「男女差別なんて昔のこと」――日本社会について、わたしたちは今、本当に心からそう言えるだろうか。医大・医学部入試での女性の一律減点、元財務省事務次官による女性記者へのセクハラ…ここ数年だけみても、わたしたちの身近なところに、根強いジェンダー不平等が残っている。一方で3年前、ハリウッドの映画プロデューサーに対するセクシュアル・ハラスメントの告発から本格化した#MeToo運動が日本でも定着。昨年は、職場で女性にだけヒールのあるパンプス着用を強制することに反対する#KuTooが注目を集めるなど、ジェンダー不平等に抗議する声、取り組みが次々と出てきている。
「昔と比べて、はるかに風景が変わった。今が変えるチャンスだと思う」と力をこめるのは、大河原雅子。立憲民主党のジェンダー平等推進本部長を務める衆議院議員だ。今、政治はジェンダー平等をどう実現していくべきか。3月8日の国際女性デーに向け、話を聞いた。
はるかに風景が変わった
——ここ数年、ジェンダー不平等に対して声を上げる動きが広がっています。20年近く政治活動をしてきた大河原さんは、この動きをどう見ていますか?
昔と比べて、はるかに風景が変わってきたと思います。性暴力被害やセクハラを告発する#MeTooや#KuToo、性暴力のない社会を求めるフラワーデモ、高校生のアイディアを生かした「痴漢抑止バッジ」、スマートフォンアプリを使った「痴漢レーダー」…。幅広い分野、様々な方法で、主に女性たちが声を上げています。
SNSで個人が発信しやすくなったというのももちろんありますが、医大・医学部入試で女性が一律減点されていた問題がわかりやすいように、見えないところで女性を排除するおかしな動きがあることが、次々と明るみになって、「男女平等」の建前が実は嘘だった!という事実に、女性たちが直面した。その衝撃が大きかったのだと思います。
わたしは、1985年に男女雇用機会均等法ができる前に社会に出ました。女性だけを集めた就職説明会で「補助的な仕事しかさせません」とはっきり言われたとき、それまで教えられてきた憲法には「男女の平等」とあるのに、「あれ、就職差別があるじゃない!」とショックで、思わず席を立ったこともありました。初めてする仕事って人生にとってすごく大切なのに、スタート地点から、男性と差をつけられるのか、と。今の若い女性たちは、わたしが40年近く前に受けた衝撃と同じようなものを感じているのかなと、なんだか申し訳ない気持ちです。
でもあの頃と違うのは、この数十年間ずっと、女性たちがジェンダー平等を求めて活動してきた蓄積があること。いろいろな本を書き、法律を作り、声をあげやすい環境が少しずつできてきました。今では、勇気をもって声をあげれば、それをメディアが大きく取り上げます。男性たちもジェンダー差別はおかしいと怒りを表明するようになったのも、以前とは違いますね。若い女性たちが新しいやり方で声を上げてくれたのはとても心強いですし、わたしたちの世代も「まだまだ戦わなきゃ」と世代を超えて取り組むようになっていると思います。
「3児のあなた」と呼ばれた議員デビュー。圧倒的に数が少ないから脅威とはみなされなかった
——選挙や議員活動では、不平等を感じることはありましたか?
