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2020年8月14日

地域本位の分権型社会をつくる 片山善博さん×枝野幸男代表 

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新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、都道府県知事の存在感が大きくなっています。地方自治とはどうあるべきか。民主党政権時には総務大臣も務めた、元鳥取県知事で早稲田大学教授の片山善博さんと枝野幸男代表が話し合いました。司会進行は党自治制度調査会長の西村智奈美衆院議員が務めました。

コロナ禍で見えた地方自治

西村)今回、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、国と地方の役割分担のあり方についてあらためて考える機会となりました。

片山)今回のさまざまなやりとりを見て、地方自治が未熟だなと思い知らされました。第1次地方分権改革(1999年)により、国と地方が上下・主従の関係から対等・協力の関係に変わり、「関与法定主義」と言いますが、要は国が自治体を従わせようと思ったら法律ないしそれに基づく政令の根拠が必要になりました。改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の執行において、国からの通知は助言の類ですから、本来それは聞いても良し、聞かなくても良し。その助言に従わなかったからといって不利益を与えてはいけないと法律に書いてあります。

にもかかわらず、この原則を国も、当の地方も忘れている。このことにちょっと暗澹(あんたん)としました。緊急事態宣言を発するのは国の責任と権限で、それが発せられたら都道府県知事の権限行使に移る。国にあるのは「総合調整」機能で、それ以外に知事たちの権限行使に制約はない。(東京都知事の)小池さんに至っては「社長かと思っていたら、中間管理職になったような感じ」だとぼやいていましたが、「あなたがそういう道を選んだのでしょ」と。あれが象徴的ですが、その他の知事さんたちも「国に協議せよ」との助言にみんな従いました。地方分権改革の成果に対する自覚が国にもないし、自治体側にも欠如している。情けないことです。

休業要請の解除、いわゆる「出口戦略」をめぐり大阪府の吉村知事が国に具体的な指標を示すよう国に求めたことから、西村経済再生担当大臣が「解除する基準は知事の説明責任だ」と応酬、あそこでようやく法律の解釈がほぐれたんですよ。そこで吉村さんは自分が中間管理職でないことに気が付いた。それがちょっとした希望ですね。

子どもの視点なき全国一斉休校措置

枝野)今回、緊急事態宣言に先行して安倍総理が全国の小中高と特別支援学校の一斉休校要請を何の法的根拠もなく表明しました。しかも、当時は都道府県によってはまだ感染者が出ていないところがたくさんあった。それにもかかわらずみんな従ってしまい、その流れのなかで本質的な話がどこかに行ってしまったように思います。

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片山)あれは全くもって何の根拠もないことで助言でもない。ただあの後、文部科学大臣がそれを受けて「休校にしてください」と通知を出しました。この助言を受け、本来であれば各地方公共団体の教育委員会は保護者や学校の教員などから話を聞き、それぞれ対応を検討し、「うちは感染者がいないから(休校措置を)やめよう」といった判断をしなければいけなかった。それなのに、ほとんどみんな思考停止してしまったんですよ。いま各教育委員会の議事録を興味深く読んでいますが、多くは教育委員会議すら開かないで教育長の専決処分で決めている。「暇(いとま)がなかった」という理由です。しかし、敵が攻めてきたわけではないですから、一日を争う話ではないですよね。でも多くは教育長の専決処分で決めていて、後日報告です。まさしく教育委員会は思考停止です。

西村)地方教育行政の点からも、科学的な知見に基づいていたのかという点からも、子どもの視点が反映されていたのかは疑問です。

片山)おっしゃる通りで、教育委員会にとって休校を決めるのは大事件です。児童・生徒の教育権を奪うことですから。にもかかわらず、言い草はみんな一緒で「総理の方針が出たから」「文科省から要請が来たので」と教育長が独断で休校措置を決めた。「本来ならば教育委員の皆さんに集まっていただいて、審議の上決めるべきところでしたが、暇がありませんでした」。みんなこれです。

