立憲民主党は6日、憲法調査会(会長・山花郁夫衆院議員)を開き表現の自由の委縮を懸念する芸術関係者から話を聞きました。ヒアリングを行いました(写真上は、「表現の不自由展・その後」の中止騒動について語る津田さん)。

 まず「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」の中止騒動について、ジャーナリストで「あいちトリエンナーレ2019」芸術監督の津田大介さんから、(1)展示中止判断は妥当だったか(2)展示中止判断は「検閲」だったのか(3)展示内容(キュレーション)は妥当だったか(4)現代美術とSNSの相性の悪さの問題(5)企画体制(ガバナンス)は適正だったか。今後望むべき体制は(6)文化庁の助成金不交付問題――の観点から話がありました。

 助成金不交付を誰がどのように決定したのかについては、インパクトがある決定で、7800万円という大きな金額であり局長級の官僚でも勝手に判断できる案件ではないとして文化庁・文科省の官僚が行ったというのは考えにくく、政治的にも大きな意味を持つ不交付決定を官邸に伺いを立てずに大臣が勝手にやるというのも考えにくい、さらに今回の助成金は「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)」であり官邸主導のもと進められてきた事業であるということもあり、官邸の意向で8月上旬には決められていた蓋然性が高いと話しました。また文化庁審議官が決裁したことになっていますが、議事録もなく、いつどのような理由でなぜ決めたのかがブラックボックスになっている状況だと語りました。

 また「公金を使った展示として適切なのか」といった議論があることについては、納税者ほど多様な集団はなく、一つの意見に集約することはできないと話し、不自由展を再開する際の愛知を拠点とするメディアの調査では賛否は半々であり、賛否のそれぞれの立場に税金は投入されており、だからこそ内容は判断せず介入せず中立であることが公金投入のあるべき姿だと指摘しました。

 さらにこの件に関連して、新聞は軽減税率の対象であり間接的に公金が使われているとして、公金投入を理由に、政府を批判したり、日本人に対しての戦争責任や歴史認識を問うといった議論を提案できなくなる話に容易にすり替わると指摘。参加した報道メディアに対し、メディアの表現の自由にも大きく関連することであり、右も左もないので自分たちの問題として考えていただきたいと訴えました。

 憲法研究者で武蔵野美術大学教授の志田陽子さんは、周囲の芸術家や芸術家になろうとしている学生から将来を憂慮する声が多くあり、特に将来補助金を受けたいと考えている学生から自分たちが作っていく作品について配慮しなければならないのだろうかといった相談が寄せられていると話しました。

 また「政府広報」と「芸術支援」は違うと話し、広報であれば主体である政府がその作品について責任があるが、美術展などへの支援の場合は、作品自体については作家が主体であると指摘し、分けて考える必要があると語りました。

 さらに「政治的表現」といった場合には、「政治的な意味を持つ出来事に触発された表現」と「政治活動にあたる表現」とは異なるとして、これらも分けて考える必要があると指摘しました。

 現代美術作家の小泉明郎さんからは、天皇制や加害の歴史を扱う作品を作ってきたことから、日本の現代美術館や公的な場所では、以前から現場が萎縮しており発表するのが難しかったと振り返りました。そして今回、表現の不自由展で風穴を開けてもらったが、その後すぐに中止となったことで蓋をしていた問題が一気に出てきたと説明。「いくら発信しようと思っても発言力がなかったし、発信力がなかった」「こうした形で(表現の自由について)話ができているというのは、すごくポジティブなこと」だとして、表現の自由が日本の社会で議論される機会になればと話しました。

 また、天皇の肖像を燃やす表現については、(1)不敬罪はなく法律を犯していることはない(2)象徴として日本人の内面の話になると信教の自由に抵触する――として規制することはできないと主張しました。

 彫刻家の小田原のどかさんは、あいちトリエンナーレ2019では国際芸術祭の招聘作家で、日本の敗戦や占領からどういった彫刻が生まれてきたのかの調査とともに作品を展示するといった活動をしています。

 負の歴史を扱う作家・作品の必要性について小田原さんは、この国の成熟度の示すものであり、そうした表現を規制することは社会が不寛容であることを国内外に広く示すことだと指摘しました。さらに萎縮が生まれることで、本来であれば光が当たるべき事実が埋もれてしまうことへの憂慮を示しました。

 美術家の会田誠さんは、あいちトリエンナーレの参加作家ではないものの、自身が出品をしていたオーストラリアのウイーン行われたJapan Unlimited展で日本政府の公認が取り消されたことについて言及。イタリア人キュレーターによる社会問題、政治問題などを扱う傾向が強い日本人アーティストの作品を集めた企画であり、現代の日本社会が抱える問題に真剣に取り組んでいる作家の表現をみることが海外のアートファンにとっては国際交流であり、現代美術の特徴だと説明。公認取り消しについて、日本が文化的に2流国家だと見られてしまい国益を損なうと指摘しました。

 登壇者の話の後、あいちトリエンナーレへの補助金採択の際に審査委員を務めており、その後不交付の決定で「一度審査委員を入れて採択を決めたものを、後から不交付とするのでは審査の意味がない」として審査委員を辞任している鳥取大学特命教授の野田邦弘さんは、今回は芸術家に対する攻撃だったが、科学研究費やスポーツや国際交流などあらゆる知的活動全般に広がる可能性があると懸念を示しました。

 また、芸術文化振興の文化芸術活動を助成する要綱が改正され「公益性」に理由に助成の取り消しが可能となることについて、自民党の憲法改正草案で「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に置き換えていることの先取りであると指摘。行政の関与から知的活動を守るための非常に大きな問題だと語りました。

 志田さんからも「公共の福祉」と「公益性」について、「法に関するたいへん大きな、骨組みの部分での書き換えが起きてきている」との懸念が示され、「『表現の自由』と『公共の福祉』では問題がないものを『公益性』において問題があるとされたことは大変深刻なこと」だと指摘しました。

 参加していた記者からスポンサーの反応について津田さんに質問があり、(1)そこまでクレームは多くなかったこと、(2)今回の騒動で協賛金額を引き下げた協賛企業は1社もなかったこと、(3)協賛の表記を消して欲しいという企業が1、2社あったが、会計終了後にブレたような対応をしたことでいろいろあったので消さなければよかったとの話があったこと、(4)クレームなどに対する問い合わせマニュアルを事務局から送ったことが役に立ったこと――などの報告がありました。