衆院厚生労働委員会で22日午後、安倍総理が出席するなかで質疑が行われ、共同会派「立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム」から質問に立った小川淳也、西村智奈美両議員は、緊急事態宣言の発令中に賭けマージャンをしていた問題で辞職することになった、黒川東京高検検事長の定年延長などをめぐり政府の責任を追及しました。

 小川議員は、法解釈を変更する形で脱法的に黒川検事長の定年延長を閣議決定した、安倍総理の任命責任、黒川検事長が国家公務員法の懲戒処分より軽い「訓告」とした理由等について質問。国家公務員の懲戒規定には、賭博をした職員は「減給」または「戒告」、常習として賭博をした職員は「停職」とありますが、今回「訓告」としたことで退職手当は満額支給される見込みであることに、「国民感情に照らして適切とは思えない。撤回して重い処分を求める」と迫りました。

 これに対して安倍総理は「検事総長が諸般の事情を考慮し処分を行ったもの」「法務省あるいは検察庁において調査・捜査に当たった方々に聴取をしていただくのがいいのではないか。法務省、検察庁で人事上の処分を決するに当たり必要な調査を行ったと報告を受け承知をしている」と無責任な答弁に終始。小川議員は「政府の最高責任者として国民感情に照らして答弁する責任がある。そこからも回避されたと受け止めた」と述べました。

 「桜を見る会」の前日に開かれた夕食会をめぐり、全国の弁護士ら600人あまりが21日、公職選挙法違反、政治資金規正法違反の疑いで東京地検に安倍総理らを告発したことについても触れ、その受け止めを問いましたが、安倍総理は「告発状の中身について承知していないので具体的なコメントは差し控えたい」と、これについても答弁を避けました。

 小川議員は、検察庁改正法案については反対の立場を表明したうえで、「国家公務員一般職の延長については与野党で大きな議論の隔たりはない。それもこれも諸共に廃案にされるつもりなのか。あるいは継続して審議を行うつもりなのか。まさにこの厚生労働委員会でこの春、総理、内閣の意向を受けて(70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする)高年齢者雇用安定法の改正を審議した。『将来現役世代』『全世代型社会保障改革』は総理が掲げてきたもので、それとの筋で言えば、行政官でありつつ司法職でもある、準司法官と、自らの部下たる一般職とは切り分けて議論すべきだ」とあらためて主張。安倍総理は「検察官も公務員であることから公務員法全体の定年延長の改正案についてまとめている。元気な方に活躍の場を与えることは大事だが、現在『官』が先走り過ぎてはいないのかという懸念がある。民間にさきがけて一律65歳に延ばすのも早急ではないのかという批判があるのも事実。そういうなかで、コロナショックで民間の給与水準が心配されるなか、役所先行の定年延長が理解を得ることができるのかという批判があるのも事実。そういう声に耳を傾けるべきという意見が与党のなかでも強く出ているのも事実。そういうなかでもう一度検討すべきではないかということ」と苦しい答弁となり、小川議員は「きちんと筋道の通った政策を論議してほしい」と求めました。

 西村議員は、国家公務員法改正案について、「廃案にする可能性も排除しないような答弁をしながら、『官が走りすぎるのではないか』という懸念があると(総理は)指摘された。しかし本当にそうか。定年の延長についてはすでに国民年金法の一部を改正する法律案が成立をしており、令和7年度にかけて60歳から65歳に段階的に公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることになっている。平成16年には定年を65歳未満としている民間企業において、平成18年4月1日から定年の引き上げ、継続雇用制度の導入または定年の廃止のいずれかの措置を講じなければいけないことになっている。こういう背景から、平成20年に国家公務員制度改革基本法が成立し、ここで国家公務員の定年を段階的に65歳まで引き上げることについて政府で検討することになっている。官が先走っているわけではない。逆に今回の法案が、仮に国家公務員法改正案がこの国会で成立したとしても、65歳への定年の引き上げは令和12年度に完成することになっている」と指摘。一方、民間労働法制ではすでに70歳までの就業確保に向けて動き出しているとして、「この法律による定年引上げの完成までの期間中に、民間との格差が広がっている可能性がある。この国家公務員法改正案から検察庁法案を削除してあらためて議論すべきだ。総理はこの間、検察庁法改正案に批判が集まっているのに、国家公務員法改正案に国民の批判が集まっているとすり替えをしている。どうしてそういう理解になっているのか」と迫りました。

 安倍総理は「民間は選択的に定年の延長を掲げている。すべて定年延長ではない。公務員はすべて定年延長になっているので違う」「労働市場がタイトだったときと、いまコロナウイルスが拡大し民間の方々が苦しんでいるなかでこのまま議論を続けるのはどうかというご指摘があるのは事実。そこでよく考えてみる必要がある」と答弁。西村議員は「議論のすり替えだ。国民が批判しているのは検察庁法改正案であることを総理には受け止めてもらわないと困る」と反論しました。

 その上で、西村議員は、黒川検事長の定年延長の閣議決定そのものが脱法であり、それを後付けするための検察庁改正案が提出されたとして、「閣議決定までさかのぼり撤回すべきだ」と要求。安倍総理は「黒川氏は、検察庁の業務遂行上の必要に基づき検察庁を所管する法務大臣から閣議請議により閣議決定されるという適切なプロセスで勤務させることとした」「確認した事実に基づき昨日必要な処分を行うととともに、処分を了承する閣議決定を行ったところ。すでに辞任を承認する閣議決定が行われたなかにおいて勤務延長の閣議決定自体を撤回する必要はない」と強弁。西村議員は「よく事情が分かっていないのになぜ閣議決定で黒川さんからの辞表を了としたのかも不明だ。それを閣議で決定したということだが、なぜ閣議で黒川さんの辞表を受理する、了としたのか」と迫りましたが、安倍総理からは明確な答えはなく、「検事総長が判断したから」といった無責任な姿勢に、西村議員は「無責任な閣議がこれだけ積み重ねられていることに心の底から恐怖を感じる」と述べ、質問を締めくくりました。