#MeToo運動が盛り上がり、世界各地でジェンダー平等を求める声があがるとともに、様々な取り組みが進んでいる。しかし、日本はその流れから大きく取り残されている。男女間の格差を表す「ジェンダーギャップ指数」で、日本は149カ国中110位。特に衆議院において10.1%という低すぎる女性議員の割合は、政治分野における女性の活躍の難しさを物語っている。

2018年5月、政治分野における男女共同参画推進法が成立した。「日本版パリテ」とも呼ばれるこの法によって、各党には候補者を男女同数とする努力義務が課されることになった。政党は本気で女性候補者を擁立しなければ、今まで以上に厳しい批判に晒されることになる。

しかし、現在の日本では、政治家に限らず、女性がある分野に進出しようとすれば、様々な壁が立ちはだかる。今回の日本版パリテ法が日本の女性に、そして社会全体にもたらす影響は? そして、わたしたちがこれからなすべきこととは? 日本を代表するジェンダー・スタディーズの研究者であり、今回の法の成立の立役者でもある三浦まり教授に聞いた。

世界と日本のジェンダー環境のギャップ

──三浦さんは上智大学で政治学を教える傍ら、研究者として、そしてアクティビストとして女性の政治参加の必要性を訴えてこられました。まず女性の政治参加の問題に取り組み始めたきっかけを教えてください。

わたしは高校の頃から世界史が好きで、第一次、第二次世界大戦などを学んでいるうちに、「どうしてこういうことが起きるんだろう?」と思って、政治学科に進学しました。国際政治学を学んでいたのですが、個人の平和な生活と、それを狂わせていく国際政治の力学に関心があったのに、個人のところまで話が降りてこないことに国際関係論の限界を感じ、国内政治へと目を向けるようになりました。個人の生活に直接的影響を及ぼす福祉国家や労働政策の研究を進め、その過程でジェンダーを抜きに理解ができないと思うようになりました。

各国の政策を比較すると、日本が福祉政策やジェンダー政策についてひどく遅れていることに気づきます。これは政策をつくる側に問題があるんじゃないか、と考え、政策にくわえて政党の研究、とりわけ女性がなぜ政治に十分に参画できないのかということを研究するようになりました

──日本における女性の政治参加の現状を教えてください。

国としての女性の政治参加の度合いを測るには、女性議員の比率を見るのが一番わかりやすいです。2018年6月に発表されたデータでは衆議院の女性議員の比率は10.1%。これは193カ国中158位です。世界平均は23.8%なので、日本はその半分以下ということになります。

──日本は世界に取り残されている状況ということですね。

でも実は、20年前はフランスやイギリスといった先進国も今の日本よりひどい状況でした。各国で、女性がなかなか議員になりにくいという現状に目が向くようになったのが1990年代。男女比が偏った議席配分では、社会の隅々の声を十分に反映した議論や政策立案はできない。つまり、女性議員を増やさなければ、公正な民主主義を実現できないことに気づき始めたんです。そこで、候補者のうちの一定の比率を女性に割り当てる「クオータ制」が各国で導入されるようになりました。

──各国での導入はすんなりと進んだのでしょうか?

どこの国でも必ず反対論が巻き起こります。憲法違反だと指摘され、憲法改正をして実施した国さえあります。しかし、現在では130カ国で何らかのクオータ制が導入されています。その結果、世界の女性議員比率は倍増しました。例えば20年前の1995年のイギリスでは9.4%、つまり今の日本と同じくらいだったのが、2015年時点で22.8%。フランスでは1995年に6.4%だったのが20年後には26.7%。このように、政治の意志さえあれば女性議員の数は確実に増やすことができます。これだけ多くの成功例があるのだから、日本もできるはずです。

パリテ・キャンペーンが作成した日本版パリテの啓発ガイドブック。

男女同数を阻む「6つの壁」

──女性議員が少ないのは、女性には男性とは異なる「壁」を乗り越えないといけなからだと指摘されていますが、それについてお聞かせください。

女性が出馬し当選するには、6 つの壁を乗り越える必要があります。
まず1つ目は「自信の壁」です。女性の自己評価が男性に比べて低い傾向にあることが指摘されています。企業の管理職の場合もそうなのですが、男性は「自分はそのポジションにふさわしい」と思って簡単に引き受ける一方で、女性は自分に対する評価が低く、「自分にはまだ経験が足りない」と思い、断ることが多いと言われています。これと同じことが政治分野でも起きています。アメリカの調査では、立候補を引き受ける割合は男性と女性で7対1となっています。

