42万件中、5,000件。弁護士や路上生活者の支援団が4月18、19日に行った全国一斉無料電話相談会にかかってきた電話のうち、実際に相談を受けることができた数だ。2008年のリーマンショック後、若年困窮者やホームレスが急増したが、新型コロナウイルス感染拡大により、同じ状況が再来しつつある。
東京都は居場所を失った人たちに向け、ビジネスホテルなどの宿泊施設を一定数確保したが、生活保護受給者に対して「無料低額宿泊所」を利用させていることが判明。無料低額宿泊所はネットカフェ以上に「三密」の危険性が高いなど、課題も多い。
4月23日、立憲民主党の枝野幸男代表と、無料低額宿泊所の問題を取り上げてきた尾辻かな子衆院議員、都内各地でネットカフェ生活者の相談に応じてきた東京都足立区の小椋修平区議が、26年間生活困窮者支援をしてきた一般社団法人つくろい東京ファンドの稲葉剛代表理事から、オンラインでヒアリングをした。
※写真は上段左から小椋足立区議、尾辻衆院議員、下段左から稲葉代表理事、枝野代表
仕事を失った自営業者やフリーランスが、住まいを追われないように。住居確保給付金を「使える」ものにする
現在、つくろい東京ファンドには、「家賃が支払えない。賃貸住宅を追い出されそう」という相談が、自営業者やフリーランスを中心に寄せられはじめているという。リーマンショック後、家賃を滞納した入居者を強制退去させる「追い出し屋」被害が多発した。今回も同じ問題が起こることが懸念されている。
稲葉氏「収入が減少し、家賃を滞納せざるをえなくなった方から『立ち退きを要求されて困っている』という相談があり、住宅問題に詳しい弁護士にお願いして、大家・不動産会社との間で家賃の分割払いの交渉をしてもらっています。大家さんの場合は話し合いに応じてくれることが多いのですが、家賃保証会社は機械的に追い出す傾向があるため心配しています。居住権を無視した追い出しを禁止する法案があると助かります」
枝野代表はこの問題に対し、「貸主側への家賃補償や、住居確保給付金の要件緩和といった方法も探りたい」と答えた。住居確保給付金は、原則3カ月、最長9カ月分の家賃を自治体が支給する制度。もともとは失業者・離職者を対象としていたが、4月20日付けで一部改正され、収入が減少した自営業者やフリーランスなども使えるようになった。
稲葉氏「ただ、まだ『ハローワークに求職の申込をする』という要件が残っています(※)。厚労省は『収入源を補うためのアルバイトを探すといったことを想定しており、現在の仕事を廃業しろということではない』と説明していますが、それが現場にきちんと周知されていないことが問題です。
また家賃の上限額が設定されていますが、4人家族で家賃20万円の賃貸に住む自営業者なども影響を受けているので、上限額を撤廃してほしいです」
※4月24日、厚労省は求職要件の撤廃を決定。4月30日から実施されることとなった
必要なのは、災害時の「みなし仮設」のような住宅支援
東京都の調査で、都内に4,000人以上いると分かっているネットカフェ難民。稲葉氏によると、男性は建築土木関連の日払い・週払い労働者、女性は夜の飲食店勤務者が中心で、緊急事態宣言の前から徐々に仕事が減少していた中でネットカフェの休業により住む場所を失ったため、所持金が数十円しか残っていないケースも珍しくないという。こうした場合は住まいの確保と生活保護の受給が急務となる。東京都では住まいを失った人に対し一時的にビジネスホテルを提供する支援を始めたが、課題も残る。
小椋区議「私が相談を受けた29歳の男性は、派遣会社に4社登録し働いていたけれど、2月に入ってから単発の仕事もほぼ無くなり所持金が尽きたといいます。福祉事務所に行ったところ、『生活保護を申請するなら無料低額宿泊所へ』と案内されました。せっかくのビジネスホテルが活用されていないんです。
無料低額宿泊所の中には、食費や滞在費の名目で生活保護費のほとんどを徴収する悪質な事業者も存在します。大部屋が多いため感染リスクも高い。猛抗議の結果、厚労省から『原則個室対応へ』と事務連絡が出されました。でも、国から日々たくさんの基準変更が舞い込んでくる中で、福祉事務所の職員が情報を更新できていない、知っていても適切に対応していない、という問題があります」
稲葉氏「神奈川・埼玉・千葉なども自治体として独自の宿泊支援を行っていますが、冷暖房のない雑居や相部屋の施設など、感染リスクを考えると疑問です。自治体の判断に任せるのではなく、国が住宅支援を主導するべきではないでしょうか」
