立憲民主党は、綱領に「性別を問わずその個性と能力を十分に発揮することができるジェンダー平等」の確立を掲げ、女性の社会参加の拡大とジェンダー平等の観点に立ったあらゆる分野で平等な社会づくりを進めるために、党機関としてジェンダー平等推進本部を設置。政治の分野に多様な視点、多様な声を反映できるよう、女性候補の公募や、女性と政治をつなぐキャンペーン「パリテ・ナウ」の開催などを重ねてきました。
 今回、こうした取り組みを主導してきたジェンダー推進本部の神本美恵子本部長(参院議員)に、これまでの活動や今後の課題について話を聞きました。

――「パリテ・ナウ」という運動体を作った意気込みや想いをお聞かせください。

 「女性候補者を増やしてほしい」ということはずっと言い続けてきましたが、いざ候補者を探し始めると、候補者を発掘するきっかけや、発掘する“場”がそもそもないことに気づきました。女性候補というと組織の人間やアナウンサー、弁護士など、限られた人が多かったのですが、そうではなく、一見政治から離れているように見えるけれど、本当に政治的な制度を必要としている人たちに目を向けたいと思い、「パリテ・ナウ」という取り組みを始めることができました。これはとても重要なことで、しかもそこにジェンダー平等のメンバーだけではなく、選対のメンバーも入り、そうした問題意識を共有してできたことはとても良かったと思います。

女性候補者公募スタートにあたって「女性を画一的にとらえるのではなく、さまざまな分野にいる女性の声が政治に反映されてこそ『パリテ』な社会になる」と決意を表明(2018年12月21日)。

――ジェンダー平等推進本部と選対が一緒になって女性候補者の擁立作業を行ってきましたが、選対の目線とジェンダー推進の目線には違いがあったのでしょうか。

 重視する観点が違い、最初はギクシャクしていましたが、党として女性候補者を擁立しなければいけないという明確な意思を持ったことで、一致団結できたと感じています。何回も会議を重ねる中で、お互いの視点を共有することができ、だから最後は一つにまとまることができたと思います。
 何が何でも女性候補者4割を目指そうという目的を、党内で明確に共有できたのは、代表が記者会見の際に、女性候補者擁立を断言したことが大きかったと思います。

――政治から遠い女性たちに動いてほしいと思ったというお話がありましたが、成果は実際ありましたか。

 パリテカフェを通じて参加者の率直な声を聴けたことが、私たち政治家にとって、とてもよかった。彼女たちは具体的な実体験に基づいた事例を話してくれました。私たちは議員生活が長く、ある意味毒されてしまっていた部分があるため、社会で女性が直面する、例えばシングルマザーの問題を解決したいなど、明確な目標を持って政治に挑もうとする女性たちに出会えたことはすごく大きかったです。

――これまでパリテ・ナウの集会の案内に対して「私のような者が参加していいのでしょうか……」といった女性からの反応がありました。参加者の数も、男性に比べて女性が少ないという実状がありました。この現状に対して、どのように感じましたか。

 政治は男がするものといった刷り込みがなされてしまっているのではないかと思いました。「私のような」という言葉には、「女であり、社会的な地位やステータスもない人間が」「政治」を語ってよいのか、という意味合いをはらんでいるいるのではないかと思います。

――女性自身の内側にも壁がある。その壁を取り除いていくということもパリテ・ナウの大きなテーマだったと思いますが、どうでしたか。

 パリテ・ナウの20代の参加者のことが印象に残っています。彼女の「政治に対する自分の心理的な壁がある。」という言葉に、私はハッとさせられました。心理的に躊躇する、自分には難しい、向いていない、という政治に対する否定的な言葉がたくさん出てくる中で、私自身はそんな気持ちはとっくの昔に忘れてしまっていたことに気付きました。私自身は先輩から、「引っ込んでいたのでは何も変わらない」、「めったに声なんてかからないのだから、なんでもすぐに引き受けろ」というのを言われ続けてきましたし、女性解放の運動をするには、できるかできないか考えている暇もなく手を挙げていくしかなかった。でも、その彼女の言葉を聞いた時に、今の若い女性はそんなことを考えているのか…と驚く反面、確かに私自身も若い頃はそうだったのかもしれないと思い出しました。私は単純に自分の引っ込み思案な性格故とばかり思っていたけれど、女であるが故の育てられ方、どこか、3歩下がって歩きなさいではないけれど、どこかそういった育てられ方に問題があるのではないか。そのとき気付きました。「女らしくしなさい」という育てられ方と「心理的な壁」というのは、同じものなのではないかと思います。

第1回目のパリテ・スクールでは三浦まり上智大学教授を招いて議論(1月28日)

――政治に期待をしていないという思いが、男性に比べて女性はより強くあるのではないか。女性の声はなかなか政治には届きにくいという現実もあると思うが、その点についてはどう考えますか?  

 パリテ・スクールに参加した私と同年代の女性が、「どうせ政治は変わらないわよ」と言いましたが、長く政治に取り組んできた人の諦めみたいなものを感じました。でも、ここに来るっていうことは、まだ期待しているということで、諦めていない。そうやって期待と諦めの両極の気持ちを持ちながら、これまで過ごしてきた女性が多いのではないかと思います。そんな気持ちを、互いに語り合うことで「もう黙ってはいない」と一歩前へ踏み出す勇気が出る、パリテカフェやスクールはそんな場所になっているのではないかと思います。

――パリテ・ナウは、候補者を集めるだけでなく、その支え手も同時に作り出し、女性候補者を生み出すためのコミュニティーを作りたいという目的があるが、その点は手ごたえはありましたか?

