選挙において、男女の候補者数をできる限り均等にすることを政党にうながす“日本版パリテ法”が2018年5月に成立したことを受け、立憲民主党では政治に関心を持つ女性のためのイベント「パリテ・ナウ」を企画した。「パリテ・ナウ」への参加を呼びかける告知文にはこんな言葉が。

この社会には「女性」というだけでぶつかる「壁」がたくさんあります。ましてや、女性が政治に対して声を挙げることは、勇気が必要です。声を挙げたとしても、政治における多数派である男性の意見に押しつぶされてしまいます。立候補はおろか、政治について語ることも難しいシビアな現状があります。

立憲民主党はまず、こういった「壁」を認識し、言葉にすることから始めたいと考えています。声なき声、忘れられた声を形にし、政治をすべての人に開かれたものにすること、多様なバックグラウンドを持った人に担い手になってもらうことーー立憲民主党は、政治そのもののあり方を変えていきたいです。 そのための第一歩を、立憲民主党と踏み出しませんか。

第1回の会場は、東京・赤坂のイベントスペース「T-TIME」。上記の呼びかけに対し、12月の平日夜にもかかわらず20名弱の女性が集まり、熱気溢れる場となった。今回は、その様子をリポートする。

なぜ、女性議員を増やす必要があるの?

イベントは約2時間で、前半は立憲民主党の女性議員によるトークセッション、後半は参加者と議員を交えたグループワークという流れで行った。今回登壇した女性議員は、神本美恵子、大河原雅子、池田真紀、尾辻かな子の4人。参加者が期待と少しの緊張が入り混じった面持ちを浮かべる中、大河原議員が朗らかな声で「パリテ・ナウ」の企画意図を説明した。

立憲民主党は、衆参合わせて82人中20人が女性です。ほかの政党と比べると女性の比率は高いかもしれませんが、世界と比較したら決して高いとは言えません。2019年の選挙では、女性候補者を4割擁立することを目指しています。
2018年5月に候補者男女均等法(政治分野における男女共同参画推進法)が成立し、女性の声を政治に反映する追い風が吹いています。けれど、地方には女性ゼロ議会もありますし、関心はあるけれど不安もあって踏み出せない、という方もいるでしょう。

そこで私たちは、この「パリテ・ナウ」という場を企画し、各地で開催していくことにしました。みなさんが普段感じている社会や政治への想いをぜひ聴かせてください。そして、私たち女性議員が目指すものも聴いていただけたらと思います。

会場の雰囲気がほっとゆるんだところで、トークセッションがスタート。まずはそれぞれの議員が自己紹介を兼ねて、政治に参画したきっかけを語った。

尾辻かな子:私は約700人の国会議員の中で唯一LGBTを公表しています。自分が同性愛者であることに気づいたのは大学に入ってから。その頃、1990年代後半はまだLGBTという言葉も一般的ではなく、当事者は身を隠すように生きていました。私はそうした雰囲気に疑問を抱き、「問題があるのは私たちの存在そのものではなく、社会が私たちを見るまなざしじゃないか」と思うようになったんです。当時のインターン先であった市議会議員に「政治が何を変えられるのか知りたい」と相談したところ、議会で質問してくださいました。その行動に、「社会は人の意志と行動によって変えていくものなんだ」と強い感銘を受けて、政治にハマってしまったんです。

尾辻かな子(おつじ・かなこ) 衆議院議員(2期)。社会福祉士、介護福祉士の資格を持つ。大阪府議会議員(1期)を務めた。

池田真紀:北海道からきました、池田です。議員になる前は、「社会の福祉問題を変えたい」という想いから、福祉事務所で働いていました。でも、行政って男性社会で、管理主義的だし、変化に臆病です。「どうしたら現場を変えられるだろう?」ともがいていたときに民主党が政権を取り、子どもの貧困問題にメスを入れてくれました。「私の今までの苦労は何だったんだろう、政治ってすごいな」と感動して、選挙運動のお手伝いなどをするようになり、気がついたら両足どっぷり政治の世界に浸かっていました。

