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2018年3月19日

立憲民主党はどこからきてどこへいくのか 後編

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昨年の総選挙直前に誕生した立憲民主党。告示の1週間前に結党されたのにもかかわらず支持が急伸したのは、これまでの政治とは違う「なにか」を期待されたからだったはず。2018年の立憲民主党はどんなビジョンを描くのか。──ロング・インタビューの後編は、立憲民主党の「現場」、原発ゼロと憲法改正、そしてその先の展望について。

国会どうでしょう?

──2018年の国会が始まりました。改めて感触はどうでしょうか?

代表質問をして感じたのは、やっぱり安倍首相は現場が見えてないよね、ってこと。もちろんそれは、この5年間ずっと感じていたことだったし、そうした状況に対してひとつの道を示したのが立憲民主党の意味だと思っている。けれど…それにしても想像以上だった。

──具体的にはどんな点ですか?

たとえば生活保護費の切り下げ。僕はひとり親世帯の生活保護について、対象の4割の給付水準が切り下げられることについて質問したのだけれど、彼からは要約すると「6割が上がるんだからいいじゃないか」という答えが返ってきてしまった。でも、こっちは切り下げられる4割について質問したわけだから、もし「切り下げられる4割の方々にはこうした配慮をしています」というんだったらまだわかるけれど、給付が増える6割のことだけを強調するのは…それって質問に答えてないでしょ?生活保護の切り下げというのは、影響を受ける現場の人からしたら死活問題で、決してうやむやにしていい問題ではない。

──他にもありますか?

いわゆる「働き方改革」についても同じように感じた。安倍首相は多様な働き方ができるという光の部分を一生懸命繰り返し答弁するのだけれど、たとえば「残業代ゼロ制度」が悪用されるリスクについてはなにも答えなかった。法案の元になった厚生労働省のデータがデタラメだったことが発覚しても、なかなかきちんと議論し直そうとしない。過労死の問題にせよ、ブラック企業の問題にせよ、その問題に苦しんでいる現場の危機感は相当ですよ。たくさんの悲痛な声がある。本当に、人の生き死にがかかってるんです。そのことが根本的にわかってない。ひとつの制度を作るとき、その制度の光の部分しか見ない、議論しない、という態度はやはり危うい。今の与党に言いたいことは、ようは「ちゃんと現場が見えてますか?」ってことなんです。

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「現場を見ていない政治は、日本社会、大げさに言えば民主主義にとって、非常に大きなリスクになりかねない」

── 最近の枝野さんの発言には、よく「現場」という言葉が登場します。どういう意味をこめて使っていますか?

もともと現在の与党は、自分たちへの反対意見に対しては目を向けないという性質がはっきりしていたわけです。でもそれって、自分たちの政策でマイナスの影響を受ける人たちの、その生活の現場を見ていないってことじゃないですか。もちろんひとつの政策を打ち出す場合、すべての人にポジティブな影響を及ぼすことは不可能なんだけれど、それでもやっぱり、実際に政策の影響を受ける現場の、その当事者の人たちの声はきちんと受け止めなきゃダメだと思う。

──それはなぜですか?

それは、都合の悪いことは聞かない、議論しない、そういう姿勢で政治全体が動いていくと、いずれはすべての人が、現在の政治のせいで何らかのマイナスを背負うことになるから。そんな政治が続けば、それは遠からず、この国の政治そのものが自分たちを見てくれていない、という国民の政治不信につながってしまう。だから現場を見ていない政治は、日本社会、大げさに言えば民主主義にとって、非常に大きなリスクになりかねない。

──選挙の際に与党は「保育園無償化」を打ち出しました。その時に枝野さんが「いまは無償化よりも、まずみんなが保育園に入れるようにするのが先決だ」といち早く声をあげ、自身の議員をしながらの子育て経験についても語っていました。現場という意味では、私生活での経験というのも反映されてますか?

保育園の無償化の前に全入化が必要だというのは、待機児童に悩まされている現場の声を聞いていれば、当然わかることです。僕自身の子育ての経験というのは、そんな偉そうな理念や理想の話じゃなくて、1日1日を切り抜けるために、目の前のやらなきゃいけないタスクを、なんとか必死でこなしていただけ(笑)。たまたま双子だったし。最近言われる「イクメン」とかっていうのともちょっと違う。僕のコミットメントなんて全然足りてない。でも、自分ができる限り主体的に子育てに関わっていることで、「こういうところが大変なんだよな」というのは、ある程度は実感できてるんじゃないかな。

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多忙をきわめる国会会期中の食事は、もっぱらコンビニエンス・ストアで買い物して済ます。

まずはいろいろな現場の声を聞くことから始めたい

──他にも私生活での経験が政治の仕事に反映されたことはありますか?

