少子高齢化、グローバル化、急激な人口減少──山積みの日本の課題に、全国の地方自治体は危機感を強めている。「地方創生」が叫ばれる一方で、2020年のオリンピックに向けて、大都市圏への一極集中は進むばかりに見える。


「2019年は日本のターニング・ポイントになるはず」
春の統一地方選について語る中で、立憲民主党の代表、枝野幸男はそう言った。1年半前に誕生したばかりの、小さな野党第一党。この間、各地を飛び回って感じたのは、地方が抱える危機感の大きさ。そして、「新しい政治」を期待するこれまでにない「うねり」だという。

「トップダウンですべて決めてしまう政治のあり方に、多くのひとが疑問を持ち始めている。地域の多様な魅力やストーリーを活かすような政治がつくれれば、日本の可能性はもっと引き出せる」

「多様性を誇りに・分かち合うことを力に・支え合うことを安心に」──。先日発表された立憲民主党の新ポスターにはそんな言葉が踊った。多様性を誇り、公正な経済を力強く再建し、安心できるセーフティ・ネットを再構築する──だが、そのビジョンはどうやれば実現できるのだろう?

「すぐにすべてを変えられるわけじゃない。でも、2019年から政治の流れが変わった、あとからそう言われる年にしたい」

国会日程をこなしつつ、忙しく全国を飛び回る中、動画撮影の合間にロング・インタビューを行った。

「平成の停滞」を抜け出す──「今だけ・カネだけ・自分だけ」の限界


──今年の5月には元号が変わり、30年あまり続いた「平成」という時代が終わります。枝野さんからみてどんな時代だったと思いますか?

一言でいえば、「停滞の時代」だったと思います。バブルの崩壊後の30年間、昭和の高度経済成長期のモデルを抜け出すために、色んなところで「改革」が叫ばれた。もちろんうまくいったところもあれば、失敗したところもある。僕自身も、政治家になったのは、1990年代の「政治改革」がきっかけです。でも、社会全体としては「右肩上がりの時代をもう一度」という幻想から抜け出せずに、日本が活力を失っていった。

──最近では、公文書改ざんや統計不正など、国家としての信頼を揺るがすような危機的な問題も連続しています。

最近、ある人が言っていたんですが、現在の日本は「今だけ・カネだけ・自分だけ」の世界になってきている、と。僕もそう思います。もちろん社会に余裕がなくなれば、そうした風潮は少なからず蔓延する。でも、今は政治がそんな態度を率先して取ってしまっている。権力を持っている人間がどんな悪事を働いても開き直って責任を取らない。
これでは日本社会全体に計り知れない悪影響を与えることになる。そう多くの人たちが気付き始めている。「政治を変えないといけない」と感じている人も増えているはずです。


「多様性・分かち合い・支え合い」こそが日本が進むべき道

──統一地方選、参議院選にむけた立憲民主党のビジョンは「多様性を誇りに/分かち合うことを力に/支え合うことを安心に」です。込めた気持ちを聞かせてください。

日本の最大の課題は、大量生産・大量消費型の昭和モデルに代わる、新モデルを作り出すことです。そのベースになるのが「多様性・分かち合い・支え合い」の考え方なんです。
一つは、多様性。女性や若者、子どもたち。LGBTを始めるとするセクシュアル・マイノリティや障がい者の方々。これまでの政治が注目してこなかった多様性、それ自体に積極的な価値を認めること。誰もが自分らしさを発揮できるような社会にしなければ、次世代の日本を引っ張っていく可能性は生まれない。 二つめは、分かち合いの経済。今は一部の人たちや企業にだけお金が偏っている。持続可能な成長をしていくためには、再分配によって中間層を復活させる必要がある。つまり、「ふつうの人たち」が希望する教育を受け、働いて、望むなら子どもを持てる社会を取り戻す。フェアな経済政策をとることなしには、日本経済の再生はできない。 三つめは、支え合う社会保障による安心。いまは非正規雇用と正規雇用、子育て世代と老年世代、東京や大阪といった大都市圏とそれ以外の地方…という分断が広がってます。こうした世代や立場による分断を超えて、安心して支え合えるような社会保障を、なんとか再構築する。 この3つは、「そうなればいいね」という「理念・理想」という意味じゃなく、「こうしないと今後の日本はもうもたないぞ」というくらいの、強い危機感を持って言っています。