枝野代表と尾辻衆院議員は、「今後、寮などに住んでいた労働者が解雇され、仕事と住まいを一度に失う人が増える」と予測。「緊急支援としてビジネスホテルや国の施設を一時開放すると同時に、長期的に暮らせる住まいを用意する必要がある」と話した。
稲葉氏「民主党政権だった東日本大震災後、行政が民間の賃貸住宅等を借り上げ、応急仮設住宅に準ずるものとして被災者に提供する『みなし仮設住宅制度』が導入されました。これを参考に、コロナ禍によって住宅を喪失した人に民間の空き家・空き室を提供し、大規模な住宅支援を実施していただけたらと思っています」
コロナ感染拡大で近づく「相談崩壊」を、いかに防ぐか
ヒアリングの中で明るみになったのは、「相談崩壊」が近づいているという現状だ。相談者が急増する中で、日々変更される制度の情報を更新することもままならず、混乱をきたしている。
小椋区議「足立区では生活保護申請者が2月から3月にかけて3割増えました。応急福祉窓口の社会福祉協議会でも、相談の受付までに2カ月、支給されるまでにはさらに時間がかかる状況でした。心配なのはゴールデンウィーク。区には休みの間も各種相談対応を続けてほしいと要望していますが、国からの要請が必要です」
稲葉氏「厚労省は申請手続きの簡素化を進めてくれていますが、窓口での対応は感染リスクが伴います。緊急小口貸付は郵送でも申請できるようになるなど、一部改善しましたが、より簡素化するためには、生活保護を含む各種制度の申請をオンラインでできるようにするべきです」
社会福祉士として現場を知る尾辻衆院議員は、「4月いっぱいで仕事を失う人が多くなることが予想される中、必要な行政の窓口をゴールデンウィークの間、閉めるべきではありません。強く厚労省に要請します。並行して現場の負担を軽減するための施策が必要です。どうすればオンライン申請をスムーズに導入できるかを探りたいと思います」と答えた。
「現金給付の辞退」を推奨する風潮が、受給者へのバッシングにつながる恐れ。議員は辞退ではなく、必要としている団体への寄付を
国の政策から取りこぼされてしまう人々を稲葉氏ら支援団体が受け止めながら、実態に合わせて制度を変えるよう国に対して働きかけも行っている。尾辻衆院議員は、現場の声を政策に反映すると共に、議員にも支給される一律給付金の10万円を寄付することで、支援団体が活用できる基金をつくれないかと提案した。
稲葉氏「ひとつ懸念しているのは、『議員は10万円の現金給付を辞退するべき』と主張する議員が一部いることです。こうした風潮が広がると、やがて一般市民の給付金の使い道に対して詮索が及び、バッシングにつながりかねません。すべての人がもらうべきものであることを前提として、その上で余裕がある人は困っている人への支援に回そう、という方向で機運を高めていただけると幸いです」
尾辻衆院議員「誰もがコロナの影響で不安を抱えている中、そのストレスが『自分より得をしている』ように見える人に向かいかねません。対立や分断を煽る言動に惑わされず、連帯して対処していく必要がありますね」
小椋区議「生活保護に対するバッシングが強く、要件を満たしているのに受給をためらう方も少なくありません。また、そもそも制度があることを知らない人、誤解している人もいます。ドイツでは、生活保護の受給要件を大幅に緩和し、大臣がテレビで『困っている人は生活保護を受給してください』と呼びかけました。これまで税金を払ってきた人が、生活が苦しくなったときに保護を受けるのは当然の権利。『国民の命は国が守る』という力強いメッセージと共に、制度の周知に努めていただければと思います」
稲葉氏は最後に、「“STAY HOME”が叫ばれていますが、留まるべき家がない人、いま失おうとしている人がいます。家は人権であり、生活再建の要であるにもかかわらず、これまでの日本の社会福祉は住まいを軽視してきました。すべての人が安心して家で暮らせるように、居住福祉の理念に基づいて制度を抜本的に変えてほしい」と訴えた。
枝野代表「これまでの行政の申請主義・選別主義により、生活困窮者は支援を受けるために何度も窓口へ通わなければいけなくなり、感染リスクが高まる。一部屋に二段ベッドがいくつも置かれているような無料低額宿泊所の居住環境は、クラスターを生みかねない。社会福祉のあり方が、感染拡大を助長するような形になっています。そもそも、失業者がすぐに住まいを失う危機に直面してしまう社会の脆さも問題なんです。
新型コロナウイルスによって浮かび上がってきた課題の本質的な解決を考え実践していくことが、社会の構造を転換することにつながります。みなさんのお力を借りながら実現していきたいと考えています」
