新型コロナウイルスの感染拡大にともない、政府は4月7日、「緊急事態宣言」を発令した。自粛を余儀なくされてきたイベント会社や飲食店などは、より一層の経営悪化が予測される。「補償なしの自粛」への不満や不安は日に日に強まり、Twitterハッシュタグ「#自粛と給付はセットだろ」がトレンド入りするなど、ネットでも声が上がっている。

芸術分野に携わる人たち、また感染拡大前から生活に困窮している人たちも、深刻な影響を受けている。宣言発令の翌日に配信した立憲LIVEには、これらの分野から劇作家・演出家の平田オリザ氏、認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長の大西連氏、ライブハウスオーナーで署名活動の「#SaveOurSpace」を行うスガナミユウ氏の3人をゲストに招き、立憲民主党政務調査会長の逢坂誠二衆院議員と、司会の白沢みきさんが現場の切実な声を聞いた。予定の終了時間を大幅に過ぎるほど真剣なやり取りが行われた今回の立憲LIVEの模様を、ダイジェストでお届けする。

演劇、ライブハウス、生活困窮者支援。現場は今、どうなっているのか?

ゲスト3人からはまず、演劇、生活困窮者支援、ライブハウス運営それぞれの現状を共有してもらった。

平田「演劇界は直撃を受けています。たとえば小劇場の、数百万円規模の舞台の準備を進めていたのが中止となると、30歳前後の劇団主宰者が突然、その金額の負債を負うということです。法人格も持っていないので融資も受けられない。演劇は準備にすごく時間がかかるので、もう7月の公演を中止した劇団もあります。(今後、もし)1カ月間で感染拡大が収束したとしても、影響は数カ月後まで続きます。その間、スタッフさんが無収入になってしまう」

大西「特に日雇いの人が一気に仕事を失い、ダイレクトに影響が出ています。先週、新宿の路上で(もやいが)開いたお弁当配りには、通常の1.5倍の人がいらしていました」

住まいを失った人へ緊急的な宿泊や生活の支援のためのクラウドファンディング

スガナミ「わたしは去年まで下北沢のライブハウスで店長をしていて、この4月にLIVE HAUS(リブハウス)というライブハウス兼クラブを開業予定でした。今は#SaveOurSpaceという、ライブハウスやクラブ、劇場、シアターなど空間を使う芸術への助成を求める署名活動をしています。3月27日からの4日間で、音楽、文化施設関係者から30万筆以上の署名をいただきました。2月後半にイベントの自粛要請が始まってから、(新型コロナウイルス関係の)報道があるたびに、文化施設やイベント、その関係者たち全ての売上がどんどん減っています」

#SaveOurSpaceは4月2日、野党議員に署名を手渡した

「受け皿を作るのは当然」、東京都でネットカフェ難民4,000人の大半が「居場所」失う可能性

緊急事態宣言を受けて東京都ではネットカフェも休業要請対象になり、そこで寝泊まりする人たちの生活の場がなくなってきている。これまで生活困窮者を放置してきたという問題が、今回の新型コロナ騒動で浮き彫りになってきた。

大西「都の調査では、1日4,000人がネットカフェで生活をしています。そういう人たちが、居場所を失うかもしれない。東京都も補正予算案でこの対策に12億円をあて、500人分の住まいを一時的に確保するようですが、それでも3,500人分足りない。これから、生活困窮者は間違いなく増えます。東京のみならず他の道府県でも、そして低所得者の方、DVや虐待で家にいられない人に対しても、国や公的な施設で緊急的に宿泊できる場所を開放できるよう、政治が緊急的に呼びかけてほしい」

逢坂「自粛要請で困る人がいるなら、受け皿を作らなければならないのは、当然のことですよね。国や省庁、市区町村には研修所などの、外出自粛下では使わないような様々な公的施設がありますから、そこできちっと受け入れることを前提にしていくべきだと思います」

東京五輪の選手村の一部を、住まいをなくした人のために開放するよう求めるオンライン署名

芸術は「不要不急」か?「生命維持に不可欠」か?日本とドイツ、文化政策への考え方の大きな差

今回の政府緊急経済対策には、芸術に携わる人も含めフリーランス、個人事業主に対する最大100万円の現金支給が盛り込まれた。ただこの制度には、収入の半減を証明するなど多くの制約がある。この政策はドイツなど諸外国と比べると全く不十分で、その違いは「文化」に対する考え方の差からきていると言う。

平田「ドイツのアーティストは、すでに現金で約1万ユーロ、日本円で約150万円の公的支援を受けています。全ての政治家に反省してほしいですが、日本の文化政策は非常に貧弱です。文化予算はおよそ先進国平均の約4分の1、最も多い韓国・フランスの約10分の1と言われています。どの国にも、文化予算は無駄だと言う人もいます。でも、たとえばフランスでは、才能を持つ人が経済的な理由で他のジャンルに流れてしまうことは、国益の損失だという(社会の)コンセンサスがあるんです」

逢坂「先日ドイツの(新型コロナウイルス対策の)政策を見ていたら、『アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在』という(文化相の)発言があって、認識の違いが相当あるんだと思いました。日本だと、文化にお金を使うのは余裕があるときに少しずつ出していこうという感じですが、根本が違うということですね」

