家族だけで高齢者介護を支えることが難しくなり、「介護の社会化」を理念に掲げた介護保険制度は、今年で制度開始から20年を迎える。この間、少子高齢化はさらに進み、介護離職や介護現場の人材不足、サービス利用者の負担増が問題視され続けてきた。

制度の3年に一度の見直しである2021年度改正では、「介護保険制度の持続可能性」が重要なテーマだが、深刻な人材不足についての明確な対応策は示されていない。

崩壊寸前の介護の現場で、いま政治に何が求められているのか。立憲民主党社会保障制度調査会の長妻昭調査会長が、介護事業に携わる守屋哲さん、石黒聡さんから話を聞いた。

「介護離職ゼロ」推進とは裏腹に、離職に追い込まれている現役世代

長妻)まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?

守屋)東京都板橋区の「ACTあやとり」というNPO法人で、理事、通所介護(デイサービス)生活相談員をしており、介護全体に携わっています。

石黒)東京都世田谷区の居宅介護支援事業所で、主任ケアマネージャーとして働いています。ケアマネ歴は約11年になります。

長妻)今、働く意欲を持った人が親族の介護を理由に仕事を辞める「介護離職」が社会問題となり、政府も「介護離職ゼロ」を掲げています。実際、どうやって介護離職に追い込まれてしまうのでしょうか。

守屋)老人ホームなどの施設に入れば子どもは仕事をできる可能性がありますが、経済的な負担がかなり大きく、それなりの収入がないとやっていけません。一方、在宅の場合はサービスを受けられる時間が限られます。その上で親が(認知症で)徘徊し始めたりすると、目を離せなくなってしまう。

最近は特に、50代で独身の息子さんや娘さんが80代の親の介護をしているケースがものすごく多いと感じています。結婚して家族がいれば、配偶者や子どもと介護を分担することもできますが、独身だとそれができません。

「地域の中で、自分らしく安心して暮らし続けたい」という思いの実現を目指しサービスを提供する守屋哲さん

石黒)私がいま担当している方に、70代で要介護5の男性がいます。ほぼ寝たきりで妻と二人暮らし、近くに住む娘さんは働いています。ケアマネの私が作成した介護プランは、まず、ヘルパーさんに朝・昼・夜と1日3回来てもらい、加えて、同居する妻の負担を減らすためにデイサービスにも週2、3回通ってもらう。看護も必要なので訪問看護師も依頼する。こうして本人も家族も望むプランを組むと、介護保険から給付される要介護の支給限度額月額約36万円をはるかに超えます。

限度額を超えた分は全額自己負担になるので、介護保険+自己負担で月に25万円くらいかかる。医療費も含めてこれ以上負担が増えると、ヘルパーさんに来てもらう代わりに娘さんが介護離職して昼間の世話をした方がいいのではないかという話になってきます。

娘さんからは毎月「どこか減らせないですか」と聞かれますが、ヘルパーさんの訪問回数は減らせません。施設入所も検討はしますが、娘さんにはやっぱり在宅で何とかみていきたいという思いがあるわけです。

地域包括支援事業も経験してきた石黒聡さん

「いっそ寝たきりになってくれた方が楽」という娘の本音

守屋)息子さんと同居している要介護5の方も、毎日朝晩、身体介護、生活介護の訪問介護を入れていて、保険点数オーバー分を自己負担するのが厳しく、週2回通うべきデイサービスを休ませたりしています。でも、そうすると心身の機能がどんどん後退してしまう。

別の要介護5の方は夫と娘さんとの3人暮らし。夫の協力は得られず、娘さんが一人でお母さんの世話をしているのですが、夜中に何度も起こされたりして精神的に追い込まれています。介護される側も自分が身動きできない苛立ちが募り、バトルになってしまう。娘さんは必死に介護しているのに怖いのは、これが虐待につながることです。

長妻)子どもが親を虐待するという事件も発生していますが、そうしたケースの中には適切な介護サービスを受けていれば防げたものもあるのでしょうか?

長妻昭衆議院議員(社会保障調査会長)

守屋)あると思います。お金の問題もあるので、なかなか難しいところではありますが。

石黒)ある娘さんが「お母さんの認知症はだいぶ進んでいるけれど、まだ身体は動ける。いっそ寝たきりになってくれた方が楽」と言っていました。嫌な言い方ですが、体が動くせいで、夜中に冷蔵庫をあさったり、家の中を徘徊したりするわけです。だったら寝たきりになってくれた方がよほど介護しやすい、と。

長妻)特別養護老人ホームなどの施設に入ることができれば問題は解決するのでしょうか?