尾辻衆院議員「私たちが求めていくのは、選別主義ではなく普遍主義の社会保障制度。時代と制度のギャップを埋める時期なのかもしれません。新型コロナウイルスの影響は同時に多くの国や地域に及んでいるため、各国の福祉、社会保障制度に対する姿勢や制度の比較もしやすくなりました。日本の社会保障、福祉の制度をアップデートする機会と捉え、一緒に変えていきましょう」
稲葉剛 TSUYOSHI INABA(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事)
ホームページ https://tsukuroi.tokyo/
Twitter @inabatsuyoshi
枝野幸男 YUKIO EDANO(立憲民主党 代表)
ホームページ https://www.edano.gr.jp/
Twitter @edanoyukio0531
尾辻かな子 KANAKO OTSUJI(立憲民主党 衆議院議員)
ホームページ https://otsuji.club/
Twitter @otsujikanako
小椋修平 SHUHEI OGURA(立憲民主党 東京都足立区議会議員)
ホームページ http://www.ogura-shuhei.com/
Twitter @ogura_shuhei
暮らしや住まいの困りごとを抱える方への相談窓口
【全国】自立相談機関窓口一覧
「住居確保給付金を受け取りたい」「生活保護を受給したい」「住まいを失い困っている」といった相談は、各自治体の福祉事務所、または以下の自立相談機関へ。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000191346.pdf
【全国】ホームレス総合相談ネットワーク
「雇い止めにあった」「パートナーの暴力・虐待にあったまたは不安」「家を追い出されないか不安」「営業が続かない」「補助制度について知りたい」といった幅広い内容について、弁護士、司法書士、社会福祉士、労働問題の専門家に相談できます。
フリーダイヤル 0120-843530(月水金11:00-17:00 祝休)
http://lluvia.tea-nifty.com/
【東京都内】TOKYOチャレンジネット
「住まいがない」ときに、条件を満たせば一時的にビジネスホテルに宿泊することができます。また、生活保護などの相談にも乗っています。
1.メールで問い合わせる場合:https://www.tokyo-challenge.net/formail/index.html
2.フリーダイヤルで予約後、センターを訪問し直接相談する場合
一般:0120-874-225 女性専用:0120-874-505
(月水金土10:00〜17:00、火木10:00〜20:00)
※相談手順について:https://www.tokyo-challenge.net/process.html
住所:東京都新宿区歌舞伎町2-44-1 東京都健康プラザハイジア3F
【東京都内】一般社団法人つくろい東京ファンド
ネットカフェ休業などにより行き場を失った人からの相談を受け付けています。
メール相談窓口:https://tsukuroi.tokyo/2020/04/14/1126/
【東京・大阪・その他】認定NPO法人ビッグイシュー基金
東京、大阪、その他の地域で生活の様々な悩みを相談できる先の一覧を掲載しています。https://bigissue.or.jp/message/
【そのほか】
・追い出し屋被害に遭いそうなとき
稲葉氏のブログに、対処法や相談窓口が詳しく記載されています。
http://inabatsuyoshi.net/2020/03/29/3725
・まずはどんな制度があるか知りたいとき
厚生労働省HPで、生活困窮者自立支援制度を確認できます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html
<追記>※このヒアリングを受けて、4月28日の衆議院予算委員会で枝野代表が住居支援について安倍首相に質問した。枝野代表は、住宅がない人への支援として、災害対策基本法と災害救助法を活用し、地域の空きアパートを都道府県が借り上げて一定期間、無償ないし低廉(ていれん)な家賃で貸し出す「みなし仮設」をつくることを提案。災害対策基本法と災害救助法を活用できれば、住まいだけでなく食料、生活必需品、遠隔教育に必要な機器含めた学用品も提供できる、と強調した。
西村康稔経済再生担当大臣は、今回のコロナ禍を「災害」と位置づけるのは難しく、現行の地方創生臨時交付金を利用してほしいと答弁。枝野代表は、緊急事態の今こそ柔軟な解釈をすべき、また地方創生臨時交付金は補正予算案で1兆円しか計上されておらず、足りないと話した。