10月4日に始まった臨時国会。開会に先立って明らかになった関西電力の「原発マネー」をめぐるスキャンダル、現場の教員や現役受験生までが反対の声を上げた英語入試問題、いっこうに内容が明かされないまま国会を通過しようとしている日米貿易協定などなど、問題は山積だ。一方で、立憲民主党は今国会から、他野党とスクラムを組んでの共同会派による国会運営に挑戦している。結党2年目の党大会で「すべての取り組みを政権交代の準備へ」と口にした代表枝野幸男に、現在の想いを聞いた。


枝野幸男が考える臨時国会のポイント

——10月4日に臨時国会が始まりました。立憲民主党にとってこれまでと大きく違うのは、共同会派の結成です。会派の結成の理由について聞かせてください。

この数年、政府はとにかく国会の議論から逃げ回ってきました。公文書の改ざんや隠ぺいもひどい。国会というのは法律をつくり、議論するとともに、政府を監視するのも重要な機能のひとつです。その意味で、現在の国会の状況は、本当に民主主義の危機なんです。このことについては、細かな理念政策で違いがあっても、野党側で想いはひとつなはず。立憲民主党が野党第一党としてリーダーシップを発揮し、野党全体で巨大な与党と対峙する構図をつくらなければいけない。そのことは、実はこの5月くらいから考えていました。

——今国会で注目している問題はありますか?

たくさんあります。もっとも衝撃をうけたのは関電問題です。いわゆる「原発マネー」の問題はこれまでも様々に指摘されてきましたが、今回は電力会社のトップ級が地元自治体から金品を受け取っていた。監督官庁である経済産業省も含めて、原子力業界の癒着の問題の根の深さを示す事件だと思います。これは冷静にエネルギー政策を議論する、はるか手前の話です。

もうひとつ気になるのは、大学入試の民間英語検定。制度開始の直前になって先日、延期が発表されましたが、どう考えてもこの制度の拙速な導入は、教育現場や受験生に大きな混乱をもたらす。誰もがそれをわかっているのに、なかなか止められない。住んでいる地域や家庭の所得によって受験状況に格差が生まれるとの指摘には、文科大臣の萩生田議員から「身の丈にあった」といった問題発言が出ています。教育行政のトップが教育の公平性を軽んじるのは、信じられないことです。

このままじゃダメだとわかっているのに、誰もブレーキを踏めずに突っ込んでいく。この二つの問題に限らず、同じようなことが、日本のいろんなところで起きているんじゃないかと思います。


——日米の貿易協定についてはどうでしょう?

これも、相変わらず何もわからないんです。政府がいまだに貿易協定の詳細な説明をしていない。それを十分な審議もなく批准をさせようとしている。これは異常なことです。従来であれば、大筋の合意がなされた時点で世の中に発表されて、侃侃諤諤な議論がなされた上で、最終的な協定が出来上がる。国益に関わることなんですから、半年から1年の時間をかけます。が、今回は中身が示されたらもう1カ月と少しで国会に批准し、すぐに発効させようとしている。

これは間違いなく第一次産業にマイナスの影響を与えるはずです。もちろん外交は相手があることなので、日本の主張が全部通るわけではない。だからこそ、たとえ譲歩した場合も、影響を受ける関連産業への対策とセットで議論されなければいけないはずです。第一次産業に従事する方々は不安だと思いますよ。


——10月には記録的な台風や豪雨による災害もありました。

災害対策のあり方というのは、これからすごく大きなテーマになってくると思います。僕も現地を視察し、そのことを痛感しました。急いで取り組まなければならないことは2つあります。

ひとつは地方公務員を増やすこと。この20年、多くの地方自治体では職員の非正規雇用化を進めてきました。結果、今回の災害でも対応にあたる正規職員が減りすぎていたことで、対応が非常に難しい局面があった。もうひとつは、災害対策のあり方そのもの。これは昨年の関西の豪雨の時にも感じたことですが、この間の河川の氾濫は支流のほうで起きている。これまで以上に、地元のニーズに沿って、きめ細かな治水事業をやっていかなければならない。


「期待と現実のギャップ」に苦しんだ2年間

——立憲民主党は10月3日で結党2年を迎えました。どんな2年間でしたか?


立憲民主党は本当にゼロからスタートした政党なので、2年前から考えると、よくここまでたどり着いたなというのが正直な思いです。しかも、最初の総選挙で、最大野党という立場を背負うことになった。今年の夏の参議院選挙でも、最大野党として政治を転換させる一番大きな期待を背負っていました。この2年間は、ゼロから始まった政党である現実と、最大野党として期待されている役割とのギャップに、苦闘した期間だったと思います。

——参院選についてはどう感じていますか?


