2018年12月末。クリスマスを控えた3連休の初日にもかかわらず、会場には100名を超える参加者が集まった。「タウンミーティングとはどんなものなのか」「立憲民主党はこれからどう動くのか」そんな、期待と疑問が入り混じったような空気が会場に満ちる中、高原俊彦県議の宣言でパートナーズ集会は始まった。

ボトムアップ型の公約となる『立憲ビジョン』をパートナーズとともにつくっていくというこの集会の趣旨、そして進行の流れについての説明を踏まえた岡山県連代表である高井崇志議員からの挨拶のあとは、政調会長代行を務める逢坂議員による講演が行われた。

「今日はみなさんの意見を聞きに来ました。私たちは、主役であるみなさんの声を聞いて政治のあり方を考えないといけない。みなさんに、自由に言いたいことを言っていただく。今日はそのための会合なんです。第二次安倍政権がはじまってから6年、日本の変わりようは大変なものです。安保法制や特定秘密保護法など、みなさんの思いとちがう方向でどんどん進んでいっています。

立憲民主党としては、議席を積み重ねてこの国の政治を変えていかないといけない。いま日本の民主主義は危機的な状況にあります。どうしても選挙で、ひとりでも多くの仲間に当選してもらわないといけない。しかし、ただ選挙で入れてくれと言ってもダメなんです。どんな国をめざしているのか、どんな政策をめざしているのか、多くの方の声に耳を傾けながら戦っていかないといけない。

みなさんといっしょに参院選に向けた政策づくりをしていきたいんです。今日は色んな意見を聞かせてほしい。少しでもたくさん話をして、来てよかったなぁ、また行こうかなぁ、そう思ってもらえる一日にしたいと思っています」

日本の政治、そして民主主義の現状を踏まえた方向性を示唆する逢坂政調会長代行の挨拶のあとはいよいよ、集会の目玉となるタウンミーティング。

スタートにあたり、まずはその趣旨が説明された。そもそも政策というものは、生活者一人ひとりが抱える課題を解決するために必要とされるものだ。ところがこれまで政党は、同じテーブルで有権者の声に直接耳を傾けることはあまりなかったのではないだろうか。国民目線の政策をつくっていくために、社会課題に関するテーマごとにテーブルを割り振り、そこで政治家がファシリテーターとなって参加者と語り合う。それがこのタウンミーティングなのだ。

今回提示されたテーマは以下。

  • 憲法
  • 外交防衛
  • 社会保障・雇用
  • 防災・減災
  • 原発ゼロ・エネルギー
  • 多文化共生・まちづくり
  • 政治に対する信頼
  • 教育
  • 消費税・経済政策

これらのテーマに加え、フリーで語り合うテーブルを2つ設けた。テーマにはまらない課題を持つ参加者や、とりあえず話を聞きに来たとい参加者はフリーテーマのテーブルにつくことになる。また、原発ゼロとエネルギーに関しては関心がある参加者が多かったため、テーブルを2つにした。話し合うチャンスは2回。ファシリテーターとなる政治家はテーブルを動かないが、参加者は席替えをしながら、1回目、2回目と異なるテーマで話し合うことができる。

テーブルに用意されたのは、模造紙とペンに、ふせん。参加者それぞれにふせんの束が配られ、自らの課題についてふせんに書き、模造紙に貼りながら話をしてもらうのだ。テーブルに分かれたあと、まずは参加者がそれぞれ自らの課題について考え、ふせんに書いていく。そのあとその内容を共有し、話し合ったあと、それぞれが自らの課題と解決策をシートにまとめる。ファシリテーターは、テーブルで行われた対話をシートにまとめ、会場全体で共有する…。こうした流れについて説明が終わるやいなや、会場のあちこちでは自己紹介がはじまり、一気ににぎやかで和やかなムードが広がった。

ひととおり自己紹介が終わったと思われる頃、会場は一転して静まり返る。5分間の、それぞれが考える時間だ。そしてまた5分たち、会場はまたたくさんの声が飛び交うように。対話の時間は20分間。笑顔で情熱的に語る参加者もいれば、深刻な表情で相談するような参加者も見られた。同じ課題でも、立場や考え方により受け止め方が違うのだということを実感させられる風景だ。対話のあとは、それぞれのまとめの時間。5分間で、自らの課題と解決策をシートに清書していく。ここでは、無理に解決策をまとめる必要はない。考えたこと、他の参加者から聞いた話を振り返るだけでも十分なのだ。

