世界的に政治の「パリテ(男女平等・同数)」への取り組みが加速している。一方、日本における衆議院の女性議員の比率は10.1%にとどまっている。これは世界193か国中158位、OECD諸国の中で最下位の数字だ。
20年前は現在の日本とほぼ同じ比率だったフランスは、現在40%まで数字を伸ばしている。その原動力になっているのが、1999年の憲法改正を経て、2000年に制定された「パリテ法」だ。パリテ法は国会および地方議会の選挙の際に候補者を男女平等・同数にすることを政党に義務付ける。日本でも2018年5月に、「日本版パリテ法」ともいわれる「政治分野における男女共同参画推進法」が制定された。これは、国会や地方議会の選挙で、政党が男女の候補者数を「できる限り均等」にすることを促す一方で、フランスのパリテ法のような強制力はない。
フランスの「パリテ法」は、なぜここまで有効だったのだろうか。現在、パリ第9大学訪問研究員としてフランスのパリテを研究する村上彩佳さんにフランスでの事例を聞きながら、女性の政治参加の障壁とその壁を乗り越えるためのヒントを探った。
パリテ法は、推奨ではなく義務
——まずは、村上さんが研究されているフランスのパリテについて教えてください。
フランスのパリテ法は、男女同数を実現するために様々な義務を課しています。たとえば、比例代表制が適用される選挙では、名簿で必ず男女・女男が交互に記載されるようになっています。これは推奨ではなく義務なので、交互でない名簿は受理されません。ほかにも、議員選挙候補者の男女比の隔たりに応じて政党助成金が減額される仕組みや、よりユニークなものだと、県議会議員選挙に男女ペアで立候補し、当選後は別々に活動するというものもあります。
現在私は議員や国家公務員、そして女性市民団体へのインタビューを通して、パリテ法が実際にどのように機能しているのかを調査しています。
——村上さんご自身は、これまでにジェンダー差を感じた経験はありますか。
それはもう、たくさんあります。わたしは愛媛県の島しょ部出身なのですが、家父長制意識の強い地域で育ちました。祖母から、「女の子は勉強しなくていい」と言われたこともあります。
近年は女性も大学に進むのがあたりまえになってきていますが、この変化は女性たちが築いてきた賜物だと思います。ですが、「女性だから大学に行かせなくてもいい」「男性だから浪人してでも難関大学に行ったほうがいい」という風潮もまだ残っていると感じます。20代になったら、周囲から「結婚は?」「女の子だから地元に帰るの?」と聞かれるようになりました。同じ20代でも、男性は言われないんですよね。「仕事が楽しい、忙しい時期だろうから」って。
現代は、一見平等に見えますが、小さなところからじわりじわりと、でも確実にジェンダー差を突きつけられることがたくさんあります。そのことについては以前から怒りを感じていました。
20年かけて女性議員の比率を40%に
——日本における国会議員の女性議員比率は、衆議院で10.1%、参議院で20.7%(2018年2月時点)と諸外国に比べて低い水準です。フランスでは、パリテ法が制定される前から女性議員の比率は高かったのでしょうか。
1997年の時点では、フランスも女性議員(下院)の割合は10%程度でした。そこから約20年かけて、40%程度まで上がりました。これはやはりパリテ法による大きな効果ですね。
日本で昨年成立した、政治分野における男女共同参画推進法は、男女の候補者の数ができるかぎり均等になることを目指すものですが、強制力のない理念法です。フランスのように女性の立候補を増やそうとするなら、パリテ法のように制裁を設け、パリテじゃないと選挙戦に出られなくなる制度をつくるなどしないといけないと思います。
——フランスと言えどパリテ法の制定は一筋縄ではいかなかったと思うのですが、どういったことが追い風になったのでしょうか。
