参院本会議で30日、安倍総理の所信表明演説などに対する各党の代表質問が行われ、立憲民主党・民友会を代表して吉川沙織議員が質問に立ちました。質問全文は以下のとおりです。

 内閣総理大臣所信表明演説に対する代表質問

立憲民主党・民友会 吉川 沙織

 立憲民主党の吉川沙織です。

 私は、会派を代表して、総理に対し質問いたします。

【はじめに】

 今、世界中で、司法を抱き込み、メディアを黙らせ、憲法を変えるなど「合法的な独裁化」が、静かに進んでいます。米国では、1980 年前後から政党の極端化・先鋭化が進み、民主主義的規範が弱体化し、そして現大統領の誕生に至っています。

 これまで米国では、「相互的寛容」と「自制心」を持つという寛容と自制の規範は、「柔らかいガードレール」として機能し、党派間の闘いを避けるために役立ってきました。しかし現在は、この「柔らかいガードレール」が機能せず、米国の民主主義は、危機に直面しているとされています。

 翻って、日本でも、政党間の批判は激烈化し、一強体制の下で、国会の重要な討議機能は機能不全を起こし、公務員は上を見て忖度し、政党同士は罵り合い、最終的には、選挙制度まで数を頼んで強行採決で成立させるなど、米国と同様に、民主主義は危機的な状況に陥っています。

 明治憲法制定時の議論では、「立憲主義」と「政略主義」が対立し、政府に憲法の足枷を嵌めようとする「立憲主義」を採用し、政府が唱える大義のためには、時には手段を択ばず、憲法がその妨げになる場合には、それを蔑ろにすることも辞さない、外見的立憲主義である「政略主義」は排除されました。総理の政策実現手法は、立憲主義を蔑ろにする、明治の先人が排除した「政略主義」です。

 そこでまず、日米の民主主義をめぐる現状認識、そして、総理自身の「政略主義」に対する見解を伺います。

 森友・加計学園問題、官僚不祥事、歪な国会運営など、過去の政権であれば、何度も内閣総辞職するほどの失政を繰り返しながら、一強体制がここまで続いているのは、どのような理由によるのでしょうか。疑惑が発生すると、当初は全否定し、関連証拠が徐々に明らかになると、責任を現場あるいは末端にとどめ、客観的証拠がないとして、最高責任者は決して責任を取らないという疑惑の処理方法は、行政独裁といわれる国家に、共通してよく見られる現象です。

 そして、一つ一つの政治的行為や政治的発言について、「じっくり時間をかけてその適否や意義を吟味する」という習慣が、私たちの社会から失われつつあります。経済活動における効率性や迅速性を優先する論理を、民主主義制度、国会運営など本来じっくり時間をかけるべきで、数値化になじまない活動に持ち込み、費用対効果を最優先し、審議時間さえ消化すれば、数に頼んだ強行採決は可能であるとの論理が横行する現状について、総理は全く問題がないとお考えかご所見を伺います。

【国家戦略特区とアベノミクス】

 以下、具体例に沿って伺っていきます。

 まず、加計学園問題で話題となった「国家戦略特区」です。

 「アベノミクス」の成長戦略の一つとして、地域や分野を限定し、「岩盤規制」改革の名のもとに大胆な規制改革・緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度だとされています。それでは、果たしてどれだけ経済成長に効果があったのでしょうか。

 国家戦略特区は、「アベノミクス」の第三の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」の一つだと喧伝されました。しかし、その内容が不明確で、理論的根拠も曖昧な国家戦略特区の成果とともに、アベノミクスに関する現状での総括について、総理にお尋ねします。

【障害者雇用水増し】

 今年に入り、財務省の公文書改ざんや厚労省の裁量労働制に係る不適切データ問題など、行政文書や統計の信頼性を揺るがす事態が相次ぎました。加えて、今年8月には、国の行政機関全般において、障害者雇用の障害者数を水増し計上していた事実が発覚し、行政、統計等の信頼は地に堕ちました。民間企業に率先して範を示すべき公務部門において、法定雇用率に遙かに及ばない状況が常態化してきたことは、制度の根幹を揺るがす看過し難い事態です。しかも、先国会開会中にこれに気づきながら、立法府たる国会に報告が一切なかったことも踏まえ、その責任の所在、取り方について総理の見解を伺います。