1993年に初めて東京都議会議員選挙に出た時、わたしは小学生3人の母親でした。「3人も子どもがいるのによく政治にかかわる時間があるね」といろいろな方面から嫌味を言われたのは、今でもよく覚えています。当時「3時のあなた」というテレビのワイドショーがあったのですが、それをもじって「3児のあなた」と揶揄されたりね。別の選挙の時に、「子育て介護は社会の仕事」というフレーズを掲げたら、相手側は「子育て介護は家庭の仕事」と平然と言い放った、ということもありました。
いざ都議会に入ってみると、そもそも女性の数が圧倒的に少なく、草の根出身議員はさらに珍しかったのか、排除される雰囲気ではありませんでした。従来の政治制度や社会を変える脅威とは、みなされなかったんでしょうね(笑)。もちろん女性へのハラスメントは昔からありましたが、特に最近は徐々に女性議員の割合が増えて、発言力が増してきたからこそ、女性議員へのヤジやセクハラが目立ってきているんだろうと思います。
ジェンダー・ギャップ指数G7最下位からの再出発
——声を上げやすくなってきたとはいえ、2019年のジェンダー・ギャップ指数(※)は昨年から順位を落として121位と、G7の中で最低だったことは記憶に新しいです。
そうですね。経済・教育・健康・政治の4分野のうち特に評価が低かったのが、経済と政治でした。日本の女性議員数は、2020年2月で衆議院465人中46人、参議院245人中56人しかいません。帝国データバンクの発表によれば、2019年の企業の女性管理職の割合は7.7%にとどまります。
労働面で言えば平成の30年間、女性が就くことの多い介護や保育の仕事の基本報酬は改善が遅れ、非正規労働は低い賃金、労働条件が残ったまま。男女間で賃金の格差も放置されています。1997年以降、共働き家庭の数が専業主婦家庭の数を上回っており、女性が働くことが当たり前になってきたのに、女性たちは家計の補助的な立場から抜け出しにくく、自立した生活が難しい。シングルマザーの経済困窮も深刻です。ジェンダー平等の面で、平成は「失われた30年」だったとも言えると思います。わたしたちはここから、再出発しないといけません。
※ジェンダー・ギャップ指数:世界経済フォーラム(WEF)が、各国の男女の格差を経済・教育・健康・政治の4分野14項目で分析する。2019年の対象は世界153か国。
地域の女性たちに、立憲民主党を使ってほしい
——女性の政治参加を増やすため、党内ではどんな取り組みをしてきたか、また今後について教えてください。
政治分野における男女共同参画推進法(日本版パリテ法)ができて初の国政選挙だった昨年の参院選では、「パリテ」(男女半々の議会)を掲げました。スクールや相談窓口を開いて、政治に関心のある女性が応募に踏み切れるように、背中を押す活動に力を入れました。参院選直前になってしまいましたが、「ハラスメント防止宣言」と対策ハンドブックを公表し、研修もしました。結果、候補者全体の4割を越えて、女性を擁立できたのは、良かったと思います。
ただ選挙後のアンケートでは、わたしが20年前に経験したのと同じようなものもあって、ジェンダー不平等の根深さ、深刻さを改めて感じましたね。党内への浸透も不十分だった。いま全国で順次、ハラスメント防止研修を開いているところです。身近なところで起こってしまう様々な暴力、ハラスメントを絶対に見逃さず、なくしていく、という方向性を皆さんと共有していきたい。
また地方議会議員選挙は、物理的にも心理的にも有権者や支援者との距離が国政選挙より近いので、暴力やハラスメントに対してさらに声を上げにくいんです。「あらゆるハラスメントを許さない」というメッセージ、党として女性候補者支援の姿勢と仕組みもっと確立させて、女性議員のいない地域に住む人たちにこそ、立憲民主党をうまく使ってほしい。そのために、草の根精神で活動している女性地方議員たちのネットワークづくりを、いま一緒になって進めているところです。
「失われた30年」を取り戻す、今こそがチャンス
——最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。
3月8日は国際女性デー。女性参政権をはじめ今ある様々な権利は、多くの女性たちの苦労と献身によって獲得されてきました。世代を超えて声を上げる環境も整ってきた、今こそがジェンダー平等を実現するチャンスです。
道のりは険しいですが、今ここから、現状を変えていきたい。性暴力に関する刑法改正や、配偶者暴力防止法改正、選択的夫婦別姓の実現をはじめ、一人ひとりが自立して生活できる社会を目指した幅広い分野での立法や政策立案をしていくだけではなく、「これって差別じゃないかな?」と感じている皆さんに情報を提供、共有して、ジェンダー平等の気運を高めたい。そんな思いで、特設ウェブページを開きました。
SDGs(持続可能な開発目標)の第5目標にも掲げられている「ジェンダー平等」。この言葉をきかっけに、誰にとっても生きやすい社会づくりに参加してもらえればうれしいです。
大河原雅子 MASAKO OKAWARA
1953年生まれ、神奈川県横浜市出身。衆議院議員(1期)、東京21区総支部長。1977年国際基督教大学卒後、舞台・映画の制作会社に勤務。1988年、東京都に食品安全条例の制定を求める直接請求運動に参加。以後環境問題などの活動に関わる。1993年、東京都議会議員に初当選、以後3期務める。参議院議員1期を務めたのち、衆議院へ。現在は立憲民主党ジェンダー平等推進本部長。