石黒)選挙の時に候補者の皆さんの演説を聞いていると、多くの方が特別養護老人ホームや老人保健施設を増やすと訴えます。もちろんそれらも貴重な社会資源ですが、箱モノをつくるには限界がありますし、職員も足りていない状況です。

それに、現実には在宅で介護している人の方が圧倒的に多いので、在宅介護の保障を充実させてもらわないと問題は解決しません。いま政府が検討している利用者負担の引き上げは介護離職をさらに増やすことになります。先程話したように、いまでさえ月々20万円以上払わなければならず、ギリギリでやりくりしている方がたくさんいるのですから。

長妻)ご本人が「住み慣れた地域で最期を迎えたい」と願っていたり、ご家族が「できる限り一緒に暮らしたい」と考えたりしているなら、それが叶う環境を整えることが必要ですね。

人手不足、最低賃金、職員の平均年齢60歳超――“介護崩壊”Xデーの到来

守屋)介護職がいないことも大きな問題です。募集してもまったく入ってこない。大手の事業者はまだそれなりの用意もできますが、われわれのような小さいところではもとからのお金もないですから、今の介護報酬(※)だけでは成り立たない。周りの小規模事業者はどんどん潰れていっています。

※介護報酬:介護サービスを提供する事業者に対して、サービスの対価として支払われる報酬。介護報酬の7~9割は国の介護保険から支払われ、1~3割はサービス利用者が負担する。

石黒)大手も、もう人がいません。要介護5の方だと毎日ヘルパーさんを入れる必要があり、少なくとも朝と夜の1日2回は必要になったときに、今は大手でも1社ではまかなえず、他の2、3社と合わせて組まないと人が足りません。そうすると本人も家族も、どの会社のどのヘルパーさんが来ているのかが分かりにくく、それがまたストレスの要因になっています。

守屋)しかも、われわれのNPOの職員の平均年齢は60歳を超えています。70代も含めて、60歳を超えた人が中心となって働いているのが介護現場の現状です。

長妻)このままだと、Xデーと言ったら言葉は悪いですが、施設や設備などのハード面は整っているのに介護人材の不足のせいでサービスを提供できない、介護崩壊とでもいうべき日がくるかもしれませんね。いわゆる団塊の世代が75歳以上になる2025年まであと5年ですが…。

守屋、石黒)Xデーはもう現実に来ていますよ。

守屋)まず介護職の資格試験を受ける人がどんどん減っています。介護業界に入ってくる人はいないのに、辞めていく人はたくさんいる状況です。現場は高い専門性や資格の取得を求められますが、待遇は一向に良くなりません。われわれのように小さい事業所はどうしても最低賃金しか出せない状況で、みんな志だけで働いています。

長妻)給与が少なくて結婚生活ができないから、“寿退社”するという話があると聞きます。

守屋)そうせざるを得ない状況なんです。人材不足に対しては、とにかく処遇を改善すること。ただ、今の加算方式はものすごく面倒ですね。

石黒)複雑ですし。加算ではなくベースの基本報酬を上げてもらわないと意味がありません。

守屋)そう、ベースアップが重要です。例えば介護職員処遇改善加算(※)によって、介護事業所が得たお金は介護職員に賃金として還元するよう義務付けられていますが、処遇改善はするけれどボーナスは減らすという策を取っている事業所も結構ある。

そうでもしないと事業を続けられないところまで、事業所が追い込まれているからです。ですから、介護基本報酬自体で事業所が成り立つように制度を改善してもらいたい。

もう一つは、事務作業の負担軽減ですね。介護保険制度が変わるたびに、利用者のところに判子をもらいに行かなければいけません。介護契約書の作成や、ケアプランのブラッシュアップ、モニタリング(介護サービスの提供者、利用者、その家族から聞き取り調査を行い、そのサービスが適切どうかを確認すること)などの作業も必要で、事務経費がすごくかかっています。

※介護職員処遇改善加算:介護職の給料アップ+やりがいの持てる職場づくりを促進するための制度。介護事業所が介護職員のキャリアアップの仕組みや、職場環境の改善の計画を立て、それが認められた介護事業所にだけ、給料上乗せ費用が支給される。