国の助言「37.5度以上4日以上」に縛られた自治体

西村)今回、PCR検査が進んでこなかったことの背景には国と地方の関係があると思っています。「小さな政府」への動きのなかで全国の保健所は大幅に削減されてきた。職員の方も非正規が増え、検査技師は減っています。そうしたなか地方衛生研究所か保健所で検査をやれと言われても保健所ではほぼ対応できません。結局、地方自治から保健行政を取り上げてしまったことで、地方は対応をしたくてもできなかった面もあるように思います。

片山)それは、同感する面と、ちょっと異論があるところがあります。この間、無理な行革で全国の保健所の削減が進んだ、保健福祉センターへと格下げされたことで権限がなくなるなど、検査能力自体が落ちていることは確かです。それ自体は国が音頭をとったものですが、自ら考えることなくそれに唯々諾々と従ってきた地方の姿があるわけです。ここでも思考停止です。国から「集中改革プラン」の策定を求められ、みんな「5%削る」と作って出したんです。出さなかったのは(自身が知事を務めていた)鳥取県だけですよ。ですから、国が主導して進めた削減路線に自治体の方が脆くも応じてしまったため、今日の貧相、貧弱な体制になったという側面があります。

もう一つ、今回のPCR検査をめぐっては、相談・受診の目安として厚生労働省は「37.5度以上の発熱が4日以上続いた場合」との基準を示していましたが、あれは厳密に言えば都道府県および政令指定都市などの保健所設置自治体に対する助言です。不安になった人々がどっと病院に押しかけると、そこで感染の危険性が高まるので家にいてくださいという、国民向けのメッセージでもあったとは思いますが、検査の主体である県や保健所設置の自治体は自分たちで判断することなくこれに助言に従った。地域でクリニックのお医者さんが「この人は検査した方がいいですよ」と言っても、保健所は「まだ発熱が3日ですよね」などという馬鹿げた対応を繰り広げたのは、自治体が厚労省の助言に縛られてしまったからです。自治体はそれに縛られる必要はなかったんです。

実際、縛られなかったところがあるんですから。和歌山県では仁坂知事が最初から「こんなことをしていたら市中に感染する」と、必要な検査はすべてやるように指示をした。和歌山のようなところがあったのは、私は朗報だと思っています。一方で、金科玉条でずっと検査をしなかった典型例が東京都です。最後になって加藤厚労大臣が「あれは基準ではなくて目安だった」と発言して失笑を買いましたが、実は加藤大臣の発言は正しい。県に対する目安を示したのですから。

私がもし知事だったら、コロナは人獣共通感染症2ですから家畜衛生保健所を動員し、地元の鳥取大学の医学部に協力を求めたでしょうね。その気になれば保健所の検査能力の限界を乗り越えることはある程度はできたはずです。

地方財政の悪化を受け、総務省が全国の自治体に平成17年(2005年)度中に公表するように求めたもの。

動物からヒト、ヒトから動物へと広がる病原体によって引き起こされる感染症。

住民が安心して暮らせる環境を作る

西村)代表は今回、コロナを経験した今考える政権構想私案を示されました。

枝野)結局、自己責任や自助では回らないことがたくさんあることを今回あらためて突き付けられました。感染拡大を防ぐためには自分だけでなく、社会全体でやらなければいけない。社会全体が「ステイホーム」を呼びかけられているときでも、医師をはじめエッセンシャルワークの人たちは働かざるを得ないわけです。社会は「お互いさま」で支え合っていることをあらためて実感したと思いますので、政治や行政がそれを維持できる仕組みを作る必要がある。そのためには、命を守るための医療や介護の充実と同時に、もう一つ、過度な一極集中や大きすぎる地域差、東京の過密問題を解消するために、地方で暮らせるように国サポートすること。これをしっかりやれば否応なく人が地方に戻っていくのではないかという思いがあります。医療や介護、保育、教育など、地域によって事情が異なるなか、東京の基準で考えるのはやっぱり違うよねと。

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西村)政府は高齢者人口がピークを迎える2040年頃を見据え、中核的な市を中心に複数の市町村を束ねた「圏域」を新たな行政単位に位置づける議論を進めています。確かに、東京からは見栄えがいいかもしれませんが、実際に住んでいる人たちの住民自治という観点からはどうなのかと思っています。