池田真紀(いけだ・まき) 衆議院議員(1期)。高齢者施設、障がい者施設、福祉事務所で働いた後に議員へ。2児の母。北海道在住。

大河原雅子:元々は舞台や映画のプロデュースをしていて、政治家になる予定は全くありませんでした。でも、子育てをする中で色々なことに気づいたんです。環境問題、教育、食の安全。決めるのは年配の男性政治家です。彼らの発言は暮らしとかけ離れているように感じ、身近な議会に女性議員を送る運動に参加するようになりました。その中で徐々に、政治は、お台所で使う包丁やまな板と同じように、私たちでも使える道具なんじゃないかと思うようになって。子どもが3人いたので自分で立候補することは考えていませんでしたが、「子どもを育てる中で問題だと思ったことを解決するために、政治に携わったらどうか」と背中を押され、政治家になりました。

大河原雅子(おおかわら・まさこ) 衆議院議員(1期)。参議院議員(1期)、生活者ネットワーク代表委員、東京都議会議員(3期)を務めた。

神本美恵子:前の3人からぐっと歳が上で、古希を迎えた70歳です。元々は小学校の教員をしていまして、日本教職員組合本部の役員をしていたときに、委員長から選挙に出てほしいと言われました。教育制度は政治の場で決まるし、女性が声を挙げることが必要だ、と。

戦後すぐの頃は教員も男女で賃金に差があり、差別撤廃運動により同一賃金を勝ち取りました。産休制度はあったけれど代わりの先生が来ないため、女性教員は破水するまで教壇に立ち続けていたそうです。その状況を変えるために産休代替法や育児休業法を成立させました。そうした運動の歴史を聞いていたので、先輩たちの努力を引き継ぎたいと思ったんです。当時はまだ求人の条件として「容姿端麗であること」と書かれているような時代でしたし、女性差別を政治の場から変えていきたいと考え立候補しました。

神本美恵子(かみもと・みえこ) 参議院議員(3期)。野田内閣、野田改造内閣で文部科学大臣政務官を務めた。

「自治体議員と国会議員の違い」「政治家になるまでのキャリアが政治の場でどう活きたか」などをテーマにそれぞれの経験を共有したあとは、参加者からの質問に答える時間。我も我もと手が挙がり、時間が足りなくなるほどだった。中でも複数の人が懸念点として寄せたのは、「女性議員の数だけ増やしても、権力に迎合し男性の意見を代弁するような人だったり、実力のない人だったら意味がないのでは?」という意見だ。これに対し、尾辻・池田は次のように回答した。



尾辻:もちろん、女性だったら誰でもいい、というわけではありません。ジェンダー視点のある女性議員が必要だと思っています。でも、いまはその絶対数が圧倒的に足りていません。国会の女性議員比率は10.1%。193か国中162位という現実があります。だから、ぜひみなさんに頑張ってほしい。立候補を考えている方がいたら、応援したいと思っています。

池田:ちなみに立憲本部では、女性議員が間違いなく権力を持っています。先輩たち、強いですよ〜(笑)! なぜかというと、ほかの党と比べると女性議員の数が多いから。男性議員の先輩方も、女性議員の声を尊重してくれます。やっぱり、ある程度人数がいることが大事だと考えています。

目的は、これまで届かなかった女性の声を議会に届けること、差別のない多様な社会を実現すること。それを達成するための手段としてパリテがある、という話が展開された。

女性の政治参加を阻む壁と、その解決法とは?

後半は、参加者と議員を交えたワークショップ。4つの班に分かれ「女性が政治家になるとき、どんな壁にぶつかるだろう?」「解決するためには、どんなアクションが必要だろう?」という2つの問いについて話し合った。どの班でも参加者は積極的に意見を述べ、お互いの話を聴き合っていた。ときには笑い声や歓声が上がることも。

各班のプレゼン時間には、次のような内容が発表された。

  • 女性が政治家になるときにぶつかる壁として、“家族の理解を得ること”“出産・子育てなどのライフイベントがあること”“さまざまな形のセクハラにあうこと”などがある。
  • 女性政治家は、“強くて美しい女性”といった理想像を押し付けられがちで、バッシングをされたり、プライベートを詮索されたりすることも多い。そのため、「自分が政治家になること」をイメージしづらい状況がある。
  • 政策立案力だけではなく、説得力を身につけること、パフォーマンス力を身につけることも必要。
  • 女性が政治の話をする場がない。仕事や家庭における困りごとも含めて、もっと色々な話ができる場があるといい。