2つ目は「家族の壁」。女性は家族の支援を得られにくいという問題です。立候補する際、男性であれば妻が反対しても押し切って出馬してしまうことも多いのですが、女性の場合は家族の反対を押し切って立候補できる人は、本当に少ない。「男は外で仕事をし、女は家を守る」という性別役割分業の意識が強い社会では、「女性は家族に尽くすのが使命だ」というプレッシャーがある。夫が専業主夫なら可能ですが、そういう男性は多くありません。

──女性の内面や、家族というプライベートな領域ですでに壁がある、と。

それに加えて、政治側の壁もあります。3つめは、「政党の壁」です。国会議員には基本的に政党の公認がないと立候補できませんが、政党自身が壁となって女性の擁立を阻んでいるのが実態です。政党の公認権を握っているのは多くの場合は男性で、男性目線で候補者を選びがちなので、似たような男性ばかりが選ばれたり、女性の支持を得られにくい女性が選ばれたりすることもあります。

4つ目は「選挙制度の壁」です。小選挙区制は時間が限られる女性には不利な制度です。議員は年間を通じて地域の様々な行事に顔を出し、支援団体への挨拶回りが欠かせません。お祭り、運動会、新年会など果てしなくあります。これらを欠かしてしまうと、地元の支援者からの支持を得られにくくなってしまいます。家事や育児を抱えている人にとっては過酷な仕組みです。また、衆議院は解散がいつ来るかわからないので、日常の地元活動に手を抜くわけにはいきません。重複立候補がさらにこの傾向に拍車をかけています。現職が複数いる選挙区だと、地域の小さな行事に国会議員が二人、三人と顔を並べることさえあると聞きます。

他方、比例代表で拘束名簿の場合、地元活動の比重はほとんどないか、相当程度軽減されます。選挙制度はジェンダー中立ではないということを考慮し、男女どちらかが不利になる制度を改める必要があるでしょう。

──5つめ、6つめの壁はどのようなものでしょうか?

5つ目は「選挙運動の壁」です。一つにはメディアのジェンダー・ステレオタイプ、つまり「女性はこういうものだ」というイメージの押しつけの問題です。女性の場合男性と違って、髪型、服装、化粧などの容姿が注目を浴びる傾向にあります。これは日本だけでなく、世界的な問題です。それによって、政治家としての人物像や、打ち出している政策よりも、見た目が重要で、まるで女性は中身は関係ないかのようなメッセージが暗黙のうちに流通していきます。

それから、選挙に向けての様々な活動において、セクハラも深刻です。酒の席ではセクハラが起きやすいですし、支援の見返りに性的な行為を要求されたケースも聞きます。選挙運動では票をもらう側の議員は弱い立場に立たされますから、ハラスメントの土壌になるのです。

そして6つめが、「有権者の壁」。男女の性別の違いは、選挙で有利なのか不利なのかは、日本に関しては確証的な研究結果はまだありません。諸外国の例では、女性の方が選挙に弱いとは言えないことはわかっています。ただし、一部の有権者は女性候補者に対して、特定の役割を求め、結婚していない人には「結婚しろ」、結婚している人には「子ども産め」、子どもがいたら「家庭を大切にしろ」あるいは「職務放棄だ」といったメッセージを投げかけます。男性は私生活に関してこうした批判的な目にさらされることはありませんが、女性は常にそれを経験しなくてはなりません。さらには、女性議員の存在を敵視、攻撃する人たちも少数ですが存在します。特に匿名のネット空間では女性へのオンライン・ハラスメントが深刻です。暴力や嫌がらせのターゲットになる女性議員たちをみて、次世代の女性たちが沈黙させられるという効果を生み出しています。

教室で「リーダーを3人思い浮かべてみて」と質問すると…

──ジェンダー・ステレオタイプは、政治分野だけでなく、社会全体に浸透している問題です。より詳しく聞かせてもらえますか?

