2019年9月、高浜原発が立地する福井県高浜町の元助役から関西電力の会長らが多額の金品を受領していたことが発覚し、世間から大きな注目と批判を浴びた。東京電力福島第一原子力発電所の問題もまだ山積みの中で、改めて原子力ムラの腐敗と闇が露呈したと言える。だが、このような状況のなかでも政府は原発推進の歩みを止めようとしない。

同年12月にスペインで開催されたCOP25では、日本は2度も「化石賞」を授与された。これは、地球温暖化対策に消極的な国に贈られる不名誉な賞だ。世界のエネルギーの潮流は、原発、化石燃料からの脱却、そして再生可能エネルギー社会が実現しつつある。日本はこのまま世界から取り残され、エネルギー後進国となってしまうのだろうか。

長年、原発訴訟に取り組む一方で、原発や再生可能エネルギーにまつわる映画を制作してきた河合弘之さんに、改めて今の日本が抱える原発問題と再生可能エネルギーがもたらす未来について聞いた。

3.11が起きて、「逃げるな、最後までやれ」って言われているように感じた

——河合さんは、約25年にわたって原発問題に関わっていらっしゃいますが、きっかけは何だったのでしょうか。

僕は、バブル時代に裁判が連戦連勝で思い切り稼いでいたんですよ。でも、なにか社会のために役に立つ仕事もしなきゃと思ったんです。

それで中国残留孤児とフィリピン日系孤児の救済、とくに中国残留孤児の国籍を取得する仕事をずっとやっていたのですが、もっと普遍的な、もっと根本的な問題は何だろうと考えていったときに、やっぱり後世に美しい環境を残すことが重要だろうと。そして、環境問題の中でも原発は一番深刻な問題であると思い至ったんです。

原発は、事故が起きたときに国を滅ぼすような悲惨な事態になるし、有害な使用済み燃料を後世に押しつける。そして国防上も原発は最大の弱点です。北朝鮮のミサイルやドローン兵器で原発を攻撃されたらどうするんですか。原発は真正面から取り組むべき問題だと思いました。

——最初に関わった原発関連の裁判は何だったのでしょうか。

福島第一原発の3号機のプルサーマル計画で使用されるMOX燃料の使用差し止めを求める仮処分の申請です。それから浜岡原発、大間原発の差し止めにも関わりました。だけど、脱原発、反原発の裁判は負けてばっかりなわけです。もう歳も60を過ぎて疲れてきたし、そうっと引退しようと思っていました。そんなときに3.11が起きて、神様から「逃げるな、最後までやれ」って言われているように感じて、残りの人生を原発問題に賭けることにしたんです。これまでに関わった裁判は50件くらいで、直接担当したものになると20件ほどになると思います。

市民と一緒に闘った大飯原発差し止め訴訟(2014年)©Kプロジェクト

弁護士と映画監督「二足の草鞋」のワケ——世論が巻き起こらなければ脱原発は実現できない

——河合さんは、『日本と原発 私たちは原発で幸せですか?』『日本と原発 4年後』『日本と再生 光と風のギガワット作戦』(すべて制作・配給Kプロジェクト)という3本の映画も作られていますね。

裁判を一生懸命やっても、一般市民にはなかなか原発の危険性が伝わらないんです。裁判って訴えを提起したときと、判決が出たときしか報道にならないから。じゃあどうしたらいいかなと考えたとき、それを見れば原発のことも自分がするべきこともわかるような映画を作ろうと思いました。

裁判には、実際に原発を止める力があるんですよ。その力は裁判にしかない。だけど、それだけじゃ最終的にこの戦いには勝てません。国民の世論が巻き起こらないと原発を根絶はできないんです。

3.11の原発事故により津波被災者の救出作業が不可能になった浪江町請戸地区。©Kプロジェクト

関西電力の原発マネー不正環流問題は、「びっくり、やっぱり」

——関西電力の幹部20人が高浜原発のある福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていた原発マネー不正環流問題が大きく報道され、国民の注目が集まりました。この問題について河合さんはどう感じましたか。