地方創生のその先へ──「地域」と「社会」への投資が好循環を生む

──枝野さんからみて、3月からの統一地方選の意義を教えてください。この5年ほど、「地方創生」が進められてきましたが、そろそろ限界がきているように思えます。

さっきも言ったように、現在の政治は地方政策の面でも、昭和のモデルを脱し切れていない。「地方創生」はいってみれば、中央からのトップダウンで、かつ画一的な開発型。同じ財政出動でも、もっとリアルに、若い人たちや子育て世代が十分な給料をもらって、その地域に住み続けられるような仕組みを構想しなければいけないと思います。

──そのためにはどのような施策が必要ですか?

まず鍵になるのは、公共サービスの拡充です。介護や保育といったケアワーク、図書館司書や学校の先生などの教育分野、それに児童相談所などの公的機関も。こうしたサービスの拡充は、地域で生活するうえでの安心につながる。そこで働く人たちが地域でお金を使うことで、地方経済を回すベースになっていく。


──そういった政策の核にあるのは、どんな考え方ですか?

シンプルなことです。高齢化が進む中で、介護などのケアワークは必ず需要が伸びる分野。しかしそこで働く人たちは非正規雇用か、正規雇用でも賃金が低い。であれば、まずはその分野の労働環境を改善する。そうすれば、働く人たちが家庭を持ち、いずれは子育て分野の需要が生まれるでしょう。 教育だって、今は教師に過剰な負担を強いている部分があるのなら、その仕事の一部を外部化して関わる人手を増やす。同時にその新しい人材にも、未来の展望を描けるだけの賃金を払う。 それが好循環を作り出す第一歩です。かつて「公共事業」に対する「人への投資」ということが叫ばれましたが、そこには「社会や地域をどう活性化するか」という視点が欠けていた。僕らは言ってみれば、「社会」や「地域」に投資することで、日本全体が好循環へと向かえるようなビジョンを持っています。


目指すべきは地域ごとの多様な発展のビジョン

──特に人口流出や過疎化に危機感をおぼえている地域ではどうでしょうか?

まずは農業などの一次産業が成り立たないと、人口流出は解決しません。一部では「稼げる農業」といった声もあります。もちろん、純粋にビジネスとして成功する可能性のある分野ではどんどん挑戦してもらいたい。でも、農業を単純にビジネスとして考えたら、それに対応できるのは国内の農家のうち1、2割でしょう。
農業には、作物をつくってお金を儲ける以外にも、災害防止や安全な水の管理、里山の管理など、幅広い役割がある。つまり、「この地域をどのように発展させたいのか」というビジョンが必要なんです。農業分野単体で議論するのではなく、そうしたビジョンの中に個別の政策を位置付けていくことなしには、多くの地域は置いていかれてしまうでしょう。


──そうしたビジョンは地域ごとの多様性を反映したものになっていくのでしょうか?

農業だけでなく、地産地消のエネルギー、独自の資源を活かした観光といった分野は、地域ごとの多様性なしには語れません。東京といった大都市圏に出てこなくても、地域で子どもが育ち、高等教育を受け、そこで仕事をしていける環境をつくる。同時に、もっと地域ごとに多様な発展のビジョンが模索されるのが自然だと思います。
少子高齢化がこのまま進み続ければ、存続が難しい自治体も出てくるかもしれない。だからこそ、日本はそれぞれの地域がそれぞれに多様な発展のビジョンを追求する方向に、早目に舵を切らなければいけない。

今年2月、参議選挙の予定候補である小田切さとると青森県の視察を行った。政治日程にあわせて地方を訪れた際には、必ず地域の実情をできるだけその目と耳で知るように努めている。


──現在の地方政策に対する反発のようなものは、各地域を回っていて感じますか?