人々の心の中には「男性はこうあるべき」「女性のはこうあるべき」というステレオタイプが意外と強く存在しています。問題は、人々の思い浮かべる「女性らしさ」と「リーダー」のイメージが一致していないことです。

リーダー像といえば「強い」「決断力がある」などの能動的なイメージが浮かぶと思うのですが、これは一般的にいわれる「男性らしさ」とも一致します。反対に「女性らしさ」と聞いてみなさんが思い浮かべるのは、「優しい」「共感力がある」「柔和」など受動的・補佐的で、これらはリーダーのイメージとは一致しません。

授業で学生たちに「頭の中でリーダーを3人思い浮かべてください」と聞いたことがあるのですが、100人ほどいる教室の中で、その3人のうちに女性が入っていた学生は、数人しかいませんでした。「リーダーは男性がなるものだ」という観念が広く浸透しているのです。

インタビューは7月に行われた立憲民主党の自治体議員ネットワーク総会での講演後に収録した。講演では、自治体議員に対して、世界各国と日本の制度の比較分析とともに、日本の政治が抱えるジェンダー・ギャップの改善へむけての具体的な論点が提示された。

──そうしたジェンダー・ステレオタイプは、政治にどのように影響しますか?

この「女性らしさ」とリーダー像の不一致は、「できる女は嫌われる」という問題を引き起こします。その例としては、ヒラリー・クリントンが典型的です。彼女は国務大臣も務めた、極めて有能なリーダーです。しかし、メディアでは、「彼女は確かに有能かもしれないが周りから嫌われている」ということがさかんに報道されていました。もちろんヒラリーの個人的なキャラクターも影響している可能性はありますが、ジェンダー・ステレオタイプが一因として影響しているのは間違いないでしょう。同じ態度や言葉でも、男性と女性では周囲の評価が変わってしまいます。たとえば、男性がやれば「決断力がある」と評価される行為でも、女性がやれば「独断的」「わがまま」だと批判されてしまう。

──そうしたステレオタイプは、どういった問題を引き起こしますか?

女性リーダーも男性のリーダー像に合わせないといけないので、女性政治家はどんどん「男勝り」になっていきます。イギリスのサッチャー、ドイツのメルケル、ヒラリー・クリントンなどは、そのいい例です。しかし、そうすると嫌われてくる。強くあろうとすることによって、今度は「女性らしさがない」と批判されるからです。「女性は共感力が高いはずなのに、独断的で冷たい」、つまり女性としては欠陥であるということになってしまいます。かといって「女性らしく」していると、「リーダーとしてふさわしくない」「物足りない」と言われてしまいます。こうした「二重の拘束性」は女性政治家につきまとう、特有の困難です。

講演中は、出席した女性議員に「あなたは“男勝り”と言われた時にポジティブに感じますか?」といった質問も投げかけていた。

まずはクリティカル・マスーー「日本版パリテ」の可能性

──そんな中、「政治における男女共同参画推進法」(候補者男女均等法)が可決され、5月23日に施行されました。この成立には三浦さんも尽力されたと聞きました。

わたしは参議院本会議を70人近い女性や学生たちと一緒に傍聴していましたが、可決の瞬間に傍聴席からは思わず歓喜の声が出てしまって、衛視さんから止められました(笑)。この法は、候補者擁立の際に男女の数の均等を目指すことを政党に求めるものです。政党は男女同数の候補者を擁立していない場合、説明責任を負います。これから選挙では政党ごとの女性比率が報道されることになるでしょう。さらには、政党は男女同数に向けて数値目標の設定などの措置を講じることも求められています。

こういった、男女半々を目指そうという法律は世界では「パリテ」と呼ばれており、今回の法は「日本版パリテ」と言っていいでしょう。基本原則としてパリテが掲げられた点、それを全会一致で国会が可決した点は高く評価できます。

──今後、女性の政治参加を促進していくために重要なことを教えてください。

まずは「クリティカル・マス」です。女性の政治参加のために必要なのは、女性議員を一気に30%ほどにしてしまうことだ、という意味ですね。なぜ30%かといえば、そこが変革の境界線だと言われているからです。これを物理学の用語で「クリティカル・マス 」と呼びます。

10%や20%では男性優位の構造は変わらないため、依然として女性は男性社会に過剰適応することになってしまいます。たとえば、男勝りに振る舞ったり、男性に好かれるような言動をしたり。女性議員が少ない状態だと「女性同士の対立」が煽られたりもします。30%を超えるとそうした傾向が少なくなると言われています。

現在、政党はほぼ男性ばかりで構成されているため、そもそも「女性が直面する壁」に気づくことすら難しい。その状況を変えなくてはいけません。一気に女性が増えれば、男女が平等に意思決定にかかわるのが当たり前になっていきます。

──今回の法は政党にどんな影響を及ぼすのでしょうか。

おそらく政党同士が女性候補獲得に向けて競争し始めるでしょう。でも、女性候補者を探そうにも、男性と同じようなキャリアには女性が少ないのが現状です。発想を変えて、地域社会で活躍している女性や起業家などから幅広くリクルートすることで、議員の中のダイバーシティ達成を同時に狙っていくことが重要です。

ヨーロッパで女性議員を増やす運動が起きた際は、リベラル左派政党がまず女性候補を擁立しました。選挙に勝つためには、働いている女性の票をとる必要があるということに気がついたからです。そうなると、保守の方も女性支持者を奪われまいと焦って、女性候補擁立を推進し始めました。そうやって女性の政治進出が劇的なスピードで進みました。

立憲民主党が担うべき役割とは

──日本でもそうしたサイクルは起きる可能性はありますか?

