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2020年2月1日

草の根の現場から、政治へのバトン・パス——沖縄県連「琉球・沖縄セミナー」リポート

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近年、沖縄では米軍基地問題と並んで貧困問題が注目を集めている。県民所得は11年連続で全国ワースト1位を記録(2016年度)。国に先駆け、翁長雄志県知事(当時)のもとで2016年に沖縄県が独自に始めた調査によれば、貧困状態にある子どもの割合は全国の2倍。実に3人に1人の子どもが貧困という現実が明らかになっている。

立憲民主党沖縄県連合は2019年3月、「琉球・沖縄セミナー」を始めた。同年10月からの第2期は貧困問題に焦点を当て、沖縄の生活史を20年以上聞き取ってきた岸政彦氏(立命館大学教授)や、建築現場作業員として一緒に働きながら、不安定な仕事に就く若者の話を聞いてきた打越正行氏(社会学者)、風俗業界で働く若年女性の調査をしてきた上間陽子氏(琉球大学教授)といった、第一線の研究者が登壇。

フロアには教育・保育・福祉などの現場で働く専門家をはじめメディア関係者や学生など、様々なバックグラウンドの参加者が集まり、講演から現場の疲弊を打開する方法を見つけようと活発な議論を繰り広げた。

全3回のセミナーの模様をリポートする。


立場を超えた「自治の感覚」を礎に——岸政彦「平和と経済——反基地のための反緊縮」

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第1回目(10月26日)は、沖縄に暮らす人々の生活史を聞き取ってきた社会学者の岸政彦氏(立命館大学教授)が、政治的な立場を超えて沖縄社会を結びつける、目に見えない繋がり——「自治の感覚」と、それが現実に力を発揮するために必要な経済政策を語った。

岸氏は日本本土にはない独特の感覚に惹かれ、沖縄に通い続けて20年になる。沖縄社会には、「保守」や「革新」といった立場の違いを超えて、人々に共有されている感覚があると言う。岸氏はそれを、「自治の感覚」と呼ぶ。

忘れられない光景があります。故大田昌秀さんと二人で、名門ハーバービュー・ホテルのバーで飲んでいた時のこと。ふとカウンターを見ると、国場組の会長の国場幸一さんが一人で飲んでいました。沖縄経済界の大物で、保守の立場で知られる方です。一方の大田さんは革新系の元沖縄県知事なわけですが、国場さんに気がつくと、やぁやぁと肩を組んで、二人で仲良さそうに話してるわけですよ、まるで同窓会みたいに。

酒を酌み交わす二人の背中を見ていて、「保守」と「革新」、それぞれの立場で沖縄を支えてきたんだというプライドと、お互いに対する敬意のようなものを感じました。

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それは沖縄の戦後史を象徴する光景でした。沖縄では、地上戦によって社会秩序も含め何もかもが灰塵に帰しました。戦後は本土から切り離され、頼れる“お上”もない状況が何十年も続きました。その結果、自分たちの力で沖縄を復興させたのだという自信、沖縄のことは沖縄で決めるのだという意識、そうした「自治の感覚」が培われてきたのだと思います。

「平和」と「豊かさ」、どちらも追求できる「新時代」へ

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立場を超えて、地下水脈のように人々を結びつける「自治の感覚」。その感覚を共有するからこそ、ウチナーンチュ(沖縄人)というアイデンティティのもとで一つになることもできる。しかし、経済的に困難な状況に置かれると、「自治の感覚」も力を発揮できないと言う。

これまで県民は、基地の撤去を要求するか、生活の豊かさを追求するか、二者択一を迫られ、分断されてきました。ところが近年では、北谷やおもろまちなど、基地撤去後の跡地利用で成功例が生まれ、海外からの観光客も増えている。それを見て、県民も「国からの金なんかいらない、だから基地なんかいらない」と、自信を持って言えるようになってきたんです。

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だからこそ経済政策を軽んじてはならない、と岸氏は力説する。

政治には、県民が分断されることがないような経済政策を期待しています。財政の健全化にこだわるあまり、人々の生活を守れなくては本末転倒です。具体的にいえば、国レベルの話になりますが、消費税の廃止と国債の増刷という、「反緊縮」の政策です。緊縮財政と決別し、貧困層への再分配を強化する必要があると思います。

特に急がれるのは、若者の貧困対策だ。

次回講師の打越さんや次々回講師の上間さんが明らかにしているように、若者の貧困問題は深刻です。よく「最近の若者は恋をしない、車も買わない」と言われますが、そうした「若者の○○離れ」現象の本質は、貧困です。恋や車にお金をかけられないくらい、若者の生活が厳しくなっている。

国政選挙での20代の投票率は、全体を20%近く下回る傾向が続いています。そうした「若者の政治離れ」は、政治が若者の現実に寄り添えていないことの裏返しではないでしょうか。政治家には、国民に飯を食わせるという政治の本分に立ち返って、経済政策を考えてもらいたいと思います。