それについては、僕は友人に恵まれているんじゃないかなと思ってます。こういう仕事を25年もやっていると、どうしても普通の生活をしている人たちの実感ってわかりづらくなるところがある。でも、実は2、3カ月に1回くらい、大学の時の同期や、高校の時の同級生の連中と、飲んで歌って…ということがあるんですよ。そうすると、友人たちが率直にそれぞれの現場感を語ってくれるわけ。 たとえば、僕らの世代は男女機会均等法の施行後の第二期生です。大学の同期の女性の人たちがみんな、やっぱり20年くらい前に、今の女性の抱える問題と同じ壁にぶつかっている。僕はずっと友人として彼女たちの生きづらさを聞いてきた。それは貴重な財産です。自分の現場感だけじゃなく、いろんな人たちの生の声を聞くことで初めてわかることってやっぱりある。

──たとえば立憲民主党のパートナーズ制度の構想にも、そういう現場への感性というのは活かされていますか?

そうそう。社会の様々な人たちと、いまの社会のおかしいところについて本音で語り合って、それを政治に活かしていく。立憲民主党では、それを党として、全国的にやりたいんです。たまたま、僕には率直に本音を語ってくれる友人たちがいて、それがものすごく貴重な現場の声になっている実感がある。でも、それを政治家が個人的な関係の中でやっているんじゃ、当然偏りも、限界もあるでしょ?

パートナーズ制度っていうとなんだか大げさに聞こえるけれど、従来の政治が耳を傾けてこなかったいろいろな現場の声を聞く、そのことから始めたいってことなんです。これまで政治家が個人的な関係でやってきたことを、いかにオープンにやるのか、ということ。

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全国各地への行脚も精力的にこなす。移動はしばしばお気に入りの音楽をiPodで聴きながら。

「国民とどうつながるかが鍵」

──2018年の立憲民主党はこれをやっていくぞ、というようなポイントがあれば聞かせてください。

原発ゼロや、安倍首相が意気込んで進めようとしている憲法改正の問題、いろいろあるけれど、まずは僕らの方向性というか、立ち位置のうち、見落とされがちなところがあって。それは「国民とどうつながるかが鍵だ」ってこと。

──というのは?

だって永田町の中での、国会の中の議席数に限って言えば、僕の力は限られている。どんなに立派な法案を提出しても、それだけで通るわけない。でも、なにも国会の中だけを見て動く必要なんてないんだって気づいたんです。国民のみなさんに、きちんと中身のある法案を提示して、それを受け止めた方たちが動き出してくれれば、それは議席以上の問題提起の力がある。民主主義の主体は国民なんだから。

僕らだけで動くのではなく、ちゃんと国民的に議論を盛り上げていけば、次の選挙で大きな争点になりうるし、他の党だって動かざるをえない。そのためのネットワークづくりというか、国民とつながるような動きを展開できるかどうか。言ってしまえば、いろんな問題に潜在的に関心を持っている人たちが、自発的に動きやすい構造をつくれるかどうかが、僕らの最大のミッションだと思ってます。

──原発ゼロへの動きなどは、まさにそうしたアプローチのモデルになりえる気がします。

そう。原発ゼロのことだって、若干中身に違いはあっても、いまは原発ゼロを望んでいる人の方が圧倒的多数なはずです。しかし、これまでは原発をゼロにできるということに対してなかなかリアリティを感じてもらえなくて、大きな政治的パワーにならなかった。だから僕らは、きちんと具体的な工程表を提示することで、その変化のプロセスに国民を巻き込んでいくことを目指したい。

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700億円かかる憲法改正よりも優先すべきこと

──そのアプローチは憲法改正の問題にもあてはまりますか?

憲法改正というのは最終的には国民投票です。おかしな発議が仮に国会の事情でなされても、国民投票で否決をすればいいわけだし、だから国民投票で否決されると思ったら発議できない。そもそも国民投票をするのに税金が700億くらい使われると言われている。まとはずれな発議にそんなお金をつかっていいのか。僕らはもちろん国会の中で論戦をして、国民投票法の不備も含めて、活発に議論して問題提起していきたい。

でも、一番重要なのは、その問題提起を永田町の中でやるという視点だけじゃなくて、国民とどうつながって、どう行動していくのか、ということ。僕らの軸は明確にそこにある。安全保障の問題もそう。違憲の安保法制を廃止した上で、どう日本の安全を守っていくのか、僕らはすでにきちんと対案を出しています。そのうえで、現在与党がまとめようとしている改憲案が必要かどうか、国民と一緒に考えるところから始めたい。

──憲法改正よりも優先的に取り組むべき課題として、たとえばどんなものがありますか?

