみんな、調べたりしないんだろう」と気持ちがおさまらなくて。だからわたしが労働基準監督署とやり取りして、店長の対応は法的におかしかった、と同僚に謝罪もしてもらいました。今でもたまに当時の同僚とは会いますが、みんな当時の店長の対応のおかしさには、気づいてくれたみたいで、やって良かったと思います。

この出来事を通して、法律は正しく使えば世の中にたくさんある理不尽から、自分たちを守ってくれるものなんだと気づけました。だから法律や、法律自体をつくっている政治に対して働きかけることに、抵抗がなかったのではと思います。

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──石川さんは政治へのアプローチだけでなく、フォーマルなフラットシューズの企画、販売にも取り組んでいます。

ヒールのあるパンプス着用の強制を本当に止めたいから、必要なことは全部やろうと思っています。政治への働きかけもその一つですし、実際のファッションの選択肢を増やすことも必要なのでやっている、という感覚です。

政治に対する一般的なイメージって、力の強い人が自分勝手にその力を使う、といった感じだと思うんです。「俺の親、政治家だから」と権力を振りかざしている人、のような(笑)。でも社会には、力の弱い人が助けを求められる場所があった方がいいと思うんです。困ったとき、何かを変えたいとき、法律や政治に詳しい人に相談するのが、もっと当たり前になればいいのに、と思う。でも今、政治のイメージは本来あるべき姿の逆になってしまっている気がします。

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石川さんたちが企画、販売しているフォーマルなフラットシューズの一つ

個人がオンラインで社会活動することに潜む危険

──#KuToo運動を始めて1年、いちばん嬉しかったことは何ですか?

厚労省が作成したパワーハラスメント対策のパンフレットに、ヒールの着用強制が記載されたことです。ヒールやパンプスを履かないといけなくて大変な思いをしている人に対して、国のパンフレットに載っている、というのは問題解決のための良い根拠になります。現時点での、一つの成果だと嬉しく受け止めています。

ただ、パンプス着用強制はパワハラの側面もあるのですが、性差別の問題でもあります。政治にはそう受け止めてほしくて、男女雇用機会均等法の改正を求めています。まだ#KuTooは道半ばです。

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──一方で、運動をする中で感じた、社会の課題にはどんなものがありますか?

ひとつは、活動資金です。わたしは今まで主にアルバイトや非正規雇用で働いてきて、ヒールのあるパンプスの問題はじめ、労働法が全然守られていないような場面にたくさん立ち会ってきました。そういった実情を伝えて改善していきたいのに、社会運動に時間をとられると仕事の時間が減って、生活が苦しくなってしまいました。

それで、交通費だけでも賛同者に寄付してもらえないかとクラウドファンディングをしたんです。そうしたら、「他のことに使い込んだ」というデマをSNSで流されてしまった。明細も全部出したのですが、結局そのデマは訂正されませんでした。経済的に余裕がなくても、組織に属していなくても、社会問題にきちんと声を上げられる社会になってほしいと思います。

今話したこととも関係しますが、2つ目はSNS上でのデマや誹謗中傷です。もともとグラビアの仕事をしていたときからSNSで誹謗中傷を受けることはあり、ずっと何とかしたいと思ってきました。でも#KuTooを始めたら誹謗中傷だけでなく、デマまで流された。今のままだと、リプライを見るのが怖いから、せっかくの応援リプライも見られません。#KuTooを通じて、声を上げれば変わることがある、と希望を持ってくれた人がいると思うんです。そんな活動が、いわれのないデマや誹謗中傷によって、足を引っ張られるのは本当に悔しいです。

後編では、立憲民主党の岸真紀子参議院議員と、SNS上での誹謗中傷について語り合います。


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石川優実 YUMI ISHIKAWA

1987年、愛知県生まれ。俳優、ライター、アクティビスト。2005年に芸能界入り。2019年、#KuToo運動を始め、英国BBCによる「100人の女性」に選出。同年、「#KuToo」が「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に入った。著書に「#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム」(2019年、現代書館)がある。

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