 その辺はとても難しいことだと思います。私自身は労組出身で、最初から組織がある環境でしたから、コミュニティーがない状態で政治活動をするという難しさというのは私には分かっていない部分もあります。組合の中には女性部というものがあって、例えば育児休業法の成立を目指したり、産休補助の法律成立を目標にしたり、その中で想いをひとつにして活動をすることができていた。
 立憲民主党の女性議員には、自分を支えてくれるコミュニティーを持たずに活動する難しさに直面してきた人がたくさんいると思います。今は、立候補を決意して、自分で仲間を作っていくというのはとても難しいことだから、女性候補者を擁立する上で大きな課題であることは間違いないと思います。
支えてくれる人たちのコミュニティは、そんなに大きなものでなくてもいいと思います。ある女性候補者の集会に行った時、そこには親族や、子ども食堂を一緒にやっている仲間が集まっていました。特定の組織がない人たちでも、そういう地域活動を通したつながりから、4、5人でいいから本当に心を許せる人たちがいると、全然違うと思います。支援者の輪は、選挙活動をしていく中で自然とできることだから、まずはコアに支えてくれる人たちを数人見つけるというのが一番大事なことだと思います。

――ジェンダー平等推進本部の中にWTを設置して、性犯罪関係の刑法改正を検討し、「暴行・脅迫」要件の緩和をとりまとめました。

 今の「暴行・脅迫」要件は、「被害者の反抗を著しく困難にする程度の強度の暴行・脅迫」を必要としています。とすると、恐怖のあまりフリーズした場合は、該当しなくなってしまいます。そこに深刻な被害があるのに、処罰されない。WTでは、フリーズ案件も含み得るように「暴行・脅迫」要件の緩和を打ち出しました。
 保護法益についても、現行法では、強制性交等罪は社会的法益の章に置かれています。貞操といった古い価値観が表れています。そうではなく、個人の保護法益に条文の位置を移動することも、今回、提案しました。

児童虐待防止法改正案が全会一致で可決・成立(6月19日)

 今国会では、立憲民主党など野党の提案により、児童虐待防止法等改正にDV防止法の見直し規定が盛り込まれて成立しました。
 見直し規定が置かれたことは大きな意味を持ちます。見直し規定がないと、改正を検討することがいかに難しいかを私たちは身をもって体験しています。DV防止法は、2次改正以降、見直し規定を置かなかったために、改正されずに放置されてきました。目に見える身体的暴力から、目に見えにくい精神的、性的暴力へと暴力の中味が質的に変容しているのに、法の方が、現実に置いて行かれてきた。では、どう動かしていけばよいのか。
 DV防止法は参議院の共生社会に関する調査会で検討し、策定された経緯があります。共生社会調査会の課題の中にDVが入っていた。それによりDVの検討ができた。特に参議院のように、解散がなく6年という任期でじっくり検討できる場で、ジェンダー平等委員会のようなものを設置して、そこでは、男性のみで出発した議会運営のあり方をジェンダー平等の視点から見直していく、監視していくべきだと考えます。
 身近な問題であれば、なぜ、国会議員を呼ぶときに「君」と呼ぶのか。「君」は目上の人が目下の人を呼ぶ敬称。議会では男ばかりだったため、そこから「君」は男を呼ぶ敬称になったようです。「様」や「さん」に変えていきたい。

ハラスメント防止対策ハンドブック

――立憲民主党では、初めての議員、秘書、党職員対象のハラスメント防止対策研修会を開催しました。反応はいかがでしたか。

 何よりも出席率が高かったのがよかったです。欠席議員も補講に集まってくれました。重鎮議員も!立憲民主党っていい政党だなぁとあらためて思いました。参加者は前向きで、感触はよかった。立ち止まって自分をケアする時間、他人を傷つけていないかと自問自答する時間になったのではないでしょうか。

――票ハラがマスコミに取り上げられるようになりました。ジェンダー平等推進本部としても自治体選挙の女性候補者にアンケートを行いました。

 結果を重く受け止め、党の外に設置したハラスメント防止対策委員会に対応について検討してもらいました。委員会からは、参議院選挙に間に合わせて「ハラスメント防止対策ハンドブック」を製作して、各候補者事務所に配布するようにとの提言を受けました。今、ハンドブックを製作しているところです。抑止効果を期待しています。
 私は教員でしたので、学校の中で、性被害を出さないためにどうするかという話はずっとしてきました。が、その前に、加害者にならないためにどうするかというもう一つの柱が必要だとずっと思ってきました。
 相手を大事にするという価値観が大切だと教えてきました。嫌なものはいや、嫌と言われたら無理強いしないという人と人との基本的な関係性の上にある問題だと思います。だから、刑法の改正だけを行うのではなく、もっと社会全体で意識を変えていく必要があると思います。

――最後に、女性へのメッセージをお願いします。

 女性議員はおもしろい仕事です。野党ですから法案成立という達成感というのは難しいですが、そこに向かっていくプロセスの中で、仲間ができていく。それはずごく楽しいことでした。苦しいことのほうが多いけれども、色々な議論をしながら、反対している相手を動かしていくことは、とてもやりがいがありました。
 女に生まれたら「女」らしく、と育てられてきましたが、そうではない。私は私だと目覚めたら、人生はとても楽しいし、楽になる。自分らしく生きること、あるがままでいることが個性です。自分に正直に自分らしくいること、自分を好きになることがとても大切なことです、「私なんか」ではなく、「そのままの私」が政治に参加できる社会にしていきましょう!と女性たちに言いたいです。