参加者からは「もっと話したい!」という前向きなエネルギーが発せられていたが、そろそろ閉会の時間。神本議員は、次のように総括した。

女性政治家は「こうあるべし」という型にはめられがちですが、型を自ら破っていくには、こうした「女性の喋り場」が必要だと思いました。立憲民主党には今回登壇した4人のように、年齢も経歴も個性もさまざまな女性議員がいます。同じようなイベントを企画したい、うちの地元にも来てほしい、というご要望があれば、ぜひ声をかけてください。さまざまな場所で「パリテ・ナウ」を開いて、心理的な壁を打ち破っていきましょう。今日はありがとうございました。

多くの人が進んで自分の意見を述べ、その内容は多様なものだったが、お互いを否定したり声を荒げたりする場面はなく、終始和やかな雰囲気が流れていたことが印象的だった。参加者はどのような感想を抱いたのだろう。終了後、数人に話を聞いた。

議員の方とお話ししたのは初めてです。いままで「遠いところにいる方」という印象があったんですが、とても身近に感じられました。参加者の方々は背景も求めていることも多様で、「女性」と一言でくくることはできないなと思いました。そういうことも含めて、貴重な時間だったと思います。

男性も女性も両方が固定観念に囚われているから、それを壊していく必要があると感じました。いま活躍している女性議員は、はっきりと意見を主張していく強い女性が多いですよね。そういう姿勢を敬遠するのではなく、「素敵だな」と思える社会であってほしい。一方で、話を聴くことに長けた議員がいてもいいと思います。性に関する、「こうでなくちゃ」という色々な縛りがゆるくなっていくといいですね。

また、神本以外の議員の感想も聞いた。

池田:女性だけのクローズな場だったので、安心してお話できたんじゃないかと思います。みなさん話したいんだな、参加したいんだな、と感じました。立憲が大事にするのは「生活者のみなさんと社会を一緒に変えていこう」という姿勢なので、こういう場を全国で開いていけたらと思います。

尾辻:平日夜のイベントにこれだけたくさんの方が来てくださったこと、「政治家と話がしたかった」とおっしゃってくださったことが印象的でした。本当にありがたいです。これから選挙に出ようとしている方から「どうすれば立憲パートナーズとつながれますか」という質問をいただき、新人候補者に対するサポートが必要だということがわかりました。
また、私たちの班では「子どもや夫にどう理解してもらうか」という話で盛り上がったのですが、「最終的には“慣れ”では?」という意見が興味深かったです。最初は反対されたとしても、少しずつわかってくれると。社会も同じかもしれません。女性の政治参加が特別ではない社会になっていけばいい、と思います。

大河原:パリテの大枠は「女性政治家が少ないから増やそう」というものですが、それはつまり、どこにでもある男女半々社会、男女平等社会を政治の場にもつくろうということなんです。みなさんの生活する職場や地域社会、家庭でも同じこと。そこに気づいてもらえていたら嬉しいです。政治を遠くに感じている人は多いと思いますが、本当は身近なものだし、上手に使えば自分の暮らしに役立つ道具になります。その可能性を感じてもらう機会を、これからもつくりたいなと思いました。

全員から共通して挙がったのが、「今回のような場がもっと必要だ」という意見だった。これまで個々に悩み、奮闘してきた女性たちが、その想いや経験を共有すること。自分たちにできることを考え行動に起こしていくこと。女性が社会や政治に関わる上でぶつかる壁は大きいが、こうした小さなアクションの積み重ねが、少しずつ、でも着実に、状況を変えていくだろう。

立憲民主党では今後、子育て中の女性が参加しやすい休日昼間の開催なども視野に入れながら、全国で「パリテ・ナウ」を開いていく予定だ。「参加したい」「一緒に企画したい」という女性がいたら、ぜひアクセスしてほしい。