端的に言うと、原発というのは立地の地域に汚いお金をたっぷりつぎ込まないとできない事業であるということが改めてわかりました。原発は嫌忌施設なんですよね、嫌われる、忌まれる。優しく言えば迷惑施設です。地域の人が嫌がる物を建てるには金をつぎ込むしかない。

一番端的なのは、建設費。たとえば10億でできる仕事を15億で発注するわけですよ。そうすると5億は余ったお金になる。その水増し金がぐるぐる、ぐるぐる回って、現地にあふれるわけです。そうすると、必ず仕切る人物、フィクサーが出てきて、今回はA社、次はB社、またA社、B社と仕事を渡すわけですよ。そのたびにフィクサーは手数料を貰う。賢いフィクサーは、儲かったお金を独り占めしません。必ず2割か3割を周りに撒くんです。毒まんじゅうのようなものですね。受け取ってしまったら、共犯者になるしかないから。

今回はまさか金の出所である関電の役員に戻ってきているとまでは思わなかったからびっくりしたけど、同時に「やっぱり」とも思いました。うまいやり方ですよね。みんな共犯者だから、仲間内からは秘密が漏れない。

——河合さんは「関電の原発マネー不正還流を告発する会」を立ち上げて活動されていますが、最終的にどういったことを目指しているのでしょうか。

関電の役員達が行った悪事を、汚いお金のやり取りを克明に追及すること。刑事責任を問うことです。告発人は3000人を超えました。こうした汚いお金を回さないと原発ができない現状を、国民に知ってほしいと思っています。

再生可能エネルギーをやるのは、「環境に優しいから」じゃない?

——今の政府は、「原発はCO2の排出が少ないエコなエネルギーで、コストも低い」とアピールしています。

原発のCO2排出量については、順調に運転しているその期間だけ切り取れば確かにCO2は出ません。でも、CO2を出さない代わりに放射性物質をいっぱい出していますよね。運転の最中に事故が起きたら放射能が出る。事故が起きなくても前処理の過程と、使用後の処理の過程では放射性物質は出るわけです。放射能とCO2、どっちがより危険なんだという話です。1の毒を制するために100の毒を使っているのと同じ。

僕はよく「緩慢な死と、急激な死とどっちの危険をまず避けるかの問題だ」と言っているんです。CO2がどんどん増えて地球が温暖化していくのは緩慢な死で、放射能事故が起こるのは急激な死。もちろんどっちも避けなければいけません。

でも、まずやらなくてはいけないのは急激な死の危険を止めること。その後で、緩慢な死を避ける方法を考えるべきです。CO2を出さないから原発はいいんだっていうのは、世界の流れに逆行していますよ。

コストの面では、本来は事故を起こしたときの費用、損害賠償の費用、原発建設時にばらまく税金も含めて考えるべきです。そうすると、原発にかかる金額は再生可能エネルギーに比べて圧倒的に高い。ある意味では無限大なんです。今だって福島の原発の損害賠償請求額はまだ決まってないし、復興のために必要な額もまだ確定していません。

——『日本と再生』では、再生可能エネルギーの可能性について幅広く紹介されていますね。

原発を止めて足りない分は再生可能エネルギーで補えばいいんです。再生可能エネルギーは決して脆弱な、お天気任せのエネルギーではありません。ヨーロッパではもうあり余るくらいの発電量があるんです。世界の再生可能エネルギーの設備容量はすでに原発の何倍にもなっていて、最も大きい容量の電源です。

『日本と再生』予告編

——今の世界の再生可能エネルギーの状況は、数年前と比べてずいぶん変わったんですね。

2015年のパリ協定で、脱CO2を再生可能エネルギーで目指すという世界的な合意がなされたわけです。それができたのは、再生可能エネルギーが安くなったから。再生可能エネルギーは環境問題を突き抜けちゃったんです。環境にいいからやるんじゃなくて、儲かるから再生可能エネルギーをやる、そういう時代になってきている。だから、アメリカ、中国、ヨーロッパ、アフリカなど世界中でどんどん再生可能エネルギーの割合が増えているわけです。