実は日本でも1989年に「マドンナ旋風」が起きた時は、ヨーロッパの状況と似たような変化が生じました。社会党の土井たか子さんが市民派の女性をたくさん擁立し選挙で勝ったことで、自民党の変革を促したからです。当時の自民党は衆議院に女性はゼロでしたが、野田聖子さんを擁立したり、森山真弓さんを官房長官に任命するなど、女性の登用を増やすようになりました。しかし、その波は一過性で終わってしまいました。今後もう一度女性旋風を吹かし、それを持続させるためには、立憲民主党が重要な役割を担っていると思っています。

──三浦さんは女性の人材育成にご尽力されているそうです。一般に日本の若い世代は政治参加への意識が低いと言われますが、最近では#MeTooなど、性暴力やセクハラをきっかけに声をあげる人たちも多くなってきました。

わたしは若手女性を対象に、「パリテ・アカデミー」という政治リーダーとなるためのトレーニング・セミナーを開催しています。政治に関心のある10代、20代は意外に多いというのが実感です。何が彼女たちを駆り立てるかというと、ほとんどは性暴力やセクハラ、痴漢、性差別に対する怒りです。大なり小なり、多くの女性たちがそうしたことを経験し、こんな社会を変えたいという気持ちから、政治への関心が芽生えているのだと思います。女性としての「個人的」な動機を持つ女性たちが、どうしたら政治キャリアを築けるのかが課題です。これができるようになった時、新しい政治文化が生まれると思っています。

──政党が女性の候補者を増やそうと呼びかけても、まず女性が実際に議員になりたいと思わなければ増えることはありません。立憲民主党をはじめ、政党にできることはなんでしょうか?

まずは多様な女性政治家のロールモデルを提示すること。いろいろな議員のあり方を共有することで、自分も議員にふさわしいと思えるようになれるからです。それから、女性が自信を持つことを助けること。研究では、男性優位の社会構造があるために、女の子は11歳くらいから男性よりも自信を持ちにくくなると言われています。英米では女性が自信を持つことを支援するプログラムがたくさん存在します。

そしてなにより政治家のイメージを変えること。政治家の仕事というのは、多様な市民の声を受け止めて、解決策を制度に落とし込み、必要な法律をつくったり予算を配分することです。その過程で、異なる意見・利害関係者との調整が必要になります。こうしたある意味当たり前の議員活動の姿も、実は有権者にはほとんど知られていないのです。

──女性議員が増えることの、本質的な価値はどのようなものですか?

新しい民主主義の可能性を切りひらくこと。社会の多様な声を反映した、本当の意味で民主的な議会をつくること。それは日本社会全体にポジティブな影響を与えるはずです。

──最後に、10年後の日本にどうなっていて欲しいですか?

赤字続きの財政状況や格差、低い自尊感情、高い自殺率、社会に対する不信感や生きづらさを感じている人々など、問題は山積しています。SNSを見ても、憎悪とかヘイト、人の尊厳を踏みにじるような発言が多い。これがさらに悪化して破滅的な状況にまでいくのか、それとも社会が破綻する前に「こんな社会は変えよう」と多くの人が声を上げるのか。研究者としての分析からは悲観的な結末が予想されますが、個人としては、この状況を変えたいと思う人がつながりあっていけば、きっとポジティブな可能性が生まれてくると信じて、活動をしています。

三浦まり MARI MIURA

1967年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校政治学博士課程修了。政治学博士。東京大学社会科学研究所研究機関研究員を経て、現職である上智大学法学部教授。専門は現代日本政治論、比較福祉国家論、ジェンダーと政治。主な著書に『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』編著(2016年、朝日選書)、『私たちの声を議会へ――代表制民主主義の再生――』(15年、岩波現代全書)、『ジェンダー・クオータ――世界の女性議員はなぜ増えたのか』共編著(14年、明石書店)、『社会への投資 <個人>を支える <つながり>を築く』編著(18年、岩波書店)ほか。(2017.09)