片山)東京目線と言うか、自治体を中央レベルで扱いやすいようにするという発想ですよね。自治体の存在意義、ミッションは、その地域の住民が安心して暮らせて、安定して生業に勤しめる地域環境を作ることです。国の言うとおりに従うのではなく、地域本位に、自分たちにとって何が必要かを考えてほしいです。

地域主権改革の理念が求められている

片山)今回、9月入学の話が出ましたが、あれも東京の論理です。東京の子が学校に通えていないのは不公正だと言い、そこに大学の9月入学を絡めて仕立てましたが、私はそのときこれは良い機会だなと思いましたね。東京にいると損をする、教育を受けにくい環境だとなると地方がいいねということになる。東京一極集中の是正につながるじゃないですか。 もう一つ、東日本大震災があった時には東京の人は誰も「宮城や岩手や福島の子がかわいそうだから、9月入学にしようか」とは言わなかった。地震があったのは3月11日で、4月から新学期というなか学校がなくなり、親が亡くなった子どももいっぱいいたわけですよ。でも、誰もそういう同情を示さなかった。今回東京で休校が続くと、それを全国的な問題にしようとする。とても不公正と言うか、視点が偏っているなと呆れました。

西村)本当にそうですね。結局自治体が国の下請けをさせられ、それに対して国に何も言わない、言えない状況にさせられてしまっているのかなと感じました。

枝野)今回の新型コロナ地方交付金3兆円については、使途をあまり限定していないので、自治体ごとの状況に合わせて工夫して使ってもらえればいいと思うのですが、実際はどうなんでしょう。

片山)使途に制限はつけていませんが、根っこのところでどこに配ろうかなという恣意性、裁量性があります。コロナ対策であれば東京都がダントツで多くないといけないのですが、ものすごく少ない。3兆円のうち500、600億円程度です。

西村)あれもどうやって配ったのか全然分かりません。

片山)それは鉛筆をなめて、結論を決めて、結論にあうように基準を決める。加計学園に決まった、あのやり方です。そうした仕組みのもとでは、自治体は国の顔色を窺うようになってしまいます。

分権的な立場で考えると、そもそも地方財政法という法律があり、そこに国と自治体との経費の負担の持ち合い方がルール化されています。そこには感染症の予防に関する経費についても明記されている。国が8割出す、あるいは3分の2出すと、鉛筆を舐められないようにルール化しなければならないと規定しています。それが地方財政法の原則で、これがまさに国と地方の関係を分権的に定めた法律上の表現です。みんなこれを忘れています。

枝野)やっぱり制度ですね。意識も大事だけれど制度がちゃんとしてないといけない。

地方財政法第11条 国と地方公共団体とが経費を負担すべき割合等の規定 第11条 第10条から第10条の3までに規定する経費の種目、算定基準及び国と地方公共団体とが負担すべき割合は、法律又は政令で定めなければならない。

主体的な自治体の取り組みに光を当てる

西村)最初の話に戻りますが、今回見えた希望を現実のものにしていくために、国会として、立憲民主党として、どのような取り組みが必要だと思われますか。

片山)例えば、実践という意味では、今回のコロナ対応について国会で検証する機会をいずれ作らないといけません。政府、自治体の対策それぞれについて検証する。国会活動のなかで、例えば参考人質疑などで全国のいい事例について、PCR検査を最初から主体的にやっていた和歌山県の知事を呼んでクローズアップする。他の県がみんな縮こまっていたなか、どういうプロセスで行うことにしたのかはとても参考になると思います。それから、長野県は県独自に「新型コロナウイルス感染症等対策条例」を作りました。国が適切な対策を講じないときのために、独自で手が打てるようにしようという趣旨だと思います。

そういう動きをこまめに取り上げ、国会で光を当て検証する機会を作る。具体例を紹介し、分かりやすくしていくといいのではないか思います。

和歌山県の知事の記者会見は出色ですよ。新規の患者が出たり、容態に変化が起こったりすると、毎回丁寧に記者会見をする。質問が途絶えるまでしっかりやる。安倍さんの対極のような姿を見ると「ああ、この知事は本当にしっかりやっているな」と。だから今回のコロナの問題、和歌山県民はよかったなと私は思いましたよね。そういう県もあるんです。