再生可能エネルギーは原料がいらないから全部自国生産できますよね。エネルギー安全保障も完璧になります。そして一番安上がりでもある。日本は毎年20兆円から25兆円かけて化石燃料をサウジアラビアなどから輸入しています。ほかの国は国内で発電して回しているのに、日本は相変わらず国外に25兆円払っている。毎年どんどん差がついてしまいますよね。日本政府がどんなに愚かでも、近い将来必ず再生可能エネルギーに舵を切る時期が来ると思っています。そうしないとやっていけませんから。

——2018年に閣議決定した「第5次エネルギー計画」では、電源の約2割が原発、同じく約2割が再生可能エネルギー、残りを化石燃料にすることが目標として掲げられています。政府はなぜ原発を止められないと思いますか。

今の政府や経産省は、原子力ムラからお金と票を貰っているので、何がなんでも原発を維持したいんです。だから原発を維持するために再生可能エネルギーの足を引っ張らなきゃいけない。再生可能エネルギーの買い取り価格を安くしたり、新規建設の事前審査を厳しくして何年もかけて造らせないようにしたりと、あらゆる手段で妨害しています。再生可能エネルギーの価値と実力が出れば出るほど、原発の馬鹿馬鹿しさがわかってしまうからです。

日本は化石燃料小国ですけど、世界に冠たる再生可能エネルギー資源大国なんですよ。太陽、風、水、森、地熱など、エネルギーになるものがたくさんある。

日本は間違いなく再生可能エネルギー大国になれる

——ただ、再生可能エネルギーにもまだまだ課題があるのが現状です。

風力発電におけるバードストライクや台風による太陽光パネルの破損など、確かに改善するべき課題はあります。でも、その危険性は原発事故の比ではありません。

メガソーラー建設による自然破壊も今の再生可能エネルギーが抱える悩みのひとつですよね。これは地域の人と共に、何を優先するかをきちんと話し合って決める必要があります。環境アセスメントも大事です。「ここは絶対に地崩れ起きるから造ってはいけない」といった風に、ゾーニングしなくてはいけない。ドイツやアメリカではちゃんとやっていますが、日本だとまだ少ない。それは、再生可能エネルギーを推進するつもりがないから。国が法整備をせずに放っておいているんです。

——エネルギー政策に対して求めることはありますか。

ゾーニングなど、再生可能エネルギーを育てるために必要な規制はちゃんとやってほしいですが、足を引っ張る方向での規制はもう止めてほしい。たとえば、農地の一部に支柱を立ててパネルをはり、農業と発電事業を同時に行うソーラーシェアリング。これは日本の革命的な発明です。再生可能エネルギーと農業の生産の両方ができて、農地の再生、日本の農業の再生にも役に立ちます。

でもひとつ問題があって、農地法でそういうものを勝手に作っちゃいけないことになっているんです。農地の一時転用許可が必要になり、許可がなかなか下りない場合も多い。だけど、いいことのほうが多いんだから、どんどんやってほしい。そういった規制がなくなれば、日本はあっという間に、間違いなく再生可能エネルギー大国になると思いますよ。

『日本と原発 4年後』全編版

河合 弘之 HIROYUKI KAWAI

1944年旧満州生まれ。東京大学法学部卒業。さくら共同法律事務所所長。浜岡原発差止訴訟弁護団長、大間原発差止訴訟弁護団共同代表、脱原発弁護団全国連絡会共同代表、原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟幹事長、3・11甲状腺がん子ども基金理事、認定NPO法人高木仁三郎市民科学基金代表理事、中国残留孤児の国籍取得を支援する会会長、フィリピン日系人リーガルサポートセンター代表理事、環境エネルギー政策研究所監事。代表作に大下英治著『逆襲弁護士 河合弘之』(さくら舎 2013年)、『原発訴訟が社会を変える』(集英社新書 2015年)、映画『日本と原発 私たちは原発で幸せですか?』(2014)、『日本と原発 4年後』(2015)、『日本と再生 光と風のギガワット作戦』(2017)などがある。