従来ならば立候補してもらえなかったような、多様な候補者の方々に挑戦してもらいました。結果が出たところもあれば、僕たちの力不足で当選に及ばなかったところもある。どうしても組織的な体力が及ばずに、準備が不足していたことは否めません。惜敗候補の方々については、今後もご本人にその意欲があれば、継続的に活躍の場を用意し、ともに歩んでいく。これは政党としてやっていかなければならないことのひとつだと考えています。

——結党3年目に向かう中で、特に力を入れて取り組みたいことはありますか?

鍵になるのは、各地に増えてきた地方組織と、苦しい中でも支えてくださっているパートナーズの方々だと思います。一気に状況が改善することはないかもしれませんが、地域の中で、そしてパートナーズの中で、これまでの政党にはない、新たな挑戦が生まれてきている。地方組織のネットワークとパートナーの皆さんとのネットワーク、この2つを深めていくことが、3年目のポイントだと思っています。


野党第一党として、政権交代への道を描く

——今後の野党間の連携について聞かせてください。

一番大事にしたいのは、「最大公約数」。そもそも、意見が違うから別々の党なんです。だからこそ、合意できる最大公約数をお互いに模索してきた。参院選でも市民側から提出された13項目の政策協定に調印しましたが、ここから先は、そのベースを大切にしながら、国民のためにどれだけ共同歩調を取れるか、ということです。

この7年間で日本の経済も、社会も、そして政治も危機的な状況を迎えている。ここで政治を転換させなければと感じている国民のために、立憲民主党こそが先頭に立って選挙協力を進めていきたいです。


——政権交代への道筋において重要だと思うものはなんですか?

やはり優先度のつけ方です。優先度の高いことについてはできるだけ具体化していく。なるほど、枝野政権ができたらまずこういうことが起こるんだ、ということがイメージできるようにしていきたい。

2009年の政権交代の教訓も活かすつもりです。何もかもを劇的に、一度に変えられるわけではない。しかし、この危機を食い止めるために、何を優先し、どう変えていくのか、参院選では公約として立憲ビジョンを発表しましたが、今後はよりメリハリをつけ、具体的なメニューを用意しなければいけない。
その地道さこそが、政権を預けてもらう信頼につながると考えています。それは、「今の状況はまずいけど、あんまり変わりすぎても困るんだよな」と感じている人たちの安心感にも繋がると思うんです。


——この10月以降、世間では増税に関心が高まっています。税と社会保障のバランスについてはどうでしょうか?

重要なのは様々な税のバランスを考え、フェアな税制を求めていくことです。まず問題にすべきは、この間アベノミクスの恩恵を受けてきた層が税金を払っていないこと。特に大企業を中心とした法人税と金融所得課税。

もうひとつは、やはり社会保障の充実が重要です。大衆増税をしておいて、社会保障は切り捨てていく。これで国民の理解は得られない。税のバランスをとり、取るべきところから取る仕組みをつくること。そして何より政治が社会保障を守っていくという姿勢を示すこと。この2つがポイントだと思っています。

僕の考えでは、日本ではとにかく、所得の再分配機能が弱くなっていっている。格差がけしからんというだけではなくて、国民の生活を痛めつけるような政治を続けていては、日本経済がもたないんです。それはこの30年間の経済の停滞が証明しているでしょう。


「みんな自信を持って欲しい」——現在の政治は変えられる

——英語入試の問題や関電の問題、増税など、個別のトピックでは与党の動きに対して否定的な人も多い半面、なかなか野党の支持は伸びません。有権者へのメッセージをお願いします。

少し変な言い方かもしれないけれど、「みんな自信を持って欲しい」と言いたいです。「あなたが感じている違和感や理不尽は、多くの国民が感じていることなんだ」と。新聞やテレビの世論調査や、投票率が5割もいっていない選挙の結果だけ見て、「今の日本はおかしいなと思っている自分が少数派なんじゃないか?」なんて思わなくていいんです。この間の参議院選挙でも、与党に投票した人は全有権者の約4分の1です。今の政治を諦めている人たちが動き出せば、あっという間に政治は変わる。

みんな自信を失っていて、「どうせ変わらない」と諦めてしまう。その結果どんどん状況が悪くなる。この悪循環をそろそろ終わらせましょう。わたしたち立憲民主党にできるのは、現在の政治に違和感を持っている国民の方々が、期待をかけられるような勢力として野党をまとめていくことです。国民の信頼に足る受け皿になるために、新たに始まる3年目も、ひるまずに前に進みたいと思います。

枝野幸男 YUKIO EDANO

1964年生まれ。衆議院議員(9期、埼玉5区)。弁護士(第二東京弁護士会)。1993年に初当選し、日本新党の新人議員として薬害エイズの問題に関わる。その後、民主党時代には政調会長、幹事長、現行制度下で最年少での官房長官などを歴任した。2017年10月に「国民の声に背中を押されて」、たった一人で立憲民主党を結党。現在、立憲民主党代表。