【入管法改正と2040 年の社会保障】

 次に「外国人材」についてです。

 所信表明で、総理は、外国人労働者の受入れ拡大に意欲を示されておられます。

 これまで政府は、外国人材受入れの在り方について、移民政策と誤解されないような仕組みや国民的なコンセンサス形成の在り方などを、政府横断的に進めていくとしてきました。今回、「移民政策を取らない」という立場を維持しながら、それを骨抜きにする、事実上の「移民受入れ」に、ゴーサインを出したということでしょうか。

 「『移民』とは、入国の時点でいわゆる永住権を有する者であり、就労目的の在留資格による受入れは『移民』には当たらない」という、世界に例を見ない「移民」の定義を厳守しつつ、引き続き労働者不足に対処していくつもりなのでしょうか。

 現政権らしい、正面突破を避けた政策とも言えますが、外国人技能実習制度を現状のまま放置し、安易に在留資格を拡大することは、外国人労働者に対する人権保障の観点から問題が大きいうえ、新たな受け入れ対象となる職種もすべて省令に委ねられます。急場しのぎの労働者不足対策としか思えませんが、総理の見解をお尋ねします。

 外国人労働者の受入れ拡大については、労働市場に及ぼす影響も懸念されます。特に、私が一貫して取り組んでいる、現在30 歳代後半から40 歳代前半の、いわゆる就職氷河期世代は、今なお非正規労働を余儀なくされている者が多い世代であり、自己責任の名の下に、政治の光は当時一切当たりませんでした。労働者不足の解消を言うのなら、まずは、この就職氷河期世代の雇用確保を最優先すべきではないですか、総理の見解を伺います。

 政府は最近、現役世代の急速な人口減少という新たな局面に対応するため、2040 年頃を展望した社会保障改革について、国民的な議論が必要としています。しかし、2040年は、就職氷河期世代が現役世代から高齢者世代に移行する時期でもあります。働き盛りに正社員になれなかった世代が高齢になれば、年金も十分でなく、生活保護の受給者が増大することが懸念されます。

 2040 年頃の社会保障を展望するならば、就職氷河期世代が高齢者世代に移行する局面への対応は必須であり、生活保護等社会保障給付に与える影響額についても試算すべきではないかと考えますが、いかがですか。

 「女性活躍」と言いながら、第四次改造内閣の女性閣僚はたった1人に留まっており、「一億総活躍」にも疑問符がつきまといます。「一億総活躍」を本当に進めるつもりなら、学校を卒業しようとしたときの社会経済状況に翻弄され、能力があるのに非正規雇用でくすぶり続けている就職氷河期世代の正社員化、雇用確保に正面から取り組む必要がありますが、見解を伺います。

【消費税率引き上げと反動減対策、財政健全化】

 総理は、今月15 日、消費税率について、法に定めがあるとおり、現行の8%から10%へと引き上げることを表明されました。また、消費税率引き上げによる経済的影響を確実に平準化できる規模の予算を編成するとしています。この駆け込み需要の反動減対策は、相当な規模・内容になるとの観測もあります。しかし、それほどまでに消費の冷え込みに敏感となっているということは、まさに、今は消費税を引き上げる経済状況ではないということを自ら認めているということに他ならないのではないでしょうか、総理の見解を伺います。

 この駆け込み需要の反動減対策と財政健全化とをいかに両立しようとしているのかも不明です。政府は、従来掲げてきた財政健全化目標の達成時期を5年先送りしました。反動減対策の規模・内容によっては、ただでさえ実現可能性が疑われている財政健全化目標の達成をさらに困難なものとするのではないのでしょうか。反動減対策を講じれば、支出以上に税収が得られると見込んでいるのでしょうか。反動減対策と財政健全化目標の達成の関係をどのように整理しているのでしょうか。見解を伺います。

 また、駆け込み需要の反動減対策の規模が膨らみ、財政再建に充てられる引き上げ分消費税収を上回ることになれば、結果として、財政再建なき消費増税が行われるのと同様の効果をもたらすことになります。これを是とするのでしょうか、総理の見解を伺います。

【自然災害】

 今年は、大きな自然災害が相次いでいます。改めて、お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた皆様にお見舞いを申し上げます。一昨年の熊本地震の際は、約1カ月後に補正予算が提出され、成立しています。今回は遅きに失したと言わざるを得ません。補正予算案の提出時期の適切性について総理の所見を伺います。