間違いなく優先度が高いのは子育てと老後の安心。それから、普通に働けば普通に食べていける、雇用の安心。つまりは日々の生活に結びついた政策を、ほとんどの国民が求めていると思う。でも、たとえ影響を与える数が小さくても、LGBTの差別禁止法だったり、手話言語法だったり、そうした社会の多様性を守っていく上で重要なものも、力強く訴えていきたいです。それは立憲民主党が掲げるビジョンの大切な部分だから。

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「大変だけれど、意外と楽観している」

──パートナーズ構想を含め、立憲民主党がこれから目指す政治が本当に実現すれば、政治家に求められる資質も変わってくるのではないかと思います。枝野さんは、今後政治家にはどんな資質が求められると思いますか?

柔軟さかな。多様な人の意見をちゃんと聞く能力。もちろん、政治家は自分の信念がなくちゃダメですよ。それは大前提。信念がないとそれこそ右往左往することになるから。でも、その多様な人たちの意見を聞いて、補強したり、修正したりする能力が求められると思います。それは自分を応援してくれる人たちの声だけじゃない。自分にとって敵、味方を分けるんじゃない。与党や、他の野党に投票している人の中にも、さらには投票には行っていない人の中にも、今の日本の政治に対していろんな想いを抱えている人はいるはず。だから、その声を聞くこと。

──それは実際にはとても大変な作業のように思えます。

大変だけれども、実は僕は意外と楽観していて(笑)。なぜなら、立憲民主党を立ち上げた仲間の多くは、これまでもそうした姿勢でやってきているんです。利権だとか、利益誘導だとか、そういうものとはほど遠い政治家が多いから。みんなそれぞれの地域で、幅広い人たちを巻き込んでいくようなスタイルで個人としてやってきた。今回の立憲民主党の取り組みは、これまで個人プレーでやってきた、そのノウハウを集めて、政党というチームでどうやって総合化されたアプローチにしていくか、という課題なんです。

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「永田町の感覚では無謀なことをあえて意識的にやってるつもり」

──党自体も雰囲気違いますか?新人議員が多いですし、日本は男女格差を示すジェンダーギャップ指数で先進国最下位ですが、立憲民主党もまだまだ十分ではないとはいえ、女性議員も多いです。

間違いなく言えることは、みんな明るい(笑)。これは誰に聞いてもそう答えると思う。会議でもみんな前向きな発言が多いです。新人たちもみんな活発で、それが大きいのかな。久しぶりなんです、こんな新人が多いの。新しい人が20人近くまとまって入ってきた、しかも1つの政党に。これはなかなか面白いんじゃないかな。女性議員についても、これから党としてもっと力を入れて、女性が政治に挑戦することを阻んでいる壁をできる限りなくしていきたい。

──最近では「永田町の感覚では無謀なチャレンジ」という表現もよく使われています。今後の立憲民主党の挑戦について、勝算はありますか?

永田町の感覚では無謀なことをあえて意識的にやってるつもりです(笑)。永田町の論理だと、今の与党のやり方が唯一の正解みたいに思われているけれど、そのやり方が実は決定的に時代と合わなくなってきている。だからこそ、この前の選挙でも、与党の得票は過半数を割ったんです。投票率もまだまだ低いでしょ?

これは選挙のときも言ったんですが、今の日本の政治状況は、国民が政治離れしているとうよりは、政治のほうが国民から離れてしまっていると僕は考えている。だから、今の政治にはどうにも参加したくない、参加できないと思っている人たちに届くアプローチをしないと。無謀かもしれないけれど、勝算はある。僕はそう思ってる。

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枝野幸男 YUKIO EDANO

1964年生まれ。衆議院議員(9期、埼玉5区)。弁護士(第二東京弁護士会)。1993年に初当選し、日本新党の新人議員として薬害エイズの問題に関わる。その後、民主党時代には政調会長、幹事長、現行制度下で最年少での官房長官などを歴任した。2017年10月に「国民の声に背中を押されて」、たった一人で立憲民主党を結党。現在、立憲民主党代表。双子の二男の父。趣味はカラオケ。

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