2019年の4月に予定されている統一地方選挙。男女同数の候補者の擁立を推進する“日本版パリテ法”の成立をうけて、立憲民主党は候補者の4割は女性を擁立するという目標を掲げている。
大阪では、すでに活動する30名ほどの立候補予定者のうち、約半数ほどが女性(2018年末時点)。大阪の政治に新しい風が吹こうとしているーーそんな空気をうけて、イベントのタイトルには、「大阪の女性たちが政治を変える」。そんな言葉が掲げられた。
登壇したのはいずれも、大阪各地で政治活動中の女性たち4人。それぞれまったく違う世界から政治にチャレンジをするという彼女たちにとって、政治の世界はどう見えている? イベントの模様をリポートします。
それぞれの「過去」「今」「未来」
4人のトークセッションは、それぞれの「過去」「今」「未来」をフリップに書いて発表する自己紹介から始まった。大阪市阿倍野区で活動する橋本まな、東住吉区で活動するけさまる朝子、八尾市で活動する西川あり、そして大阪府で活動する亀石倫子だ。
各自がみずから書き出したキーワードを軸に、4人がそれぞれこれまでのライフ・ストーリーを語っていく。
橋本:管理栄養士として働いていたんですが、昨年の今頃、1歳になる子どもを育てながら職場復帰をしました。仕事と子育ての両立に苦しんで、「わたしには無理」ってそう思ってました。
そんな時、ある本で読んだ「あなたには自信がない、なぜなら女の子だから」という言葉にハッとしたんです。女性だからと言ってやりたいことを諦めるべきではない、という気持ちが強くなった。その時の気持ちは「悔しい」。
「あきらめない」は、政治の世界にチャレンジすると決意した今、いろんなことを「あきらめずに」取り組んでいきたいなって思ってます。
けさまる:2017年の総選挙中の天王寺での枝野さんの街宣の光景がすごい印象的で。土砂降りの中、見たことがないくらい多くの聴衆が集まってみんなグッと枝野さんの話を聴いていた。政治が動く瞬間を感じたんです。「まだ終わってない」って感じました。
今は「ここから」。街でいろんな声を聞いているんですけど、この前は、政治に対する「無力だから悔しい」っていう気持ちをぶつけられて。先日、たまたまその方とお会いしたら、「この前は話せてよかった、ありがとう」と言われて。ここを自分の原点にしようと思いました。
未来は…「ファン」かな。「一人ではできないから一緒にやってくれる人を増やしたいという意味と、みんなで楽しくやっていきたいという意味をかけました(笑)
西川:少し前まで、わたしが普段ともに活動している仲間から統一自治体選挙の候補者を出したくて探していました。まさか自分がなるとは思わなかったけど(笑) だから過去は「候補者探し」をしていましたね。
今は「市民委員って…」っていうのは、わたしは八尾市でこども子育ての市民委員をやっていました。それなりに頑張ってやっていたんですが、ある時、八尾市内の幼稚園でのわいせつが発覚してニュースになって。その時に、これは誰かが本気でやらなければいけないと思いました。
未来は、「分断されない」! いまは社会的に弱い立場にいる人同士が争いあったりしているけれど、本当はもっと大きなものに対してともに戦わなきゃいけない。女性たちの中でも、産む・産まないだったり、専業主婦やワーキング・ママと、それぞれ分断されがち。そうじゃなくて「つながっていこうよ」ってことをみんなに伝えていきたい思います
亀石:過去は「ふつうってなんだ?」。普段から、女らしく、弁護士らしく、ってことを求められる。小さい頃から親にも「ふつうこうでしょ、あんたなんでふつうにできないの」って言われっぱなしでした。
今は「権力とたたかう刑事弁護人」。わたしは刑事弁護をやってきました。ネットとかには悪徳弁護士って書かれることもあるけど、国家権力が正しく使われているかどうかをチェックする役割があると思っていて。
