衆院本会議で27日、出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案(入管法改正案)の採決が行われ、与党などの賛成多数で可決、参院に送付されました。
衆院本会議では、採決に先立ち立憲民主党・市民クラブを代表して山尾志桜里議員が反対の立場から討論を行いました。
「国家の覚悟が問われる法案が、国会に提出されてみたら何も決まっていなかった。中身が決まってない法案が通ったとき、いったい何が起きるのか、お話したい」と切り出した山尾議員は、「受け入れ見込み数」「上限規制」「永住資格」「拡大する労働の範囲」の4つを挙げ、議論の大前提が「決まっていない」と指摘。「結局、今回の外国人材受け入れ拡大法案は、およそあらゆる労働について、人数の上限なしに、潜在的永住者として、受け入れ拡大を可能とする法律として成立する。成立後、どんな枠付けをするかは、時の法務大臣の采配ひとつだ。立法府の一員として、外国人受け入れ制度をすなわち日本政府以外の国際社会がおよそ『移民政策』と呼ぶものの根幹を、法務大臣に丸投げすることはできない」と断じました。
政府が提案している新制度の土台となる技能実習制度には外国人の人権問題・労働問題という深刻な問題があり、虚偽データの発覚によってようやくその問題に光が当たり始めたなか、政府がなすべきはデータのコピーを認めて与野党政府が一体となって問題点の解決にあたる環境整備だと主張。手書きを認めてコピーを拒絶し事実上の拡散を最小限に抑え、問題点を再び闇に閉じ込めることはやめていだだきたいと求めました。
その上で、「技能実習制度は、すでに就労している技能実習生や適正な受け入れ機関に不利益がないよう配慮しつつ段階的に廃止して、『就労』を正面から受け止め、受け入れる新しい制度に移管・統合していく道筋をつけるべき」「受け入れ総数には上限枠・総量規制を制度としてしっかり設けるべき」「人員、予算をつけて新しい役所をつくるのなら入国在留管理庁ではなく省庁横断機能を持つ多文化共生庁をつくるべき」だと提案しました。
外国人労働者をめぐっては、残業代の未払いや最低賃金割れ、長時間労働やハラスメントといった現代の労働市場が抱える深刻な問題に加え、うまく言語が通じない、抱えた借金を返すまで正当な権利を主張できない、救済機関へのアクセスが難しい、など類型的な困難を抱えていると指摘。「『単純労働は外国人には拡大しない』とか『移民政策はとらない』とか、その場しのぎのあいまいな概念で線引きし、適切な待遇を受けていない日本人労働者と外国人労働者との間に分断と排除の種を埋め込まないでいただきたい」と訴えました。
「今国会での本法案の審議は、『働く』『生活者』たる『外国人』を受け入れていく日本社会の大きな転換とその重さに値する審議ではなかった。偽りのデータを土台にして、空っぽの法案を提出した政府に対し、アリバイ作りの時間を積み重ねることが立法府の役割ではないはずだ」と批判。「多文化共生は簡単な話ではない。大豆やトウモロコシの輸入とは違い、国内供給が増えたら輸入ストップというわけにはいかない。人間を国家に受け入れる話で、目先の経済や支持母体の顔色ばかりを見て、きちんと制度設計せずにドアを開けたら、簡単に閉じることはできず、取り返しのつかない分断を生む。だからきちんと制度設計するための議論を続け成熟させるのは国会の責務だ」と力を込めました。
最後に、「法務委員長、議院運営委員長、あるいは衆院議長。国会運営の『長』の多くは公平中立という名のもとに与党議員が担うが、いかに公平中立の仮面をかぶっても、最後はリスクを取らず、政権に唯々諾々と従うようなこんな運営を続けていたら、立法府は壊れる、もう壊れていると思う。権限ある人間が、いざというときにその権限を勇気と正義感をもって使わないのであれば、その人は傍観者ではなく共犯者だと思う。法務委員会での強行採決、そして緊急上程、さらには熟議がないままブザーが押され本会議での採決がなされることに、この場から強く抗議する」と表明。「外国人受け入れという国家の覚悟を問う法案に対し、立法府としての熟議が全く果たせていないまま、行政府の下請けになって賛成することは間違いだ。私たちは立法府の責任を果たす立場から、本法案に対し反対する」と締めくくりました。
また、入管法改正案の採決に先立ち山下貴司法務大臣の不信任決議案が議題となり、会派を代表した賛成討論を松平浩一議員が行いました。決議案は、賛成少数で否決されました。
松平議員は、山下法務大臣の座右の銘である「突破力」が今回の審議では裏目に出てしまったとして、(1)様々な答弁が、丁寧な説明がなく正面から答えずに「突破」(2)法案審議に先立ち、失踪技能実習生への聞き取り調査資料が示されたが、誤ったデータに基づき答弁、誤りの根源には目を向けず、強硬に法案の審議を求めて「突破」(3)受け入れ見込み数のずさんな推計が、多くの国会議員、参考人、報道から指摘されているが「突破」(4)国会審議への非協力的な姿勢で「突破」(5)法案の中身を何も決めずに「突破」――していると指摘しました。