テーブルごとに課題の共有→対話→まとめというセッションを2回繰り返したあとは、全体での共有。各テーブルのファシリテーターがどんな対話が行われたのかを発表する。それぞれのテーブルで、どのような声が聞かれたのかを紹介しよう。

<憲法:江田五月(元参議院議員)>
2回にわたって話しましたが、1回目と2回目ではトーンが違った。最初の回では「憲法改正は絶対にダメだ」という話に。1939年生まれの方はご自分の戦時中のお話をされ、戦争は絶対に嫌だとおっしゃっていたのが印象的だった。次の回では、「ゆるやかな憲法改正はよいとして、ある程度自衛隊の暴走を食い止めるためには9条2項によるシビリアンコントーロルが必要」という話になった。大日本帝國憲法のときに戦争をして外国にも迷惑をかけたのだから、憲法を変えるのであれば外交の意見も聞かないといけないのではないだろうか。立憲民主党の憲法に対するスタンスをわかりやすく説明する必要がある。

<外交・防衛:江田洋一(議員秘書)>
平成31年度の政府の予算案が出されたが、防衛予算がどんどん増えていっていることへの懸念がある。もっと生活に回すべきだ、軍事力に頼るだけではなく、さまざまな国と協調する姿勢が大切だ。自衛隊の役割についても、災害が増える中で国民的な議論が必要なのではないか。他に、沖縄の問題を日本全体の問題として考えるべきだ、韓国の徴用工についての立憲民主党の見解を聞きたい、という声もあった。

<社会保障・雇用:高原俊彦(岡山県議)>
年金が少なくて困っている、負担と給付のバランスを見直す必要がある、子育て世代を中心に若い人を応援していく制度が必要だ、本当に必要な人が生活保護を受けられる体制が必要だといった意見が聞かれた。社会保障の財源について、ベーシックインカムの導入をすすめてはどうかという議論も。子ども手当など、旧民主党のときには夢のある提案があった、いまの立憲民主党は反対反対ばかりだけれども、夢を見せて欲しい。

<防災・減災:鳥井良輔(岡山県議)>
7月の豪雨は岡山を直撃した。山で樹木がジャングルのように茂っていることが、河川の氾濫につながった面がある。森林の管理をしっかりしてほしい。そして、高梁川のダム放流の問題。これは国と電力会社の連携が取れていないことがよくなかったのではないか。今後のためにも中国電力を巻き込んだ議論が必要。「晴れの国岡山」と言われてきたこともあり、県民の間に「大丈夫じゃろう」という油断があったのではないか。昔は「尾崎・谷口・お堂前」は気をつけないといけないと言われていた。そういうところは過去に災害が起きがちであったのだ。いまいちど自分が生きているところで過去にどんな災害があったのかを振り返り、防災・減災を進めていくことが大事。

<原発ゼロ・エネルギー政策1:羽場頼三郎(岡山市議)>
原発ゼロについては、原発推進派の人の意見をふまえると議論が深まってよいのではないか。放射性廃棄物の最終処分場ができない以上は、原発は止めることが必要。原発や放射性廃棄物の処分場の候補地などで、弱者を痛めつけない政策を。また、再生可能エネルギーの買取り制度が広がらない問題や、地熱やバイオマスといった発電方法、そして送電網に依存しない蓄電技術などの話題も出た。

<原発ゼロ・エネルギー政策2:小西利一(総社市議)>
原発とダムの問題は似ているところがある。高梁川水系のダムの7割は中国電力によるもので、もともと治水ではなく水島市の企業に電力を安定供給するためにつくられた。それらのダムには、国や自治体とのつながりは薄い。それが集中豪雨の際の放流につながったのではないか。豪雨による被災をきっかけに、国、県、そして電力会社がようやく同じテーブルで話し合う機会を持つことができた。原発ゼロを実現するには、政権交替が必要。そのためには選挙をがんばっていかないといけない。