 また、北海道胆振東部地震に際し、政府は、関係機関から報告された被害状況を独自に取りまとめ、死者数を発表しました。しかしながら、北海道が取りまとめた情報と食い違い、政府は2度にわたり、訂正する事態となりました。防災基本計画によれば、災害による人的被害を認定するのは市町村であり、市町村からの情報を一元的に集約し、公表するのは都道府県です。今回は、政府と北海道の情報が食い違うために、ただでさえ大きな被害が発生し対応に追われる道庁に対し、正確な情報を求めて問い合わせが相次いだとの報道もなされています。

 防災基本計画における国と地方の役割分担を蔑ろにした側面が否定できない今回の被災情報の公表について、政府の総括を伺います。あわせて、大規模災害時の情報の取り扱いに関し、国と地方公共団体の役割分担はどうあるべきか、総理の認識を伺います。

【憲法】

 そして、「憲法」についてです。

 憲法とは、権力者の恣意的な行動を抑制する「縛り」として制定されたものです。総理は、所信表明で、「憲法とは国の理想を示すもの」と全く誤った憲法理解を示しています。総理は、改憲という悲願を達成するため、真正面からではなく「政略主義」的に改正しようとしてきました。

 総理は、北東アジアにおける安全保障環境の激変を理由として第96 条の改正手続きの要件緩和を目論み、これが失敗すると、これまで確立した政府解釈を変更するなど、権力のブレーキを次々にはずし、集団的自衛権の行使容認に踏み切ってきました。そして、総理は、ほとんどの憲法学者が主張する違憲説をかわすため、頻発する大災害で奮闘する自衛隊への配慮を示し、憲法第9条の2を新設しようと考えています。

 所信表明では、「制定から70 年以上を経た今、国民の皆様と共に議論を深め、私たち国会議員の責任を、共に、果たしていこうではありませんか」とされています。なぜ改憲が必要なのか、どこに不都合があるのか、ただ制定から70 年経過したというだけで改正しなければならないのでしょうか。総理の改憲に対する基本的所見を伺います。

 また、所信表明で総理は、憲法審査会の審査の有り様に言及されました。これまで総理は度々、「国会のことは国会で決めていただく」旨答弁されてきましたが、今回の所信はこれまでの答弁と矛盾し、三権分立の観点からも問題があるのではないかと考えますが、総理の見解を伺います。

 あわせて、憲法第99 条が規定する、閣僚などの憲法遵守義務について、どう認識し、それを全うするために具体的にどのような措置をとるつもりですか。憲法遵守義務を負う総理は、自ずと改憲に係る発言について自制的、抑制的であるべきと考えますが、見解を伺います。

【立法府と行政府の在り方】

 最後に、唯一の立法機関である国会の立法行為、そして国会による行政統制という観点から伺います。立法府と行政府の関係については、これまで「束ね法案」と「包括委任規定」を問題として、議院運営委員会理事会や質問主意書等で再三にわたり指摘してきました。

 「束ね法案」は、法律案を束ねることによって国会審議を形骸化するとともに、国会議員の表決権を侵害しかねないものであること、「包括委任規定」を含む法律案は、細目的事項を具体的に明示せずに実施命令の根拠規定を法律に設けようとするものであり、法律による行政の原理の意義を埋没させるおそれがあるとともに、立法府の空洞化を招来しかねないものであるといった問題を抱えているものです。立法府に身を置く議会人の一人として、危惧を抱かざるを得ません。

 国会は、憲法上、「国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関」として、「法律による行政」の根拠である法律を制定するとともに、行政執行全般を監視する責務と権限を有しています。国会の憲法上の責務と権限を侵害しかねないような「束ね法案」と「包括委任規定」については、立法府と行政府の関係が改めて問われている今こそ、厳に慎むよう、方針を決めるべきではないでしょうか、総理の見解を伺います。

 これまで申し上げましたとおり、日本の民主主義が危機的状況に陥っている中、今一度、民主主義の意味を問い直し、法律による行政を取り戻す必要があるのではないでしょうか。

 立憲民主党は、今月3日、結党2年目を迎えました。立憲主義に基づく民主政治の原点に立ち返り、「多様性を認め合い、困ったときに寄り添い、お互いさまに支え合う社会」を実現するため、現政権と明確に対峙する「揺るぎない野党第一党」として、その責任を全うすることを申し上げて、私の質問を終わります。

以 上

【参院本会議】2018年10月30日 吉川沙織議員質問原稿案(第197回臨時国会).pdf