3つあると思います。1つ目はEUからのプレッシャーです。先ほども言ったように1997年の選挙でフランスの女性議員比率は10.9%でした。これは議会の女性議員比率のEU内ランキングでギリシャに次いで下から2位の数字でした。それに対し、「民主主義の母国であるフランスが、この女性議員比率で民主主義と言えるのか」と議論が起こりました。最初に「パリテ法を作ろう」と言ったのは、フランスの代表としてヨーロッパ議会で活躍していた女性議員なのですが、その声がフランス国内にも徐々に広がっていったんですね。
韓国や台湾も候補者・議席の一定比率を女性に割り当てる「クオータ制」を導入しています。日本も、「アジアの中で遅れていてまずいぞ」と感じていいはずなんですけどね。
——確かにそういった外の情報はあまり日本に入ってきていない印象があります。2つ目はなんですか。
男性のトップリーダーのイニシアチブです。それは政党レベルから、大統領、首相レベルまで関わってきます。パリテ法が通ったときの首相であるリオネル・ジョスパンの妻は、フェミニスト哲学者のシルヴィアヌ・アガサンスキーでした。彼は多くのところを彼女からインスパイアされているのではないかと言われているのですが、首相がパリテに積極的だったのは大きいです。彼はトップダウン式で、パリテを推進していく動きもつくりました。パリテは女性だけで言っていてもダメなんですよね。男性リーダーたちも巻き込まなくてはいけません。
——最後の3つ目はなんですか。
根気強い女性運動だと思います。「女性議員を増やそう」と考える女性たちが団体をつくり、全国各地にネットワークが広がっていった。これがすごい追い風になりました。都市だけでも、地方だけでもおそらくダメなんですよね。地方までずっとつながるような緩やかなネットワークがあって、じわじわと波が起こらないと。
フランスはもともと市民運動文化が根強い国なので、数十年前から、カトリックの女性たちがボランティア団体のような形で「女の子の教育をしよう、女性の声を社会に反映させよう」と運動を熱心にやっていたんです。そういう人たちがパリテを運動のテーマに取り入れた。それが各地に広がる推進力になったのだと思います。
——文化的な土台がフランスにはあったんですね。
でも、日本だってないわけじゃないと思うんです。PTAがありますよね。教育という地域の政治的なことに関心がある女性たちが集まっている。でも、それは政治と違うものだと思われていて、彼女たちも「子どものためにやってるだけだから」と言う。本当はこれも政治だと思うんです。日本のPTAや自治会といった場で女性たちはすごくリーダーシップを発揮している。彼女たちは制度さえ整えば議員になれるだろうし、彼女たちが議員になりたいと思える環境づくりも必要だと強く思っています。
新しいことをする党があれば、みんな後追いしてくる
——パリテ法とは別に、フランスで女性の政治参加を促すためにしていることはありますか。
女性へのトレーニングと政党トップのイニシアチブが挙げられると思います。トレーニングでは、政治の場で有効な話し方やコミュニケーション技術について教えます。
——それは男性的な政治の中でつくられた規範を押し付けるものではなく?
むしろ、「女性らしく」という社会・文化的な抑圧を乗り越えるためのものですね。こうしたトレーニングは女性団体が担っています。自分のアイデアを瞬間的にきちんとまとめて伝える技術などを教えます。これは、今まで“女の子らしい”と刷り込まれてきた話し方やコミュニケーションのとり方を矯正していくプロセスでもあるんです。普段女性は、一歩引いて話を聞き、みんなの意見をまとめる、といった役割を求められがちだから、「意見を言っていいんだよ」と背中を押すことが必要なんです。
女性がトレーニングを積むことと同時に、政治の構造や制度も変わらないといけません。それはやっぱり党のトップが主導することだと思います。女性議員を党としてどんどん増やしていくなど、新しいことをする党があればみんな後追いしてくる。一番大きな変化を起こすなら与党が変わることですが、他党からプレッシャーを与えることも大事です。
女性が政治に参加するメリット?じゃあ、男性が政治に参加することのメリットって何でしょう?