未来は「安倍政権とたたかう女性政治家」。立候補の話がきたのが突然だったんですけど、普通やらないでしょと思って最初断ったんです。でも普通こうだよねって言われるのが嫌だったんじゃんって、普通ってなんだよって、思い直しました。だから、わたしは敵を変えてたたかいます(笑)
4人のクロストーク
後半ではそれぞれのキャッチフレーズをもとに、パネリストによるクロストークが行われた。
橋本:自分の中では、妊娠と出産が転機になった。妊娠がわかった時に「仕事辞めるんでしょ」って周りの人から当たり前のように言われて。保育園もなかなか決まらなくて、役所にも相談したんだけど無理ですねって言われて。ああ、こうやって「母親」は社会から排除されるんだなって思いました。
「お母さんなんだから子ども生まれて嬉しいでしょ、家で家事と育児をしてなさい」っていう押し付けも感じた。仕事辞めたくないとか苦しいってことが言えなかったんですね。当事者になると言いにくい。その時に友だちに「みんなで一緒に育てよう」って言われて、それがすごく嬉しかった。
女性として生きてきて、こうあらねばいけないっていうのに縛られてきたと思うんです。そういうことから自分を解き放ちたいなと思っていますし、縛られなくていいんだって伝えていきたい。
けさまる:わたしが暮らしているところは課題が集積する地域なんですけど、それでもあったかいコミュニティに支えられて生きてきたと思っています。小さい頃、家にお風呂がなかったからいつも銭湯に行ってました。そこに行くとジュースを買ってくれるおっちゃんがいつもいて。今でも行くと買ってくれるんですけど(笑)
分断とか自己責任とか、そういう空気がある中で、地域の人同士が助け合っていこうっていうのが今こそ大事なんじゃないかなって思う。大阪府の子どもの5人に1人が貧困にあるっていう統計がありますけど、数字だけじゃなくて、そういうことに取り組んで行くときに誰かの顔が浮かぶようにしたい。
西川:自分の子育てを不安に思っていた時があって、CAP (Child Assault Prevention)というプログラムを受けにいきました。その時に初めて気づいたことがあったんです。
それは「叩いて育てる」というのが常識じゃないってこと。自分も親に叩かれて育ったし、「叩かれて子どもは大きくなるものだ」って思っていたから、叩かれないで育った人がいるって知らなかったんです。自分の時は近所のおばちゃんが助けてくれた。でも、今は近所づきあいがなくなってきている。街で子どもの泣き声を聞くとドキッとしてしまいます。
一方でわたしのように子どもの育て方に不安を覚えたり、上手くいかなかったりするお母さんがいるのも現実。子どもへの支援だけじゃなくて、母親支援も重視しています。思い通りにいかなくてイライラするのは当然だし、「あなたのせいじゃないよ」って伝えるようにしています。子育てや介護が女性に押し付けられている状況を変えていきたい。
亀石:わたしが被疑者に会いにいくと、がっかりされるんです。「なんや女か」という感じで。あと18年大阪に住んでるんだけど、大阪弁が喋れないから、「おまえ関東弁で喋りやがって」って言われて出ていかれたこともあって。
弁護士の世界も女性は少数で17パーセント。刑事弁護やってる女性はもっと少ない。検察も裁判官もほとんどが男性です。女だから馬鹿にされてるというのをずっと感じてきた。
政治という場に「わたしたちが等身大でいる」っていうことだけで意味があると思う。
会場からの声は?
後半は、会場から集められたメッセージを司会が紹介、それにパネリストが自由に応答するセッション形式。集められた意見は以下のようなもの。
独身女性です。ある政治家の、子どもを産まない人たちは「生産性がない」という言葉にはわたしも傷つきました。すべての女性が生きやすい社会をつくってほしい。
わたしは投票をする時、自分の夫や親に「どこどこに投票しろ」と言われます。パネリストの皆さんはそういう経験や葛藤はありますか?
