2月16日に都内で開催された「立憲フェス2020」で「ボトムアップの立憲経済ビジョン」をテーマに行われたトークセッション。ここでは、「賃金・所得アップで消費を拡大し、多様性を力に、着実な成長を実現する」立憲民主党のボトムアップの経済ビジョンの実現のために何が必要か、逢坂誠二政務調査会長と公共政策学者の田中信一郎さん、弁護士の明石順平さんが語り合いました。
田中)日本は2008年から人口減少に転じたが、これは有史以来の出来事。そうしたなか、既存の経済構造を維持するための非人間的な働き方と貧弱な社会保障が人口減少を招いているのが現状であり、経済構造の変革を講じなければ、人口急減は100年以上続き、2110年の人口は2010年の3分の1になる。既存の経済構造を守って、永遠の人口減少を受け入れるのか、将来的な定常化を目指して経済構造を変革するのか。いまこの2択を有権者が選ぶ状況であり、政府の矛盾を解くカギは「実質賃金」にある。
人口、国際、技術という経済の前提条件の大変化を踏まえ、実質賃金を底上げし、経済構造を転換する政策が必要。これから来ると言われている水平分散・ネットワーク型社会では人々の創造力と協力を最大限に引き出すことが有効な経済政策になる。まったく違う経済政策が必要だが、これを阻むのが人口増加と経済成長を前提とするいまの政治。つまり、経済成熟と人口減少に適応するには日本の針路の転換を目指す、政権交代が必要。
政治の転換に加え、社会みんなが住宅や働き方、さまざまなところで政策を変えていかなければならない。賃金所得のアップと公正なマーケットをデザインする経済政策の転換がカギになる。
・政策転換の条件整備とアベノミクスの総括
・賃金所得アップによる安定需要の確保
・政策プロセスの透明化・公正化による効果的な資源配分
・公正な市場デザインによる活力の創出
・エネルギーを突破口にするイノベーションと産業転換
・人口減少社会に必要なインフラ投資と地球経済の安定化
・権力と学びが比例する社会への転換
・国際ルールをレビューし、グローバリゼーションと上手につきあう
明石)賃金と物価の推移について見ると、前年比で消費税の影響を除いておりデフレではない。物価は上がっている。他方、名目賃金は伸びていない。物価変動の影響を除いた実質賃金は4.4%も低下していて、これが消費停滞に直結。実質GDPの約6割を占める実質民間最終消費支出が伸びないと経済成長できないなか、2014年から16年まで3年連続で下がっており、これは戦後初めてのこと。17年に少し上がったが13年を下回っていて、4年前を下回るというのも戦後発で、18年になってまた下がり、13年以降まったく成長できないという異常事態になっている。
賃金が先に伸びれば購買力が上がるので、物価を上げてもものは売れる。物価を引っ張り上げる。これがいい経済成長。1997年以降、賃金が下がり物価も下がる。物価はピーク時と比べて約5%、名目賃金は15%も落ちている。この賃金の下落を無視し、物価だけを無理やり引き上げた結果、名目賃金が全然追いつかず実質賃金が下落。消費の下落を招いている。
逢坂)企業の内部留保は増え、株主の配当は増えたが、働く人たちの給与所得水準は下がるなか、物価は上がり、人々の生活は楽ではない。内需を支える個人消費が伸びなければ経済は大きくならないのが日本の現実。これに人口減少が加わり、さらに悪循環に陥っているが、なぜそうした状況を生むのか。
田中)1つには非正規雇用の増加。消費者白書を読み込めば明確に分かる。2つ目は子育て支援、出産支援が不足していること。これは経済の問題と切っても切れない。
逢坂)非正規雇用は、いつクビになるか分からず将来の見通しがつかない。勤務時間が長い。
田中)友達もできにくいのでコミュニティもきちんと作れない。広い意味では賃金になる。
逢坂)われわれが非正規を改善しよう、賃金を上げようと言っていることを「経済政策ではない」と言う人がいるがそれは違う。そこを直さないと人口も増えないし経済も良くならないというのは1つのポイント。
田中)エネルギーの問題も重要で、原発か自然エネルギーかということよりも、垂直統合、すなわち資源を取るところから運んできて生成し、皆さんに届けるまでを一つないし一部の企業だけが巨大資本でやるのか、それとも一人ひとりの皆さんが生産者であり消費者であるというプロシューマー(※)、分散型になっていくのかというのが大きな違い。
例えば、断熱住宅が広がっていけば地域に多くの仕事や所得が生まれて、大都市に出てこなくても地方で豊かに暮らすことができる。まったく国の形が変わっていく。それがエネルギーということ。
逢坂)いまは大規模な発電所、大規模な電力会社しかエネルギーの生産に関わることができないけれど、エネルギーの形を変えていく、再生可能エネルギーに転換していくことで多くの人たちがエネルギーに関わることができる。そして、エネルギーに使うお金を海外へ出すことなく、自分の地域でそのお金を使うことができる。それは経済が回っていく大きな出発点になると思っている。
これからの経済政策は、もちろん金融も、財政も、税制も大事ですが、これだけでは日本の経済はよくならない。今日の話から多少はご理解いただけたのではないでしょうか。1つは人口政策。人口が増える政策をどう行うか。その改善の鍵は、非正規雇用の働き方の見直しと、賃金の底上げを行うこと。ただし、いま中小企業は大企業ほど潤ってないので、中小企業の皆さんに「賃金上げてくれ」「非正規やめてくれ」と言っても簡単にはいかない。そこをどう政策的にバックアップしていくかは大きなポイント。
もう1つはエネルギー政策を変えること。エネルギーの国内での自給率を変えていく。原子力でない、本当の意味での自給率を高めることと、建物の断熱性能を高めていくこと。そうするとヒートショックで亡くなる方も少なくなりますし、少ないエネルギーで夏は涼しく、冬は暖かい暮らしが実現できるようになる。住宅の断熱性能を変えるということは地場の工務店が仕事できる。大きなビルを建てるのは大手のゼネコンかもしれないが地場の工務店に仕事がいく。それが本当の意味でのボトムアップの経済になる。
田中)中小企業に非正規雇用の改善を求めるだけでは大変。同時にエネルギー政策、原発ゼロの再生エネルギーへの転換によって地域に仕事を生んでいくことが両輪。
明石)自民党が掲げている政策は近道、一発逆転を狙ったもの。しかし近道なんかない。立憲が掲げているのは近道ではない、「ボトムアップ」という方向なので支持している。一人ひとり力を合わせて変えていくことが大事だ。
逢坂)賃金を上げていくのは大事だが、中小企業では簡単ではない。でも政治の力でやれる分野もある。保育士や介護士の賃金は政治が決めれば上げていくことができる。そういう賃金を上げる社会の動きを作ることが大事なポイントだと思っている。