学校の全国一斉休業問題でも、いろいろ調べていたら、長野県の松本市の教育委員会はちゃんと審議をしている。委員もしっかり「子どもの居場所がなくなる可能性があるから、親御さんも困る。そのへんはよく点検した方がいい」などと問題点を指摘し、結果として「学校は全て休校だけれど、学校のなかで預かる、密にならないように居場所を作ることも検討します」などとなった。やっぱり教育委員会を開けばみんなの知恵が出てくるわけです。

地方議会は不要不急の存在か

西村)地方議会では「執行部に協力する」として議会を縮小したところもありました。政令市でも、首長から「対応が大変だから議会を休ませてほしい」(苦笑)と申し入れがあり、与党の議長が応じて1週間くらい審議が行われませんでした。

片山)それは図らずとも、地方議会は不要不急の存在だということを自他共に認めたということですよ。これを機に地方議会のあり方を見直すべきだと思います。

実は今回は、やるべきこといっぱいあったんです。1つは先程話した独自条例を作ること。例えば、山形県と岡山県では県外からの来訪者に対して検温を行おうとしましたが、こうした人の権利を多少制約する施策は条例を作った上で実施すべきです。検温実施条例。そういう、今回ならではの立法活動はいっぱいあります。

もう1つは公聴機能です。例えば、「10万円が来ない」と言われているのはどこに問題があるからなのか。また、マスクでもいいですが、国や県、自治体の取り組みに対して住民の不安や不満があれば、それを地方議会が聴くことです。参考になることは意見書を出すとか、オンライン議会を開いて公聴会をやったらいいわけです。

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枝野)今回難しいと感じたのは、国の助言や通達が全然現場に降りていなかったということです。国から来るのを待っていたのではさばけなかったというのが実態ではないかと思います。自分たちで考えてやる方が早いという意識に変えていく。議会のなかでわれわれの仲間が積極的に発言していかないといけないですね。

自治意識を広げ一極集中を是正する

片山)自治体の存在意義、ミッションは、その地域の住民が安心して暮らせて、安定して生業に勤しめる地域環境を作ることです。国の言うとおりに従うのではなく、地域本位に、自分たちにとって何が必要かを考えてほしい。私は、コロナはそのいいきっかけになると思っています。

というのは、「地方創生」という国が仕立てた政策課題に日本各地で取り組みましたが、ほぼ全滅です。なぜかと言うと、みんな判でついたようにインバウンドを掲げていましたが、観光振興は当面全滅です。交流人口の拡大で地域経済の活性化を目指していましたが、今はそうした状況にはありません。これは自分たちで考えなかった結果です。だからやはり、国から言われたことをそのまま受けるのではなく、地域で自分たちの知恵袋を持つ。地元の大学の教授でもいいし、地域にはいろいろ知恵がありますから。そういう意識を持った自治体、地域が増えることが東京一極集中を是正する一番の原動力だと思います。

だからちょっと難しいのですが、国政政党が何かをしようというと矛盾になるんですよ。国の政党としては、そういう風潮を助長することです。自分たちで考えざるを得ないような制度をその都度作っていくことが重要だと思います。そういう意味では、民主党政権時の一括交付金などは「どこに使おうかな」と考えざるを得ない制度です。そういう環境が育ってくるように、面倒を見たりサポートをしたりするのが、特に野党の大事な役割ではないかと思います。

西村)地方自治は人づくりでもあり、そういう人たちを育てていく風潮をつくることかとも思います。われわれ自治制度調査会もまだ立ち上がったばかりですが、しっかり発信していきたいです。

枝野)分権の話は社会のあり方の問題で、社会そのものが分権的な構造を必要としている時代状況にあります。それをいかに先取りして、地域にもそういう意識を持ってもらい、それができる制度にしていくか。人々はそうした構造の社会を求めていると思っていますので自信をもって進めていきます。

その地域に訪れる(交流する)人のこと。その地域に住んでいる人、「定住人口」(又は居住者・居住人口)に対する概念。

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