新型コロナウイルスの影響で突然の小学校休校が始まった3月頭以降、医療従事者をはじめエッセンシャルワーク(※1)を担う人たち支える社会インフラとして、報道などでも注目を集めたのが、放課後児童クラブだ。保護者が就労などによって昼間家庭にいない小学生を対象に、平日放課後と土曜日や長期休業日に子どもを預かる。共働き家庭が増えて保育園と同じように社会的ニーズが急速に高まっており、入所児童数はこの10年間で約1.6倍、2019年には129万9,307人となった(※2)。

放課後児童クラブは、公設公営、公設民営、民設民営と自治体によって運営形態が様々で、小学校休校による影響も、地域によって違いがある。ただ共通するのは、従事者である放課後児童支援員の給与が生活できるギリギリか、それ以下だということ。また民営化が進み、多くを非正規、臨時雇用の職員が支えてきた。今回のコロナショックはそうした不安定で、低賃金の環境にいる職員をますます苦しめた。

5月26日に行ったオンラインのヒアリングでは、立憲民主党の枝野幸男代表と早稲田夕季衆議院議員が、各地の放課後児童支援員の方々から話を聞いた。浮き彫りになったのは、処遇が悪く人材が定着しない現状のままでは、コロナ感染の第2波にも、今後の保育ニーズの高まりにも耐えられない、という危機感だ。

※1)医師や看護師、保育士、物流関係など社会機能を維持するのに不可欠な仕事
※2)厚労省調査(2019年)より。2010年の入所児童数は81万4,439人、2019年には129万9,307人。


上段左が高知市内の放課後児童支援員、右が全日本自治団体労働組合の本部職員、中段左が東京都内自治体Aの放課後児童支援員、右が北海道札幌市内の元放課後児童支援員、下段左が早稲田衆院議員、右が枝野代表

小学校休校の3カ月間、放課後児童クラブの綱渡り

通常、放課後児童クラブが子どもたちを預かるのは学校の終業後だ。ただ新型コロナウイルス感染拡大防止のため3月頭から、小学校が休校。指定管理者制度を使って公設民営の放課後児童クラブを運営する東京都内の自治体Aと北海道札幌市では、約3カ月もの間、朝から夜まで子どもたちを預かっていた。十分に広いとは言えない施設で、児童や家族、そして自分自身の感染防止に気を配りながら超過勤務をする支援員たちの疲労は重なり、精神的にも身体的にもギリギリで持ちこたえていた、という。

東京都内自治体Aの放課後児童支援員:家族から出勤を反対された、感染が怖くて出勤できないという支援員もいました。その分は行ける人がフォローに入り、負担が重くなっていきました。1日1時間半、2時間くらいの超勤をする日が週の大半を占め、それが約3カ月積み重なっています。

国の基準では現状、40人までの児童を2人の支援員でみるのが目安です。自治体で多少の上乗せをして職員配置をしているところもあり、たとえば東京都内の自治体Aでは40人に対し3人。ただコロナで人が足りなくなり、今はぎりぎり、40人に対し2人でみています。

北海道札幌市では、利用料金が無料のため休校が決定した後に多くの児童が利用申請を行い、対応に苦慮したという。

北海道札幌市内の元放課後児童支援員:児童が集中的に集まったため、一人あたり面積基準の1.65平方メートルの目安すら確保できなかったクラブもありました。三密を避けるために屋外遊びを積極的にしましたが、3月の札幌はまだ吹雪の日もあります。安全確保が思うようにできず、歯がゆかったです。

一方、放課後児童クラブを公設公営で運営している高知県高知市では、昼間の時間帯は小学校が児童を預かるという連携をしたため、特に超過労働は発生しなかった、という。

「副業なしでは生活が成り立たない」。支援員の処遇改善が急務

5月下旬に緊急事態宣言が解除され、6月からは各地で小学校の分散登校が始まっている。ただ、集中的な利用がなくなれば放課後児童クラブが抱える問題が解決するわけではない。支援員の処遇は地域によって様々だが、給与水準は低い。根本的な処遇改善なしには、人手不足の解消はのぞめない。

高知県高知市内の放課後児童支援員:高知市の放課後児童支援員は今年度から、会計年度任用職員に切り替えられました。非常勤として働いていた今までも、年収200万円以下のワーキングプアと言われていましたが、この切り替えで月々の生活はより厳しくなりました。

これでは生計が成り立たないので、多くの支援員はダブルワークで副業をせざるを得ません。副業といっても、昼からは放課後児童クラブの仕事なので、午前中だけ働ける仕事を見つけなければいけません。一方で夏休みは朝から夜まで放課後児童クラブを開けているから、そちらに出ないといけない。そうなると、年間通して一定の副業はできず、生活は不安定になりがちです。わたし自身、土日に副業をしていましたが、コロナの影響で派遣切りにあいました。