——パリテは将来的に世界の基準になると思うのですが、女性が政治に参加するとどのような良い影響があると考えますか。
それを言うなら、男性が政治に参加することのメリットって何でしょうか。なぜ、女性が参加することにのみ、メリットが求められるんでしょうか。わたしたち女性には政治に参加する権利があります。女性が参加することに理由はいりません。メリットうんぬんではなく、権利を行使できるようにするべきだと思います。
もちろん、良い部分はたくさんありますよ。中年以上の比較的学歴が高く、経済的にも恵まれた男性だけでつくる政治と、女性が半数入った議会でつくられる政治とどちらが国民の声を適切に反映するか、どちらが民主主義らしいかと言ったら、後者ではないでしょうか。女性を受け入れる政党は、若者や貧困家庭で育った人、さまざまなハンディキャップを背負った人たちやマイノリティのことも考えられる政党であるはずです。
——フランスでは具体的にどのような変化があったのでしょうか。
男性だけでお酒を飲みに行って話をして、そこで政治が決まることを「ボーイズクラブカルチャー」という言葉で表現することがあるのですが、女性が一人入るだけでそれは成り立たなくなります。そういったところで政治の健全化、透明化が進んだのはよかった点だと思います。
女性が政治を変える「救世主」と捉えられてしまうことには慎重でありたいですが、女性議員が増えたことで、働き方改革も進んでいますね。仕事と育児の両立が大変なのはフランスの女性でも変わりません。これまでの残業を良しとする風潮が変わり、残業をカットする動きなどが進んできています。まだ途上ですが、変化の兆しは感じています。
——日本ではいまだに女性議員に対する風当たりが強いように感じるのですが、フランスではどうですか。
2012年の話ですが、地域間平等・住宅大臣のセシル・デュフロが花柄のワンピースを着て議会で発言しようとした際に、男性議員に口笛を吹かれた。フランスではナンパをするときに口笛を吹くんですよね。つまり、綺麗なお姉ちゃんが登場したと茶化されたんです。その態度にフランスの女性たちが怒り狂いました。残念ながらパリテ法があってもそういう人はやっぱり存在します。ですが、こうしたふるまいはフランスのメディアでも大きく報じられ、彼らは社会から厳しく批判されました。
フランスは議会のハラスメント対策が遅れていたのですが、マクロン大統領の政権になってから対策が強化されました。刑法の規定にしたがって、セクシュアル・ハラスメントを行った者は、2年間の禁固刑と3万ユーロの罰金刑に処せられるのですが、議会のハラスメントも例外でないことが周知徹底されました。これは女性議員が増えたからこそ表に出てきた問題であり、女性議員が増えたからこそ今まで仕方ないと諦めていたことに対して、声を上げることができたんだと思います。女性が4割いると、「声を上げればちゃんとすくい上げてもらえる」という信頼、安心感が生まれるんですね。
「数のパリテ」から「質のパリテ」へ
——パリテ法が制定されてからおよそ20年で女性議員の比率が40%まで上がったのは大きな成果ですが、新たな課題はあるのでしょうか。
フランスはパリテ法によって議会の「数のパリテ」は達成しつつあります。次の課題として議会の政治的権力の平等、つまり「質のパリテ」に取り組んでいるところです。
パリテは、男性中心に構成されたこれまでの政治を脱男性化するための道具だと言われていました。でも蓋を開けてみたら、男性は男性らしいといわれる外交・防衛・経済といった役職が多く、一方の女性は女性らしいといわれる教育・ケアに関する役職が多いというように、性別によって割り当てられる役割の不平等が起こっていました。また、議員の数は男女同数だけれども、議長や副議長といった議会の重要役職を男性が独占する例も見られていました。地方議会では、議会の役職を男女同数にする法律が制定されるといった動きがありますが、役職の中身についても検討し、「質のパリテ」をさらに推進していくことが求められています。
約20年かけてやっと数だけではなく、中身についても検討できるようになったんです。日本も、まずはやっぱり数を増やしていかなければならないと思います。
——日本もフランスのように変わっていけると思いますか。
もちろんです。そう願っていますし、そうなるべきだと思います。日本も男女平等に関する考え方がここ数年で大きく変わってきていると感じています。女の子向け雑誌の『Seventeen』に社会学者の上野千鶴子さんが登場して、女子高生たちの日々の悩み相談に乗ってくれるなんて、わたしが10代のころには想像できませんでしたから。東京ではわたしも市民運動に参加するなどの活動をしていますし、これからもその変化を見続けていきたいと思います。
村上 彩佳 AYAKA MURAKAMI
1990年生まれ。大阪大学で博士号(人間科学)を取得。日本学術振興会特別研究員PD(上智大学法学部受け入れ)。2019年4月からパリ第9大学訪問研究員として在籍。フランスのパリテ、日仏女性の政治参画、女性の政治参画を支援する女性市民運動について研究している。