有事の際には、社会が潜在的に抱えていた「弱さ」があらわになる。今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、女性や子供、非正規労働者やホームレスといった社会的に弱い立場にある人々がさらなる貧困や暴力の危機にさらされている。すでに生活そのものが立ち行かなくなっている人たちも。「命の守るためのコロナ対策」とは何か。今回の立憲LIVEでは、枝野幸男代表と司会の白沢みきさんが、上智大学教授で政治学者の三浦まりさんと、認定NPO法人抱樸(ほうぼく)理事長の奥田知志さんとともに考えた。
日本社会で、この後なにが起きるのか?──コロナで鮮明になった、この社会の弱さとは
奥田「ここ数年、相模原障がい者施設殺傷事件や、台風時に避難所からホームレスが受け入れを拒否された事件など、意味のある命、ない命といった分断線が目立っていました。緊急事態になると、助けるべき命と、自業自得だと言われてしまう人たちの命の分断がさらに進むと思います。命を守るというテーマにおいては、命に意味のある/ないの分断線なんてない、という前提がまず大事です。」
「今の日本の構造的脆(ぜい)弱さとは、日本的雇用慣行が崩れた後の、いわゆる寮付き就労といった非正規雇用の広がりです。今後さらに解雇が増え、仕事と住居を同時に失う人が増えるでしょう。失業率が1ポイント上がると、約2,000人自殺が増えるという統計があります。自死が増えることを心配しています。」
三浦「UN WOMEN(国連女性機関)は「影のパンデミック」に警鐘を鳴らしています。社会的に弱い立場に置かれた人たち、特に女性への暴力は日常からありますが、それが一気に噴き出しています。暴力を受けてもなお家を出られていない女性たちに、どうやったら社会的な支援の手を差し伸べることができるのか、これは切実な問題です。」
「人が人を支える」視点がないと、現金給付も行き届かない
コロナの感染拡大により、経済・教育・医療といった様々な場面において社会の分断が深刻化している。人々をつなぎ、支え合う社会をつくっていくには、どうしたら良いのだろうか?
奥田「あなたに生きてほしい、ということを強烈に訴えていくことが必要です。10万円の一律給付が決まったのは良かったが、一方で欠けているのは、お金や物だけでは人間は生きていけないという視点です。民主党政権時に構想された生活困窮者自立支援制度は、現金などの給付だけではなくて、人が人を支える相談支援を中心とした仕組みです。感染リスクのため通常どおりとはいきませんが、この制度の経験を生かした取り組みに期待しています。」
三浦「さらなる分断が進むか、それとも一人ひとりの命を大切できるのかは、今にかかっています。東日本大震災時には、政府が出す(居住可能区域などの)線引きに異を唱えると『女子どもはヒステリーで過剰な反応をする』などと言われ、社会に分断線を走らせてしまった。でも、リスク感覚は、その人によって違います。今後、政府が安全だというものに異議を唱える人たちが排斥されかねないという懸念を持っています。リスク感覚が人によって違うということを前提に、幅の広い対応と情報発信をしてほしい。」
枝野「(生活に困窮して今、現金を最も必要としている人たちは、情報が届かなかったり、役所への申請がしにくかったりすることを考えると、)すぐそばで支援している人たちがコミュニケーションを取らないと、最も必要とされているところに配りきれないですよね。10万円給付も、世帯主に配ったのでは届かない人たちが山ほどいます。(世帯単位の給付の仕方を見直すのと並行して、)支援が届きにくい人たちのそばにいる、そして今一番感染リスクにさらされながら頑張ってくださっている医療、介護、福祉関係者を、行政がしっかり支えなければなりません。」
「10万円、30万円も大切だけど、10年後、30年後のことは誰も話してない」求められるのは長期的な社会のビジョン
場当たり的で後手後手の政府のコロナ対応は、多くの国民の怒りを買っている。コロナ感染拡大収束に向けて求められているのは、長期的なビジョンに裏打ちされた対策だ。
奥田「与党は現在の対応が第一の仕事です。野党は、一歩先二歩先を見ることができます。10万円、30万円といった話は目の前のこととして非常に大事なんだけれど、一方で10年後、30年後をどうするかという話はキチンとされていません。新しい社会のビジョンを、今こそ語らないといけない。」
三浦「今より良いオルタナティブな世界を見たい、それが実現できると信じたい。野党には、どういう方向にわれわれが向かうべきかを示してほしいです。コロナの影響は2年ほど続くと言われ始めています。そうなると、たとえば学校はほぼオンライン教育になるでしょう。Wi-Fi環境が不十分な中で、全ての人に平等な学習する権利が行き渡るために、どういう予算を組んでいくのか。新しい社会のあり方と、具体的な実現の方法は、野党がつくれると思います。」
枝野「たとえば、営業自粛をしている個人営業の店に、減収補てんがなぜ必要かと言ったら、個人営業の店が(補てんがなくて)倒れてしまったら、経営者や従業員の暮らしは立ち行かなくなってしまうから。みんなのために店を閉めているのだから、みんなが納めた税金から補てんを払おう、という『支え合い』の考え方が、わたしたちのベースにはあります。また医療支援とひと口に言っても、わたしたちの視点は、不安定な非正規雇用の中、感染リスクのある現場でがんばってくれている看護師さんたちにあります。こういった人たちが安心して暮らせる社会を見据えながら、今一つひとつの対策を積み上げていけば、コロナ危機を乗り越えた先に、より良い社会をつくれるはずです。これをもっと端的に伝えていかなければならない。」
「お互い様に支え合う」がキーワード。コロナ危機を乗り越え、もっと暮らしやすい社会はきっとできる
それでは、いま政治は具体的に何ができるのだろうか?
奥田「具体的な課題で言えば、失業しても住居を失わない社会をどう構築するか。災害救助法に、「みなし仮設」と呼ばれる制度があります。地域にある空きアパートを都道府県が借り上げて一定期間、無償ないし低廉(ていれん)な家賃で貸し出すものです。全国で846万戸(2018年度)空き家があります。コロナで家を失った人に対して、この空き家を使ってみなし仮設のようなものを準備できないでしょうか。コロナの収束後、そのみなし仮設入居者に就労支援をすれば、そのままそこが自宅になり、仕事に通えます。」
枝野「災害救助法の適用はできると思いますし、みなし仮設を使っていく方向に強く誘導していかなければいけないです。」
三浦「意思決定の主体が多様でないと、一人ひとりの状況には寄り添えません。コロナ危機の中で『パリテ(男女半々の議会)』の重要性は高まっていると思います。ジェンダー視点を中心に据えて発信していってほしい。」
枝野「ここ30年ほど、『情けは人のためならず』の意識が日本社会では希薄になってしまいました。これでは、大切な人の命を守れません。でも、みんながお互いに自分のかけがえのない人がつらい立場に置かれたらと考え、支えるための行動をしたら、コロナ危機を乗り越えていけます。今までより暮らしやすい社会が間違いなくできるはずです。ぜひみんなで支え合って、安心できる社会をつくっていきましょう。」