北海道札幌市内の元放課後児童支援員:今、札幌市の放課後児童クラブでフルタイムで働く職員の初任給は手取り約14万円です。どんなに子どもたちに対して思いが強くても、やりがいだけではやっていけない。

東京都内自治体Aの放課後児童支援員:長く勤め、今後も放課後児童クラブの仕事で生計を立てたい方もたくさんいますが、身分が非正規で給与が低いため、泣く泣く辞めていく方もいるんです。わたしはそういう方々をたくさん見送ってきました。本当に、仕事に見合った給料がほしいと皆さん口をそろえて言います。

子どもたちに本、職員にパソコンさえ買えない。社会的認知が高まった今こそ、政治が動くとき

放課後児童クラブは、子どもたちの育ちを支える、社会に欠かせないインフラだ。小学校休校により放課後児童クラブについての報道が増え、社会的な認知も上がってきている。現場の人たちに共通したのは、「社会的認知が上がってきているこの機会を生かして、政治が動いてほしい」ということだ。

東京都内自治体Aの放課後児童支援員:現場は各自が工夫して、自信と自負をもって毎日保育にあたっています。ただ、いくら現場が頑張っても、その背景にある制度や処遇が悪くなると、気持ちが折れてしまう。放課後児童クラブは「保育所の二の次」「ついで」に扱われていると思い、モチベーションを下げてしまっている職員もいます。だから今こそ、いろいろな現場の声を聞いて、処遇改善にぜひつなげてほしい。

北海道札幌市内の元放課後児童支援員:コロナ危機で、放課後児童クラブが社会の大事な受け皿だと認識してもらえたのを機に、予算や職員の配置基準の見直し、国家資格化などを進め、処遇改善してほしい。優秀な人材が定着せず、学童保育の業界が先細りになってしまう危機感があります。またこのままでは第2波が来た時に、支援員が集まらないから放課後児童クラブを開けず、受け皿の機能を果たせないことも容易に想像できます。

良質な保育をするには十分な設備が整っているとは言いがたい施設もある。もし感染の第2波が来てしまったときのために、子どもたち、支援員双方にとって少しでも良い環境をつくっておくことも必要だ。

高知県高知市内の放課後児童支援員:今の仕組みでは放課後児童クラブが自由に本を買う予算もつきません。コロナ下では一人で過ごすことが求められましたから、子どもたちは何十年も前の本を、繰り返し読んでいました。古本でもいいから、子どもたちのストレスが少しでも減るように新しい本を入れてあげたいですね。

職員の視点としては、放課後児童クラブはパソコンもない環境です。パソコンがあれば市役所の担当課とのやり取りもスムーズにいきますし、教育委員会からのお知らせもまずホームページに上がることが多いですよね。支援員が持つ情報が古いと対応も後手に回ってしまいます。スピーディーに情報が得られる環境を作ってほしいです。

「130万円の壁」基準の柔軟化も。国会議員と自治体議員の連携で、全国横断的な対策へ

札幌市と東京都内の自治体Aは、小学校休校の3カ月間、臨時職員(パート)の支援員にも、多く働いてもらったという。ただ配偶者などの扶養に入り、社会保険料の負担が発生しない年収130万円の範囲内で勤務量を調整している支援員からは、勤務を抑えなければという声が出始めている。早稲田衆院議員は、「130万円の壁の影響で働ける方が減り、今年の後半に現場で人手不足になってしまう状況は避けなければなりません。特例的に社会保険料の支払う基準を柔軟にするなどの仕組みを考えたいです」と応じた。

枝野代表は放課後児童クラブの地域ごとの違いを議員間で共有し、国として放課後児童クラブに注目していく、と話した。

「放課後児童クラブ」と一口に言っても、高知のような公設公営、札幌市や東京都内の自治体Aのような公設民営など、運営形態や予算のつけ方、支援員の処遇など、地域による違いがとても大きいことが今日、とても良く分かりました。おそらく国会議員は自分の地元の放課後児童クラブのことしか知らず、横断的に地域ごとの違いを踏まえてどう後押しできるか、考える機会がないのだと思います。このことはぜひ、党内外で共有したいです。

立憲民主党を含む共同会派は6月8日、学童保育や保育所の職員にコロナ下での勤務に慰労金を給付するよう求める要望書を、厚生労働省に提出した。立憲民主党はこれからも、保育のプロとして誇りを持って働いている人たちの処遇改善に力を入れていく。