彼らはなぜ、過酷な地元社会に生きるのか——打越正行「沖縄の建設業——ヤンキーの若者たちへの参与観察から」

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「若者の貧困問題」が問題化されるようになっても、その生活世界を同じ目線に立って理解しようとする試みは稀だ。第2回目(11月23日)の講師の打越正行氏(社会学者)は、実際に暴走族の“パシリ(=使い走り)”になり、建築現場の作業員として一緒に働きながら、10年以上にわたり、不安定な仕事に就く若者たちの生活実態を調べてきた。そこで目撃したのは、あまりに暴力が日常と一体になった世界だ。

たとえば、彼らの働く建築現場には、明文化されたマニュアルがありません。後輩たちは「兵隊」と呼ばれます。最初は名前で呼ばれません。先輩の「エー(沖縄の方言で「おい」)」の一言で意図を汲み、的確に動かなければならない。理解できなければ怒鳴られ、殴られる。厳しい先輩後輩関係は仕事が終わっても続きます。深夜でも、先輩からの呼び出しは絶対です。下手に断ると、翌朝どんな目にあうか分からない。

私が調査を通して出会った子たちは、ヤンチャなところはありますが、普段はやさしくて、おもしろくて、弱音も吐いたりする。私たちと何も変わらない、いわゆる普通の男の子でした。そんな彼らが、過酷な地元社会に行き場を求め、不安定な建設業で働くそのわけについて、別世界の人びとの話ではなく、そこにいる人びとの理解できる行為や語りとして伝えたいと考えました。

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調査を続けていくと、彼らも、自ら望んで暴力的な世界に身を置くわけではないと分かってきた。背景には、歴史的につくられてきた構造的な問題があると言う。

彼らは自分の人生を設計する際、学校や家庭に頼れないケースが多い。そもそも、沖縄には製造業の蓄積が少なく、建設業が基幹産業となっています。製造業と異なり建設業にはより安定した仕事へステップ・アップする展望そのものがもちづらいという特徴があります。結果、自分たちの持てる資源を使い、その範囲で自分たちの人生を組み立てざるを得ない。そうやって行き着く先が、地元の過酷な人間関係なのです。

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2019年3月、10年以上におよぶ研究の成果を『ヤンキーと地元——解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』(筑摩書房)にまとめた。

ボトムアップの政党へ

地元世界の暴力性は、建設業の構造と密接に絡んだ問題と言える。沖縄の建設会社は、本土の大手ゼネコンの下請けに甘んじているのが現状だ。不景気の煽りを受けるのは、下請け・孫請けの地元企業。その末端にいるのが、現場で働く若者たちだ。後輩を雇っておけば、給料が遅れても文句が出にくい。逆に、人手が必要な時には、後輩の家の前に車で乗りつけて、無理やり現場に連れて行くことができる。そのように不安定な建設業界には、先輩・後輩関係が雇用の調整弁として組み込まれている。

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歴史的につくられてきた産業構造そのものを、急に変えることはできない。しかし、沖縄の地元企業の地位と、そこで働く若者の生活を今より安定させることはできるはずだ、と打越氏は力を込める。

私が出会ってきたような若者たちの厳しい現実をくみ取って政策をつくってくれるような、文字通りボトムアップの政党が登場してくれることを期待しています。

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見えない問題を、見えるようにしていくこと——上間陽子「根強い貧困問題——風俗調査・若年出産女性調査より」


第3回目(12月21日)の上間陽子氏(琉球大学教授)は、風俗業界で働く若者調査(2012~2017年)、若年出産女性調査(2017年~)を行いながら、教育・保育・女性や子ども支援の現場とも緊密に連携してきた。講演では、性暴力被害者の落ち度を責める世論や、暴力の常態化が被害を見えにくくしていると指摘し、政治の介入の必要性を示した。

上間氏が夜の街で働く少女たちの生活実態調査を始めたきっかけは、2010年にあった女子中学生の集団レイプ事件だ。加害者グループは中学生に大量に酒を飲ませ、意識を失っている間にレイプするということを繰り返していた。被害者は事件後、すぐに自死してしまった。

上間氏にとって、事件そのものと同じくらい衝撃だったのは、事件に対する沖縄社会の反応だったという。

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事件が公になったことで、もっと沖縄社会全体が加害者に対して怒り狂うかと思っていました。ところが、中学生が深夜外に出て飲酒していたのが良くないとか、娘の外出に気づかない親も悪いとか、被害者や御遺族の落ち度を指摘する議論に終始しました。あろうことか、教育関係者までも。

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狭い沖縄では、レイプ被害にあっても、特定されないように隠そうとする被害者が多い。「落ち度」があったらレイプされても仕方がないと言わんばかりの世論を目の当たりにして、彼女たちのことを考えた。このままでは、ますます多くの被害が見えなくなり、なかったことにされていく。強い危機感を覚え、調査に踏み出した。