<多文化共生・まちづくり:森山幸治(岡山市議)>
公共交通、公共空間についての課題が多く出た。身近なところでは道路のカーブミラーを、どうしたら早くつけられるのか、点字ブロックに物を置かないことをどう啓発していくか。また、買い物難民、病院難民になりがちな、運転免許証を返納したお年寄りをどう救うのか。まちづくりに関しては、中心部では商業施設によるにぎわいばかりに注目が集まっているが、どうやってふれあいをつくっていくのかが課題になる。LGBTや外国人との共生といった点では、文化を担保していくためにイベントを開くのはどうか。池田動物園でLGBT花火大会を開くなどしてはどうか。

<政治に対する信頼:逢坂誠二(政調会長代行・衆議院議員)>
政治に関心がない人が多い。身近な問題についてたとえ話などをふまえながらわかりやすく伝えるなどし、関心を持ってもらう必要がある。そのためには、このタウンミーティングのような機会をたくさん開いた方がいい。立憲民主党には期待はしているが、ボトムアップという考え方が地方議員も含めて党全体で理解されているのか疑問。草の根、ボトムアップと言ってはいるが、かつての支持組織に依存しているところが大きいのではないか。選挙制度について、小選挙区制度は死票が多すぎるので、中選挙区制度に戻してはどうか。

<教育:山内康一(政調会長代理・衆議院議員)>
4人お子さんがいる方、大学生のお子さんが2人いるという方などから、教育にかかる費用の負担が重いという話が出た。高校の授業料が無償化されるというが、修学旅行など授業料以外の負担も厳しい。大学生となるとさらに大変で、授業料が高い、下宿するとなると生活費もかかる。大学が東京に集中しすぎているのも問題。また、学生の政治への関心の低さもなんとかしないといけない。主権者教育がもっと必要なのではないか。

<消費税・経済政策:高井崇志(衆議院議員)>
消費税は使い途がコロコロ変わってわかりにくい。低所得者には厳しい税制なのでゼロにしてもよいのでは。軽減税率は複雑。キャッシュレスでのポイント還元などはお年寄りには難しいし、期限が限られているというのも子供だましという印象だ。北欧は税の負担が大きいが高福祉でもあるので、老後のことを心配しすぎず安心新手お金を使うことができるが、日本はそうはいかない。金融課税と所得課税を合算して税を徴収する、所得税や法人税も累進課税にするなどすれば、もっと公平になるのではないか。

<フリーテーマ1:柿本健治(真庭市議)>
マスコミの自主規制なのだろうか、真実が伝えられていないように思う。情報の受け手も、すぐに鵜呑みにするのではなく、自分で噛み砕いてものにする習慣をつけないといけない。そうしたリテラシーに関する教育も必要なのではないだろうか。国家権力の力が強くなっていて、自治体の力が弱まっていることへの懸念や、野党共闘のそのあり方をどうしていくのか、種子法の廃止に伴う条例を全国の自治体でつくる必要性などについても語られた。

<フリーテーマ2:井上信也(議員秘書)>
国の安全保障、年金、そして政治そのものに対する不信感がある。女性議員が少ないのでもっと増やしてほしい。女性が立候補したいと思うような環境づくりが必要。

それぞれのテーブルの発言をまとめた発表を受のあと、逢坂誠二政調会長代行が今回のタウンミーティングをまとめるスピーチを行った。

「各地でこうしたタウンミーティングをやっていますが、今日はレベルが高く、実に多様な意見が出されました。お話しいただく時間は非常に短かったと思います。この短い時間を補う方法があります。それは、こういう場を繰り返し持つことです。立憲民主党への期待は高まっています。しかし、その期待に応えられる活動ができているのか。それがいま、自分に突きつけられた課題です。草の根だ、ボトムアップだと言いながら、議員にそういう意識付けができているのだろうか。そのための仕組みはあるだろうか。そんなことを考えさせられました。そして、選挙に勝たなければならないと改めて思いました。安倍政権が好き勝手できるのは数があるからです。こういう場を持ちながら、支援の場を広げていきたいです」