石黒)ケアマネの事業所でも事務負担がものすごく多い。待遇改善に加えて、現場で働くケアマネの裁量に任せる部分を増やしてほしい。例えば月1回義務付けられている定期訪問ですがケースによって毎月訪問する必要性が高い人と、2、3カ月に1回で良い人がいるのに、現状ではそれができない。 一人ひとりに寄り添った支援をケアマネが行うためには、むしろこういったところをもっと見直すべき。ケアマネをもっと信頼して欲しいです。そうすれば余計な事務も発生しない。

「政府は、“人は誰でも年を取り、老いる”という当たり前のことを忘れるな」

長妻)政府は介護を受ける当事者やその家族、介護従事者の実態を踏まえずに、介護サービス利用者の自己負担額を増やす方向で、社会保障制度改正の議論をしがちです。一時的に国の負担は減りますが、しわ寄せは家族や当事者に来る。それが長期的には利用者の重症化を招き、働き盛りの世代の介護離職など、結局社会的コストとしても高くつくことになります。

立憲民主党としては、制度改正をしても当事者の症状や介護従事者の事態の悪化につながる恐れがないこと、医療・介護保険財政を悪化させる恐れがないことなどがはっきりわからない限り、改正は認められないと考えています。政府はまず、議論の前提となるデータやエビデンス(確証、証拠)を示すべきです。

石黒)データと言えるものではありませんが、介護用品・福祉用具の本人負担について、一例を紹介させてください。自分で起き上がってトイレに行くことができない方がいたのですが、部屋に簡易な手すりを付けただけで立ち上がって歩けるようになったんです。現状だと本人は1割負担なので、その手すり1本を月額300円くらいで借りられるわけです。ご本人の経済状況を考えると、それが3倍の月額1,000円だったら借りなかったと思うんですよ。そのまま寝たきりになってしまったかもしれない。

当事者の負担額が増えることによって利用が控えられると、寝たきりが増え、介護負担が増え、結果として介護離職も増える。

守屋)そして虐待も増える。悪循環ですね。

石黒)介護保険で福祉用具のレンタルや購入ができなくなったりしたら、本当に在宅介護は崩壊してしまいます。

守屋)安倍総理は、『一億総活躍社会』もそうですが、「70歳まで働きましょう」とみんなが幸せに人生が送れるようなことを言っていますが、人は必ず年をとって老いていくんですよ。

われわれも日々一生懸命、介護度が重くならないように取り組んでいますが、デイケアを増やして訓練しているからといって、心身の機能がずっと保てるかといったらそんなこともない。老いていく中で余生をどう過ごすかということも大事であって、それを支えているのが私たち介護職員です。そういうことを考えて介護保険制度を見直してほしいですね。

介護はAIに置き換えられない仕事

石黒)私はケアマネになって11年くらいで、この業界には20年以上います。介護業界の人はみんな優しいので、不満があっても厚生労働省から下りてきたものを「しょうがないよね」と言いながらやるし、辞めるときは黙って辞めていきます。ケアマネは、新しく入ってくる人が少なくなりましたし、入ってきても定着しません。辞めていく人は本当に2、3カ月で「僕には無理です」と辞めていってしまいます。

長妻)今後いろいろな仕事がAIに置き換わると言われていますが、人間しかできないのがケアの領域だと思います。本当に尊い仕事です。高い志を持って入ってきた人が失望して職場を去るというのはやるせないですよね。

石黒)僕ももともとおじいちゃん、おばあちゃんと話すのが好きでやっている仕事なのに、毎月書類と向き合って日々のことに追われて、ご本人の顔を見られないんですよ。

長妻)まずはそこを変えないといけないですね。

守屋)私は介護業界で働いてまだ8年くらいですが、いまの介護保険制度の中でお年寄りの自立支援や、何とか在宅で介護をしていきたいという方たちの思いを支えたいという気持ちが一番強いですね。

長妻)ケアの仕事は今後ますます重要になります。志の高いみなさんが泣く泣く介護をあきらめるような社会にはしたくない。立憲民主党は介護職員の処遇改善を訴え続けています。介護を受ける側が、十分なサービスがなく重症化するのを防ぐのも重要です。これからも現場の皆さんの声をしっかり聞いて、提言や政策をブラッシュアップしていきます。