助けを求めるまでの、高すぎるハードル

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これまで風俗業界で働く若者と若年出産女性の2つの調査を進めてきたが、その過程で上間氏は、調査対象者が重なることに気づいた。15歳くらいで風俗業界に入り、1年程で妊娠・出産した後、すぐに単身になり、初職に戻る。こうしたパターンが多いという。

さらに、この重なりの層にはDV被害者が非常に多い。だがその事実は、ほとんど注目されてこなかった。あまりに重い暴力を受けると、それを誰かに伝えること自体が難しくなっていく。女性相談所に辿り着けるのは、全被害者のほんの一部だ。

暴力が深刻なケースほど、必要なケアにアクセスできないんです。特に子どもの頃から暴力に晒され続けている被害者は、それが当たり前になってしまい、誰かに助けを求めるという発想が出てきません。

そういう子たちの身体は、よく動けているなと思うくらい、こわばっている。そうした身体の不快さを紛らわせるために、SNS、煙草、食べること、性愛関係への依存が生じます。それを周囲は、好き勝手やっていると見てしまう。

学校から排除される子どもが増えている

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困難な境遇に置かれた時、彼女たちを支えるのは、ピア・グループ(同年代の友人関係)の存在だ。ピア・グループは行政手続きといった生活に必要な情報を共有するのに役立つだけではなく、出産・中絶など、自分の将来に関わる大きな決断をする時に、心の支えになる。

ところが近年の沖縄では、人とのつながり方を学ぶ場所であるはずの学校に、早い段階から通えなくなる子どもが増えている。不登校児童数は2018年度に過去最多の1107人を記録した。小学校の不登校率は全国で最も高い。

学校が子どもたちを包摂する力を失いつつあります。その大きな原因の一つが、全国学力・学習状況調査(学力テスト)です。先生たちが学力テストに合わせて動くようになると、どうしても目の前の子どもを見るのが難しくなります。学力を上げるより、子どもが安心して楽しく学校に行けることの方が、大切なはずです。

それから、臨時任用教員の問題。責任の重さは変わらないのに、予算縮減のために、「見習い」の身分で働かされる先生が増えています。

善意だけではどうにもならない問題がある

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私の現場は、社会調査です。見えなくされていた問題の実態を探るのが仕事です。その先は、政治にバトンをパスしたい。善意だけではどうにもならない問題がある。
行き過ぎた学力テストの問題を解決したり、教員・保育士の働く環境を改善したりするためには、どうしても政治の力が必要です。

逆に、現場に行かないと分からないこともあります。たとえば、一口に「子どもの居場所づくり」と言っても、現状は玉石混淆です。政治家の皆さんには、本当に子どもが安心できる環境とはどういうものか、それを守るためにどんな政策が必要なのか、現場でゆっくり学んで欲しい。

地域に根差した政治づくりの第一歩

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沖縄は米軍基地問題をはじめ、たくさんの深刻な課題を抱えている。一方で、自分たちの力で社会の中に課題を発見・共有し、打開の道筋を探ろうとする多くの活動家、専門家がいる。「草の根からの民主主義」は、そうした人々の協力なくしては、あり得ない。現場から政治まで、顔の見える繋がりをつくること。市民・専門家・政治家が、課題の提起から解決まで、協働できる関係をつくること。琉球・沖縄セミナーは、地域に根差した政治づくりの第一歩だ。

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セミナーの趣旨を語る県連代表の有田芳生参議院議員

沖縄県連は2020年2月から、第3期のセミナーを開く予定だ。佐野眞一氏(ノンフィクション作家)が「私はなぜ沖縄を取材し続けるのか」、熊本博之氏(明星大学教授)は「辺野古で暮らすということ」、上里隆史氏(琉球・歴史研究家)は「首里城と琉球沖縄の歴史」をテーマに講演する。

地域に根差した政治づくりは、まだ始まったばかりだ。

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岸政彦 MASAHIKO KISHI

1967年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。社会学者。主な著書に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(2013年、ナカニシヤ出版)、『ビニール傘』(2017年、新潮社)、『マンゴーと手榴弾——生活史の理論』(2018年、勁草書房)など。

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打越正行 MASAYUKI UCHIKOSHI

1979年生まれ。社会学者。主著『ヤンキーと地元——解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』(2019年、筑摩書房)の他、共著に、川端浩平ほか編著『サイレント・マジョリティとは誰か——フィールドから学ぶ地域社会学』(2018年、ナカニシヤ出版)など。

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上間陽子 YOKO UEMA

1972年生まれ。琉球大学教育学部研究科教授。教育学者。主著『裸足で逃げる——沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版、2017年)の他、共著に『沖縄子どもの貧困白書』(2017年、かもがわ出版)など。

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