衆院予算委員会で21日、2018年度総予算に関する中央公聴会が開かれ、法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子氏らが公述人として意見陳述しました(原稿と配布資料は下記PDF参照)。
上西公述人は、裁量労働制の労働時間の実態把握をめぐる問題について、「単にデータの不備という問題ではなく、政府の審議会における政策立案プロセスの問題や、政府の国会対応の問題を凝縮して示してみせた事例だと考えている」と指摘。そのうえで、裁量労働制について、「あらかじめ決められた『みなし労働時間』について賃金を支払うもの。そのみなし労働時間を超えて働いたとしても、残業代の支払いがなく、裁量労働制を拡大することは、違法状態の合法化につながる」との認識を示しました。
裁量労働制の労働時間については、今回問題となった「平成25年度労働時間等総合実態調査」の比較データとは別に、厚生労働省の要請に基づいて実施された2014年に労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査に言及。そこでは、(1)企画業務型裁量労働制のもとで働いている労働者の1カ月の実労働時間が、通常の労働時間制のもとで働いている労働者の実労働時間よりも長い傾向が見て取れること(2)平均労働時間で見ても、企画業務型裁量労働制の方が労働時間が長くなっていること――から、「政府答弁の内容とは反対の傾向を示している」と指摘しました。
データ比較の問題点として、(1)「厚生労働省の調査によれば」と総理は答弁したものの、調査結果そのものでないこと(2)労働時間の平均を比べたものであるかのような答弁をしたが、これは「平均的な者(しゃ)」についてのデータであり、加藤厚労大臣は2月8日になってから「平均的な者(しゃ)」と、言及の仕方を変えていること(3)一般労働者の「平均的な者」の労働時間の9時間37分は実労働時間ではなかったこと(4)その9時間37分という労働時間の算出に「最長」の1日のデータが使われたこと(裁量労働制の方は「最長」の1日について尋ねているわけではない)――等を挙げました。
比較データの不適切さが明らかになるなか、政府が主張するような、労働政策審議会(労政審)で適切な審議が行われたと判断することはできないとも指摘。政策立案プロセスや国会審議を正常化するためにも、裁量労働制の拡大と、同種の趣旨の高度プロフェッショナル制度の創設は一括法案から外し、あらためて検討プロセスをやり直すことと、今回の事態に至った原因究明と再発防止を政府に求めました。
公述人の意見陳述に対して、落合貴之議員は(1)第2次安倍政権での天下り規制(2)法人税の租税特別措置の在り方(3)働き方改革をめぐる調査の信憑性――等について、岡本あき子議員は(1)「平成25年度労働時間等総合実態調査」のデータの取り方およびデータを検証できない状況になっていること(2)労政審の審議への影響(3)裁量型労働制の労働者の勤務実態――等についてそれぞれ質問しました。
2018年2月21日衆院予算委員会 上西充子公述人意見陳述原稿
2018年2月21日衆院予算委員会 上西充子公述人意見陳述配布資料