そう。東京中心で、「効率性」だけを追求すれば地域が成り立たなくなるというのは、地方の人たちは「平成の大合併」の時に気づいていると思う。全国を回っても、人口減少が進んでいる地域では特に、今の政権への不信感が溜まっていると実感しています。


地方組織づくりは「ゼロからの挑戦」──上から目線のやり方は絶対にしなかった

──結党から1年半ほど経ちました。この間、立憲の地方組織は42になりました。

なにしろ2017年の10月には、ウチの地方組織はゼロだったわけだから。僕らはまだまだ小さな政党とはいえ野党第一党。現在の政治とは違う、新しい政治の流れを作るには、東京や大阪といった大都市圏だけでなく、日本全国の声を聞かなきゃいけない。国会の論戦と並行して、北は北海道から南は沖縄まで、各地を飛び回っていました。

2018年、国会議員のいない宮崎県での地方組織の過程を追ったドキュメンタリ『この地に生きる ここから始める』。

──新しい政党として全国に地域組織を作っていくうえで、気をつけていたことはなんですか?

「とにかく組織を増やそう」という上から目線のやり方は絶対にしなかった。「どんな人たちと繋がりたいのか?」。そして「その地域でどんな課題を解決し、どんな挑戦をしたいのか?」。時間はかかっても、そこを大切にしていました。これまでの政治が見落としていたような地域のリアルな声を丁寧に聞き、新しい政治を住民とともに作り上げる。それが僕らの「ボトムアップの政治」です。


まったく新たな層からの期待──「立憲民主党がなければ、政治そのものにコミットしなかったんじゃないか?」

──様々な地域を回って印象的だったことを教えてください。

驚いたのは、地方都市にいっても、今まで政治に関わらなかったような人たちが集まってくれていること。選挙ボランティアをやってくれている人も、街頭に集まる聴衆も。
そしてなにより…選挙で立候補しようとする議員が変わったね。政治経験はないけれども、みんなそれぞれの現場での経験とストーリーがある。「立憲民主党がなければ、政治そのものにコミットしなかったんじゃないか?」って思うくらい新しい層です。しかも、そうした候補がすごく大きな期待を受けて上位当選していった。


──具体的にどんなケースがありましたか?

たとえば愛媛。松山で市議会議員選挙があったんだけれど、若い候補が立候補してくれて。彼は高校卒業と同時に松山を離れていたから地元ではまったくの無名。でも、松山から若者が出て行ってしまうことに、彼自身の経験も含めて、強い危機感を持っていた。「どうなるかな」と心配していたら、独自のネットワークをつくって、あっという間に当選してしまった。
東京だと、町田市の女性候補の方も。彼女は必ずしも豊かではない環境の中で育って、「かつての自分のような境遇のひとがいたら、その力になりたい」と立候補した。スピーチを聞いていても、政治家としての演説が上手いとか下手だとかとは別次元のリアリティがあった。それは彼女ならではの説得力なんです。 そうした新人の方がちゃんと力を発揮できるように、僕らも気を引き締めなきゃいけない。特に女性候補へのハラスメントを防ぐような体制整備も、急ピッチで進めています。

2018年2月、町田の東友美の市議会議員選挙の応援演説での一コマ。


新人も、無所属の現職も。多様な人材が立憲というムーブメントに加わりつつある

──今回の統一地方選の候補者の方々はどうでしょう?

多様な経歴のみなさんが、それぞれの現場からの視点を持ち、これまでの政治を変えようと立ち上がってくれています。車椅子の候補者の方もいますし、視覚障がいや聴覚障がいを持たれている方もいる。LGBTを始めとするセクシュアル・マイノリティの当事者の方もいます。
興味深いのは、たとえば僕の地元で立候補を予定してくれている車椅子の方は、これまでも無所属議員として活躍していた方なんです。従来の政党とは距離を取ってきた無所属の方が、「立憲なら自分の理念を実現できるんじゃないか」と期待して、所属してくれた。 新人にせよ、元無所属候補の方にせよ、立憲はこれまで政党政治とは距離を取ってきた多様な人材の受け皿となるような、そんなムーブメントになりつつあるんじゃないかと思います。


──地域によってばらつきはありますが、立憲は女性候補の割合も比較的高いです。

そうです。どこの地域でも、育児中の女性が何人も、候補者として頑張ってくれている。今の日本社会は、「女性の活躍」が言われながらも、女性が社会で一歩前に出ようとすると、様々な壁にぶつかります。そうした女性のリアルな声を反映できるようにしていきたい。もちろん、踏み出した女性たちをサポートする体制も、しっかり考えなければいけないと気を引き締めています。

地域のストーリーにこそ、日本の可能性はある

──立憲の「多様性・分かち合い・支え合い」のビジョンからいえば、地方というのはどう位置付けられますか?