スガナミ「(芸術は)『不要不急』とカテゴリーされますが、生活においてわたしたちを人間たらしめるものだと理解してほしいです」

「わたしたちの生活が、ないものにされている」今、政治に求められること

立憲LIVEの後半、話題は文化を守るための政治のあり方へ。

スガナミ「今日与党議員から、(感染収束後の需要喚起策として)文化(的なイベントに使える)クーポンを検討しているという話を聞きました。ですがアーティストからは現金が今、求められているのに、この期に及んで「クーポン」なんて言葉が出てくる時点で、緊急性がわかってない。愕然としました。わたしたちの生活が、一切ないものにされていると感じました」

平田「わたしは立憲民主党を支持しているわけではないですが、政権交代は必要だと思います。多くの国の文化政策は、政権交代を通じて成長するからです。たとえば昔イギリスでは、ダンスを徹底的に支援すると表明した党に、多くのダンサーが投票したことがあったそうです。与党と野党が文化政策を競うことが必要なんです」

築き上げてきたつながりは「一度なくなってしまうと、もう一回作るのは大変」

演劇、生活困窮者支援、ライブハウス。どの現場でも共通するのは、「築き上げてきたつながりや場所は、いったん人が離れると再構築するのが難しい」こと。今回の感染拡大によりその懸念が強まっていると言う。

スガナミ「人が集まって音楽や演劇を楽しむこと自体に、悪いイメージがついてしまった気がします。今は仕方ないとしても、収束後にもとに戻れるのか、不安です。直接会ってコミュニケーションしたり、(一緒に)体感したりすることの良さを取り戻したい。そのための場所を守るという意味を込めて、(署名活動を)#SaveOurSpaceと名付けました。そこに誰も残らなかったら、文化も何も残らない。どうにか残せるようにしてほしいです。僕たちも頑張ります」

大西「今、NPOの活動も大ピンチなんです。感染症対策をしながらの炊き出し、子ども食堂など小さな活動が続けにくくなっています。市民活動も一度なくなってしまうと、もう一回作るのはすごく大変です。担い手、場所、そしていろんな人たちのつながりで続いていますが、寸断されつつあります」

平田「ベルリン市長が『コロナウイルスに打ち勝っても、文化・芸術がそれに負けてしまってはいけない』と言っていました。(このままでは)収束してから文化を楽しもうとしても、場所がなくなり、アーティストもいなくなってしまっているかもしれない。上演されるはずだった作品の中に、歴史に残る作品があったかもしれない。その中に明日の野田秀樹、三谷幸喜がいたかもしれない。(芸術を今、救済しないことは)最終的に社会全体の損失だと、社会全体で共有していただきたいです」

これからの日本社会、必要なのは「全く新しい仕組み」

世帯単位の現金給付や、文化政策への消極姿勢…。日本社会が温存してきた仕組みに代わるものを、今回の感染拡大をきっかけに、どう作っていけるのか。それぞれの立場から、指摘をいただいた。

大西「これまでのやり方を変えないといけない。(緊急経済対策の)現金給付は世帯主の減収に対応したものなんですね。日本はなかなか個人単位にならない。今コロナ関係で最前線に立っている人たち、たとえば検査をしている保健所はずっと予算を削られてきているし、生活困窮者支援の公的な窓口の人たちも非常勤で手取り20万円を切るような働き方。これまでのつけが最前線に回ってきている。

今は、これまでやってきたことを転換するチャンスでもあるんです。行財政改革で公務員を減らしたのが良かったのか。福祉現場の賃金が低いままで良いのか。今までと違う仕組みを考えてほしい」

平田「日本は文化を民間セクターに任せたり、市場原理にゆだねようとしてきた。「残ったものが文化」ではなく、文化や教育は未来への投資。行政が支援の仕組みに慣れていない。全く新しい仕組みを考えていかなければいけない。最終的に日本のコンテンツ産業が崩壊していいのか、考えてほしい」

逢坂「今日皆さんから聞いている課題は、政治にしか解決できないものですよね。これまで自由な経済活動による収益を再分配するのが良いと言われてきましたが、その結果、格差が広がった。そこに今回のようなことがあると、弱い立場の人たちからどんどん(生活が)壊れていくわけです。官から民へ、と言われてきましたが、そうじゃない。ちゃんと責任を果たせる政府をいかに作るか。適正な分配、生活の安定があってはじめて、経済の発展につながっていく。そして支え合いの社会を作るのが今こそ、政治に課せられた最大の課題だと思います」

「声を上げるのは、おかしいことじゃない」

緊急対応に忙しい政府を批判するのではなく、自分で努力を!今、日本ではそんな意見も見られる。ただ、「補償なしの自粛」で明日の生活がひっ迫する人がたくさんいる、文化を取り戻せないかもしれない、というのが現状だ。最後にゲストからメッセージをいただいた。

大西「声を上げるって本当に大事です。今、政府を批判するとネットで叩かれたりします。でも自分の仕事、家族、地域の現場でこんなことが起きている、困っているというメッセージ、小さな声が(政治に)届いていったらいいなと思います」

スガナミ「(ライブハウス業界ではこれまでも)誰かが困った時には寄付イベントをしたりと、助け合ってきました。でも今回は助けなきゃいけない人、場所が多すぎて、自治で回らないんです。刻一刻と、1日単位で店が閉まったり、関係者が生活に困窮したり、この職を手放さないといけない中で、本当に時間がないです。そんな中で、わたしたちが税金を預けているところにお願いをすることは、僕はおかしいことだと思ってないです」

逢坂「スガナミさんがおっしゃったように、ありとあらゆる業種、小規模で事業をしている人たちの状況は切迫して、時間がないんですね。まずは補正予算審議や政府・与野党連絡協議会を最大限に活用して、今日聞いた皆さんの思いをぶつけていきます。スピード感をもって、現金を回すことに注力していきたいと思います」