学童保育を守ってほしい
様々な声が読み上げられる中、「政治家として取り組みたい課題やテーマはありますか?」という問いに対する4人の答えは次のようなものだった。
橋本:女性が諦めなくていい社会。すべての女性に選択肢を保証する社会をつくりたい。それは女性だけじゃなくて、みんなが暮らしやすい社会だと思う。
けさまる:すべての子どもが健やかに育つ仕組みを作りたい。そしてその仕組みをみんなで考えられる社会にしたいです。
西川:市議会議員選挙にチャレンジしようと思う」と友人の女性たちに言ったら、「政党に所属するの?」「 親戚も議員だけど、ちょっと…」と、みんなから引かれてしまって。きっと彼女たちにとって、政治に関わるということが楽しい経験ではなかったんだなって思った。「政治に関わる」という経験そのものを、もっと楽しいものにしていきたいと思いました。
亀石:「わたしって自由だな」って一人ひとりが感じられるようにしたい。そのためには経済的に不安がないことが必要だと思う。そういう社会をつくっていきたいです。
会場は和やかなムードに包まれ、休憩時間や終了後には、パネリストが会場のあちこちで参加者と写真を撮ったり、意見交換を行っていた。
登壇者、そして一般参加者の感想は?
イベント終了後、一般参加者数人と、登壇した4人にコメントをもらった。
それぞれが生活の中で感じてきたことを自分の言葉で話されていてよかった。みんなそこから政治に一歩を踏み出したんだ、ということがよくわかりました。女性としてもそうだし、出産や子育てをしながら仕事をしているというところで、共感するところがたくさんありました。
4人、それぞれのたたかい方というか、表現の仕方があった。「政治家はこう」とか「女性はこう」とか、型にはめられてない個性が知れて嬉しかったです。
誰かだけが得するんじゃなくて、そこに住んでいる人たちみんなが対等に付き合いながら生きていこう、というのが、4人にとっての共通の意識だったように感じました。
当選して議員になっても、僕たち市民に議会の様子や、議員として感じることとかを共有してもらう機会があったら嬉しいな、って思います。
議員になっても悩みとかを共有してもらいたい。一緒に悩んで考えて、前に進んでいくようにしたい。政治家だけにすべてを押し付けるんじゃなくて、わたしたちも投票する側として、そういう環境づくりをしていかなければいけないなと。
橋本:今まで他の候補者たちと自分のストーリーをシェアしたりする機会がなかったので、それぞれがどういう思いで立候補したのかを話して、聞けて、よかったです。
けさまる:「こういうの初めてだったけど友達と来てみました!」っていう人や、「来れてよかった」と声をかけてくれた人がいて、やってよかったなと思いました。
西川:みんな共通した思いを持っていることに気づいたし、勇気もらえました。これから一緒にたたかっていくわけで、同じ地点に立っていると感じて、このひとたちとならって、安心しました。
亀石:今夜はそれぞれの本音が出たと思う。参加者がうなずきながら聞いてくれたり、拍手してくれたり、リアクションが手に取るようにわかるのもよかった。こういう距離で話すイベント、続けていきたいです
4人の登壇者たちが語った生い立ちや職場や家庭での経験は多様だ。取調室でのアクリル板越しの被疑者との会話。「母」という重責を抱え込んでしまう女性たちの息苦しさ。貧困の中で生きる人々の知恵。「女性である」ということが選択肢を奪っていく無力感——一口に「女性」と言ってもそれぞれが感じてきたこと、考えてきたことはまったく違う。
彼女たちの経験は本来、「女性」というひとつのカテゴリーではくくれない。しかし、女性が圧倒的に少数である日本の政治を変えるには、女性が時には手を取り合わなければいけない場面がある。それが今だ。
彼女たちにとって「政治」はまったく未経験の世界。これまで以上に多くの困難も待ち受けているだろう。しかし、新たなチャレンジに飛び込む彼女たちの表情にはポジティブな力が感じられた。
彼女たちが辿ってきた道が「政治」という現場で交差するとき、現在のモノクローム色の政治に、新たな可能性が芽吹くだろう。