成熟国家である日本は、グローバル化の中で「安い人件費で、同じものを大量につくる」という勝負では新興国には勝てません。日本にしか作れない、ユニークな付加価値を生み出さなければいけない。
個人のレベルで言えば、個人が自分の個性や可能性を最大限に追求するには、保育、教育、介護、医療といった、支え合いと分かち合いの仕組みが必要なんです。「失敗したらすべて自己責任」なんて考え方では、新しいアイデアや独創性のあるチャレンジはでてこない。
それは地域も同じです。それぞれの地方が、地域性やその歴史を踏まえた、多様な発展モデルを追求できるような環境を作っていきたい。


──そうした中央と地方の関係が準備できた場合、地方はどのように発展しますか?

今の「とにかく効率性をあげてお金を稼ぎなさい」というだけの薄っぺらな競争ではない、もっと魅力的な地域間競争が生まれるはずです。地域の方々が、その地域の潜在的な価値を再発見し、その土地ならではの可能性を模索するプロセスをともに作りあげたい。
全国を回っても、やはりその土地土地には固有のストーリーがあるんです。そうした地域の多様性には、一極集中的な価値観からは生まれない、多様な可能性が秘められている。その可能性こそが、次の時代の日本を引っ張っていくんだと信じています。


沖縄・大阪・被災地──流れを変えるのは2019年だ

──沖縄県の辺野古の埋め立てなどの現在の政治の動きを見ていると、地方自治の理念を真っ向から否定していると感じます。

今の政権は、「中央の言うことを聞かない地方は敵だ」くらいの認識でしょう。多様性や独自性を尊重するどころか、その尊厳を平気で踏みにじるようなことをやっている。辺野古の新基地については、翁長前知事もデニー新知事もそうだし、最近では県民投票でも、明確にNOの意志が示されている。
むろん安全保障をどう考えるかというのも大事な国の仕事です。だからこそ、アメリカも含めて交渉のテーブルを再セットして、政府が責任を持って北東アジアの安全保障体制についてリードしていく姿勢を持たなければならない。

今年初めの沖縄訪問では、辺野古の現場を視察するとともに、那覇市内でタウンミーティングにも臨んだ。

──同時に、大阪ではW選挙が決まりました。大阪では10年ほど、メディアで大きく取り上げられるような劇場型の政治が続いてきて、教育や福祉、暮らしの現場では色々な軋みが出てきていると聞きます。

大都市の政治は、特にメディアの影響が大きい。いろんな問題を一発で解決してくれそうな政治家に期待したくなる、地元経済の疲弊や閉塞感もあるでしょう。でもそこでは、医療や介護、子育てや教育、環境といった地に足のついたテーマは見過ごされがちです。

僕ら立憲民主党は地方自治の王道を歩みたい。地方自治の王道というのは、「現場の声や、野心的なチャレンジを、住民と一緒に作っていく政治」。うちの大阪の自治体議員候補たちは、半分くらいが女性です。すごく活発な空気がある。

──今年は東日本大震災から8年経ちます。

ハード面での復興は進んではいますが、これからはより目に見えいくい部分での、細やかなサポートが重要になってくると考えています。コミュニティやネットワークがうまく活性化されなければ、インフラだけ用意されても、その場所で生きることは難しい。そういう状況をリアルに見て、政治が必要な支援をできるようにしなければ、という危機感があります。

2018年の10月3日には、1年前の結党時にたった一人で街頭演説に臨んだ有楽町の街頭に立った。


──最後に読者にメッセージをお願いします。

平成の30年間は、社会の様々な場所で生まれてくる可能性に、政治が追いつけなかった。改元は時代を映す一つの区切りです。そろそろ次の時代に踏み込みたい。もちろん今の日本の状況は簡単には好転しません。でも、振り返って「あの時にみんなで協力して可能性を模索し始めたね」と感じられる年にしたい。
その第一歩が地方選挙というのは、とても象徴的なことです。僕ら国会議員だけでは新しい時代の政治は作れない。全国のあちこちで、それぞれの地域が第一歩を踏み出す。そんな春にしたいと考えています。