最初は慣れないスタイルに戸惑い気味の雰囲気があった会場だが、タウンミーティングが終わる頃には真剣でありながら和やかな空気に包まれていた。終了後、タウンミーティングに参加した政治家に感想を聞いてみた。

元参議院議員 江田五月

「やっと動き出したなぁという感じですね。みなさんから活発な意見をいただけてよかったです。私は市民の意見を聞く機会としてかつて、有権者のお宅でホームミーティングというものをやっていました。みなさん、口を開けば意見が出てくるものなんですよね。そうした中で、自分の意見もはっきりしてきます。議員のそれぞれがこうしたミーティングを開いて、パートナーズのみなさんとの距離を縮めていってはどうでしょうか。政党の役目は、国からお金をとってきてばらまくことではありません。国民といっしょに社会をつくり、絆をつくっていくこと。そうした政党のかたちをつくっていくために、国民の胸に刺さるような立憲ビジョンを期待しています」

政調会長代行・衆議院議員 逢坂誠二

「国家や企業といった大きなものよりも、暮らしや地域といったところに力を入れていってほしい。そんな思いが高まっているのを感じました。立憲民主党への期待がある反面、従前の民主党、民進党から変わっていないのではないかというご指摘をいただきました。民主党政権の失敗はどこにあったのかをかみしめて、次に向かっていきたい。タウンミーティングは簡単ではないですし、参加者のみなさんにも戸惑いがあったかと思います。しかし、いい機会でした。こうした取り組みを地域で何度も行っていくことが真の意味でのボトムアップ、草の根からの政治につながっていくのだと思います。立憲ビジョンについては、明治時代の『富国強兵』、戦後の『所得倍増計画』のような短い言葉で国家のビジョンがわかるような形で発信していってほしいという声をいただきました。そこをめざしてがんばっていきたいです」

政調会長代理・衆議院議員 山内康一

「子育てをしているお母さんから大学の名誉教授まで、本当に色々な方から話を聞くことができました。教育格差の問題など、なんとなくこういうことが問題なんじゃないかと思っていたことが再確認できたことがよかったですね。立憲ビジョンについては、日本はこうなるんだ、立憲民主党が政権を取ったら自分たちの暮らしはこうなるんだ、とイメージしやすいものになればいいなと思います。今日参加してくださったみなさんの思いを受け止めて、わかりやすい言葉で、目に浮かぶようなストーリーをもった立憲ビジョンにしていきたいですね」

岡山市議 森山幸治

「たくさんの方に参加していただきましたが、もっと若い世代の人が参加してくれるといいですよね。若い人たちが近づきがたい要因は何なんだろう。いつの時代も若い人たちの感性は間違っていないと思うので、若い人たちと政治の橋渡しをしていきたいです。立憲ビジョンに関しては、いきなりビジョンという言葉が出てくると引いてしまう人もいるかもしれないので、ビジョンが抵抗なく入ってくるようにする前の準備運動のような動きをつくっていくといいかもしれませんね。立憲民主党は、言葉だけでなくにじみ出る姿勢で支持してもらえる党だと思っています。人にやさしい党として多くの人たちに関心を持ってもらえるようなビジョンにしていきたいと思います」

参加者の方にも感想をいただきました。

「自分とちがう年代の方とたくさん話ができたのがよかったです。たとえば、クルマを運転できなくなったお年寄りはふだんの買い物なんかも大変なんですよね。私たちはまだそういうことは実感したことはなかったので、この先どうなっちゃうのかな、なんて考えるきっかけになりました」

「初めてこういう場に参加させてもらったんですけど、立憲民主党を身近に感じることができました。こいう場で、同じ志を持つ人を見つけてつながっていきたいですね。ちがう世代の方とお話しできることで学ぶことも多かったです。また参加したいですね」

生活の中から生まれる疑問や、地域でぶつかっている課題について、政治家と有権者が同じテーブルで語り合うというスタイルは、これまでの日本の政治ではあまり見られないかたちだ。言葉だけでは理解しづらい『草の根、ボトムアップ型の民主主義』というものがどういうものなのか、そしてそれがどんな可能性を持つのかを実感できた時間であった。各地で展開されていくというタウンミーティングの今後に期待が高まる。